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『英語独習法』(今井むつみ著)から学んだ三つのこと 62歳からのロシア語№31
挫折寸前でかろうじて続けているロシア語学習。ときどき、第二言語習得に役立つ本を読んで参考にしている。
たまにこのような本を読むと、学習から脱落するのを防ぎ、ふらふらしながらも、あるいは細々と、かろうじて続けられるのが不思議だ。
やはり専門家が書く本は違うな、と思ったのが『英語独習法』(今井むつみ緒 岩波新書)である。認知科学の専門家である著者が、認知科学で知られている学習の法則を外国語学習に当てはめたのが本書である。
正直言って、私がこの本に書かれたことをすべて理解しているといえばうそになるのだが、なるほどと思ったことが三つあるので、今後のロシア語訓練に役立ててみたいと思う。
「スキーマ」という最重要概念・・・頭がくらくらする
この本のポイントは、「スキーマ」という概念の重要さを示していることだろう。
≪子どもや外国の人がヘンなことばの使い方をすれば、大人の母語話者はすぐにヘンだとわかる。しかし、自分がなぜそれをヘンだと思うのか、わからない。
母語のことばの意味を説明してくださいと言われたときに、ことばで説明できる知識は、じつは氷山の一角で、ほとんどの知識は言語化できない。
これは、自転車に乗れても、脳にどのような情報が記憶されているから自転車に乗れるのかが私たちに説明できないのと同じことだ≫(27ページ)
私はこのくだりを読んで、あたまがくらくらした。ああ、私がいつまでたってもロシア語を普通にしゃべれないのはこれだよな、と思った。
氷山の水に隠れている部分がスキーマである。言語化しにくいものなので、正直言ってむずかしい。
しかし、せっかくお金を出し時間をつかって読んだのだから、自分のために役立てない手はない。この本を参考に私がすでに実行していること、これから実行したいと思っていることを整理してみたい。
1,辞書の精読ーーー読み物としての辞書
まず、辞書を丁寧に読むこと。読んでいるものやYouTube動画の文脈に照らし合わせて、どの語義がぴったりするか知る。ついでに辞書を読みながら、文法の確認もする。
辞書に書かれている例文を軽く音読することも時々はやるようになった。
なんでこの文章では動詞Aを使っているんだろう? 動詞Bじゃいけないんだろうか? と思えば、動詞Bを辞書で調べてみる。これは暇があるときだけ。
このような辞書の読み方をするようになった。
2,自分がよく知っているテーマのYouTube番組を視聴する
日本語で知っている知識や体験などによって知らず知らずに得られているものも、スキーマの一部かもしれない。
誰でも体験していると思うが、自分がよく知っている事柄や関心のあるテーマだと、学習言語の音声を聴きやすく理解しやすい。
私の場合だったら、チェチェン独立派がウクライナ国内で軍を再建したときの記者会見映像(YouTube)とか。ロシア語があんまりわからず語彙も少ないのに、ある程度まで理解できた。
また、ウクライナを守るためにで父と息子で戦うチェチェン人義勇兵のインタビューなども比較的分かりやすかった。
それは、話の背景にあるもの(直接話していない出来事や事情も含めて)を私が知っているために、理解しやすかったということもあると思う。
それから、日本語で読んだ文学作品や映画化された作品にも触れるようにしている。
たとえばトルストイのアンナ・カレーニナ。日本語で2回読んだし、映画も5種類くらい、つまり5人の女優が演じた作品を観ている。
さらには、原作や映画製作秘話などの番組も見たことがある。このような事前知識がいろいろあるから、内容を理解しやすい。試しに『アンナ・カレーニナ』の1967年ソビエト版をYouTubeで見てみた。
やっぱり難しかったが、日本語での知識がある程度あるから、とっつきやすいことは確かだ。
有名なセリフも知っているから理解しやすい。とはいえ、ヒロインのアンナを演じたタチアナ・サモイロワのロシア語が早すぎてついていけなかったが・・・。
いま例に挙げた、ウクライナのチェチェン義勇兵やアンナ・カレーニナは、この本に書かれている”スキーマ”にも関係しているのだろう。
★ここから先は、まだ実施していないが、本に刺激されてやってみたいことである。★
3,文章の熟読と映画の熟見
この本で提唱されている「熟読」。じつは、私はYouTubeや映画を観ることはあっても読書は少ないので反省し、今後は時間があればやってみたい。
提唱されているのは、ざっとこんな手順だ。
「熟読」
●ざっと一読してわからないことや単語を推測する。
●マークした単語を辞書でしらべ、推測していた意味が正しいかどうか調べる。
●辞書を引くときは最初の語義だけでなく最後まで目を通し、どの語義がその文に当てはまるかを確かめる。
●そしてもう一度読み返し、辞書に書かれている意味がほんとうに文脈に合っているかを吟味する。
「映画の熟見」
お気に入りの映画のセリフの一言一言を正確に聴きとれるようになるまで何度も見る。前述した「アンナ・カレーニナ」はざっくりとYouTubeで見ただけで熟見はしていない。本書が進める映画の塾見の手順は以下のとおり。
●字幕なしでその映画を通して観て、自分の学習言語レベルにあっているか見極める。スキーマを補えば字幕なしで何とか分かるレベルで自分が好きな映画なら、すべてのセリフを聴きとれるまで何度も見る。
●最初は日本語字幕付きで何度か観る。このとき聞き取れない部分をチェックし、その部分を繰り返し見る。
●それでも聞き取れない単語やフレーズがあれば、学習言語字幕に切り替える
最初に日本語字幕つきで観ることには理由がある。日本語字幕があると内容を理解でき、意味を理解しようとする認知の負荷が減る。そして軽減された情報処理のリソースを単語一つ一つを正確に聴きとることに振り向けられる。
・・・・というような趣旨を著者は述べている。なるほど。この映画の塾見。まだやっていないが、少し時間的余裕が出たら『アンナ・カレーニナ』で実戦したみたいと思う。
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