現実を揺さぶる小林泰三のSFホラー【匣月世理のおすすめ小説 002】
こんにちは! 匣月世理です。
前回の【匣月世理のおすすめ小説 001】を読んでくださった皆さま、まことにありがとうございました!
また、100名もの方々にフォローいただき、感謝の念に堪えません。
引きつづき、ぜひとも一読いただきたい作品を紹介していきます。
お楽しみいただけますと幸いです!
No.002 『酔歩する男』
著者は小林泰三(こばやし・やすみ)。
1995年に『玩具修理者』で第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞し、翌年に単行本デビュー。2020年に亡くなられるまで、SF・ホラー・推理などの幅広いジャンルで活躍し、数多くの傑作を生み出しました。
近年では、2013年に出版された『アリス殺し』から連なる〈メルヘン殺し〉シリーズなど、書店で目にされた方も多いかと思います。
本記事で紹介する中編小説『酔歩する男』は、記念すべき単行本デビューとなる短編集『玩具修理者』のために書き下ろされた作品です。
あらすじ
気の合う仲間との飲み会のあと、店に一人だけ残されて、タクシーを待っていた血沼壮士(ちぬ・そうじ)は、どこか気味の悪い男から「わたしを覚えておいでじゃありませんか?」と話しかけられる。
まったく心当たりがなく、小竹田丈夫(しのだ・たけお)という名前にも聞き覚えはない。しかし、男は「大学時代の親友だった」と言って、血沼の名前や誕生日をすらすら答えるばかりか、家族にも知られていないはずの秘密を言い当ててしまう。苛立った血沼は、小竹田に説明を求める。
――血沼に気圧された小竹田が話したのは、二人と菟原手児奈(うない・てこな)という女性をめぐる、まるでSFかホラーのような荒唐無稽な物語だった。
大学時代の親友だった血沼と小竹田は、三角関係の末に、自殺にも思える悲惨な事故で手児奈を亡くしてしまう。手児奈を助けるという妄想に囚われた血沼は、小竹田に「医学部で手児奈を助ける研究をやってくれ」と命じる。
三十年が経ち、医学部の教授になった小竹田は、血沼から「粒子線癌治療装置を使わせて欲しい」と頼まれる。何時間も懸命に懇願する血沼を見ているうちに、それで彼の魂が救済されるなら、職を失ったとしても構わないと感じた小竹田は、病院に嘘をついて装置の使用許可をとりつけるのだった。
感想・コメント
小林泰三に出会ったのは大学生の頃。おすすめの小説を紹介する2ちゃんねるのまとめ記事を見て、ハヤカワ文庫 JAから出ている『海を見る人』という短編集を手に取ったのが最初です。
小林泰三は、サイエンス要素の強いハードSFから、間の抜けたコメディSF、超人的な登場人物が織りなす推理モノ、ぬちゃぬちゃと纏わりつくような気持ちの悪いホラーなど、作風の幅が広い作家です。今後、ほかの作品についてもおすすめ記事を書きたいと思っています。
今回の『酔歩する男』は文庫本で約170ページほどの中編小説で、角川ホラー文庫から出ている『玩具修理者』に収録されています。第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した表題作も面白いのですが、私は『酔歩する男』にがっつりハマってしまいました。
ジャンルをつけるとしたら「SFホラー」でしょうか。時間遡行などのSF要素と、不気味で得体の知れない存在(現象)が迫ってくるというホラー要素が入り混じった作品です。時間や意識に対する常識が崩れ去り、私たちの現実が揺さぶられるような感覚に陥ります。
上述の「あらすじ」はまだまだ導入です。血沼と小竹田、そして、菟原手児奈は、いったいどうなってしまうのか? タイトルの「酔歩する」は、何を意味するのか? ぜひご自身で結末をご覧になってみてください!
難しい数式や理論はでてきませんので、ハードSFは苦手という方にもオススメの作品です。小林泰三の世界に酩酊してみてはいかがでしょうか?
*最終更新日 2024/10/20
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