0→1のインサイドセールスにおける在り方と拡大解釈
はじめに
こんにちは、奥泉と申します。
現在RightTouch社にてマーケティング、インサイドセールス、セールスの上流接点に関わっています。弊社は「KARTE」を提供するプレイドグループから分社化したスタートアップで「RightSupport by KARTE」「RightConnect by KARTE」「KARTE Talk」等のプロダクトを開発・提供しております。
私は1人目のマーケティング・インサイドセールス専任としてジョインし、立ち上げから組織推進・ファネル創出を日々行なっています。入社してから1年弱が経ち、現在までやってきたことやインサイドセールスの在り方についてまとめてみましたので、「インサイドセールス」に携わる端くれとして現在の取り組みが誰かのお役に立てれば幸いです。また、マーケ〜セールスに関わるメンバーを大募集しておりますのでもし興味あれば気軽にメッセージください。
簡単な自己紹介
前職では一貫してインサイドセールスに携わっており、
・SDR〜BDR
・Small-Mid〜Enterprise
と幅広い施策を幅広い顧客層に届けておりました。大手企業様に対してインサイドセールス組織体制構築の提案もしていたので、自社商材も自社内役割でも「インサイドセールス」に深く携わっていました。
当時はいわゆる分業体制のインサイドセールスにどっぷり浸かって活動をしていたのですがある時、インサイドセールスには改善できるポイントがありそうだな、と考え始めます。
従来のインサイドセールスに対する改善
1.分業体制化のインサイドセールスは視野狭窄になりがち
端的にいうと、分業体制化でインサイドセールスをしていた際、自身がビジネスの全体感を掴めず業務をサイロ化させてしまっていました。
例えば、アポ獲得だけに目がいってしまい、売上に繋がっていないことに気付かないケースもよくありますよね。
この分業によるサイロ化現象について紐解く際には、経済学者アダム・スミスの『国富論』の一説がわかりやすいかと思うので引用させてください。文中では鍛冶屋職人の分業体制の事例が引用されています。
リード流入から受注までをインサイドセールスからフィールドセールスとして分離させて個別最適を図る思想はその際たる例として挙げられます。そして、分業した領域に多種多様な業務効率化のためのテクノロジーが多数存在していることも事実として存在します。
上記は経済学において有名な「神の見えざる手」の一説ですが、噛み砕いて解釈をすると、個別最適の最大化を考えていくと、自然と「神の見えざる手」に導かれ、全体最適と利益に繋がることの例を示しています。
要は、分業体制を敷いて各人が自由に動いていたとしても「神の見えざる手」により全体の利益目標達成に繋がっていく状態です。
SaaS企業でいえば、Revenue Managerや事業責任者が全体弁を調整する「神の見えざる手」を行使する役割を担っていますが、逆に分業体制化にいるメンバーレイヤーは全体感を掴むことができずに視野狭窄に陥ってしまうケースも少なくありません。自分も例に漏れず該当していました。
逆に、「見えざる手」を全員が持つビジネス組織は強固であるし、「見えざる手」を行使できるインサイドセールスになったらもっと面白いのでは?と考えていました。
2.そもそも事業貢献ポイントにインサイドセールスはタッチできていないのでは?
SaaSビジネスに関わるビジネスメンバーの事業貢献ポイントとして、主に以下の3点が挙げられるとかと思います。(あくまでも個人の意見です。)
売上に繋がる
専門性
顧客の課題に触れる
SaaSビジネスでいえば
・大型のディールをクローズできるエンタープライズセールスは価値が高い
・当然良いサービスを作れるエンジニア/ファイナンス/マーケティングに関わるメンバーは専門性も高いし重要
・顧客の深い課題をヒアリングし、貢献できるカスタマーサクセスは事業の要である
…などなど。
では、インサイドセールスはどうか。ストレートにいうと、この3点を満たせていないのが現状でした。
・アポイント獲得と受注では1件の重みは違うし、売上貢献がなかなか見えづらい
・「アポイント獲得」「SFAの操作」「リスト作成」などの業務も専門性が高いとは言い難い(あくまで他の部門と相対的に比較した際です)
・「顧客の課題」に触れようにも、電話できるのは長くて10分弱なので浅い課題になりがちで深掘りができない
などなど。どうにかしてこの状況を抜け出し、構造から変えていかないと事業貢献できないと感じていました。
上記2点の構造をどのように変化させていくのか?を思考しながら2023年の2月にRightTouchにジョインし、1人目のインサイドセールスとしての立ち上げを実施させていくことになります。
RightTouchの事業における新たなインサイドセールスの形を模索する
RightTouchの事業戦略の現在地
RightTouchは「Webサポートプラットフォーム」としてカスタマーサポート/コールセンター領域の皆様へ価値を提供しています。
詳しい事業の成り立ちやマーケットの課題感の全体像は代表長崎のnote を読んでいただければと思いますが、端的にいうと、現在は顧客ターゲットを絞っており、エンタープライズ企業の一部産業をメインターゲットとして活動をしています。
すなわち、一般的なSaaS企業では珍しい以下のような特性が挙げられます。
エンタープライズのお客様にリリース初期からGo To Market(自社の商品やサービスを届ける特定のターゲット企業を定めアクションをすること)を仕掛けている
コンパウンドスタートアップ型を目指して複数のプロダクトを連立的に開発・提供する
上記2点が全体の戦略として存在しています。
直近でも多くのエンタープライズ企業様に採択をいただいていますのでその一部を紹介させてください。
▼顧客行動の「なぜ」を多角的に分析し、自己解決を促進。JCBによるKARTE RightSupport活用法|RightTouch Meetup vol.1
▼顧客の課題発見から施策まで部署内で自走可能に。内製化を実現したみずほ証券のRightSupport by KARTE活用
インサイドセールスの定義を変える
私がRightTouchにジョインした2023年初頭のビジネスメンバーの数は9名。
そのうち、マーケティング〜フィールドセールスまでを担当するメンバーは私を含めて4名しかおりませんでした。その状況のなかで電話してアポ取って、、、だけをやっている余裕はない。
上記の視野・視点を複合的に捉えて鳥瞰することが重要である、ということに入社してすぐに気づきます。具体的には、単純なインサイドセールスとして目先にあがるアポイント獲得をプレイヤー視点で進めるだけでなく、 売上やプロダクトにも目を配り、事業/プロダクトの視点、マーケット全体を見る視点を持つ必要があります。この気づきを踏まえて、「やること」と「やらないこと」を決めました
やらないこと:自分自身で架電をする
私自身はインサイドセールスの役割を持ちつつここ1年間架電をしていません。入社1週間以内だけ50件/日ほど架電をしてカスタマーサポートに従事する顧客の雰囲気や刺し口の見極め・マーケット感覚を掴む目的で実施をしましたが、それ以降は一切やっていません。
これはかなり驚かれるのですが理由は2つあります。
「架電」はSaaSのビジネス活動のなかでも型化がしやすく、型化をすることでアウトソースしやすい
現状のインサイドセールス従事者の方を一切腐す訳ではなく、「架電」の目的である「顧客に価値を感じてもらい1時間のお時間をいただく」ことを果たすための要素・変数は他のビジネス活動に比べると非常に少ないです。
RightTouchのインサイドセールスではアポイント獲得のフローをドキュメントにまとめています。以下にその例を挙げます。(本当はNotionを掲載したいのですが機密も含むのでテキストでの抜粋とさせてください。)
▼商談が獲得できる際の顧客のパターンは3つ。この掛け合わせ。
1. 興味喚起
- 面白そうな事例あるな、同業他社の取り組み聞きたいな/面白そうなサービスだな
2. 課題の顕在化
- 我々の課題は今取り組んで解決するべきだな
3. 人的興味
- この人がそんなに熱心に進めてくれるなら話を聞いてみよう!
▼顧客の課題分類
- 以下のKPI・困りごとを抱えている可能性が高いのでどこが刺さるか?を思考しで架電
1. 問い合わせ量削減
- KPI:コール数削減
2. オペレーターの応対時間削減
- KPI:平均通話時間(ATT)削減
3. サイレントカスタマー救済
- KPI:流出顧客救済による売上/CV増加
- 4. 体制構築(サクセス・サポート組織体制構築)
5. カスタマーサクセスによるテックタッチ実践
- KPI:オンボーディング完了率 & 顧客ログイン率
▼話すべき事例
例えば、エン・ジャパン様事例(人材SaaS系)は以下の要素を話す設計に。
- [対象の明示] エン・ジャパン様が提供する「engage」での活用事例です
- [端的な取り組み紹介] 顧客の自己解決を促し、そもそも問い合わせをせずに済むような改善に取り組みました
- [具体的な取り組みと成果] ログインエラーが出たユーザーに対して、RightSupportにて施策を出し、問い合わせ率を25%ほど削減できました
上記は一例ではありますが、通話時間は平均7分、会話ラリーは20-30ほどであるため、架電業務は分解していくと勝ちパターンが見つかり、安定してアポイントを供給できる仕組み作りの機会が存在しています。
私自身は入社直後から架電をしていくなかで勝ちパターンを見つけることができ、それ以降はいかにスケールさせられるか?を考えていました。
2.「アポイント獲得」含めてセールス代行を実現できる素敵なベンダーさんがたくさんいる
Twitterのなかでもさまざまな代行ベンダーさんがいらっしゃいますが、弊社は相川 雄輔さん率いるSkilled Workers株式会社様にご依頼をしています。
アポイントを取り切るだけではない高い目線で仕事をしていただいています。架電を代行するだけでなく私たちと同じ目線を持ってくれるベンダーさんがいたので安心して依頼することができ、私自身は戦略作りや設計側に回ることができました。気になる方はぜひ相川さんのTwitterをご参照ください。
そして戦略作り、設計において最も重要だと考え実行したことを以下で書いていきます。
やること:ターゲティングとそれに基づく施策作り
全てのビジネス活動はターゲティングに依拠する
マーケティング施策もセールスの提案もカスタマーサクセスもプロダクト開発も、全てはターゲティングに紐いており、とりわけインサイドセールス活動の肝はターゲティングであると強く信じています。
ターゲット(Who)が定まることで獲得施策(What)が想起され、結果チャネル(How)が決まる。全てのビジネス活動が動き出す。
先述した以下の視野・視点を広げた活動をする上で、視野狭窄になりやすいインサイドセールスがターゲティングを担うことが重要なのでは?と思うようになります。
エンタープライズ顧客×特定業界を定めていた弊社(RightTouch)でも活動において改善できるポイントがありました。
それが、「演繹的ターゲティング」と「帰納的ターゲティング」の使い分けです。
当時のRightTouchのターゲット選定方法は下図左の「演繹的ターゲティング」を元に実施していました。すなわち、マーケットの市場データからターゲットを選定する方法です。弊社のビジネスドメインはコールセンター領域であるため、例えば「コールセンター白書」のコールセンター規模データなどを元に狙うべきターゲットを定めていました。大手企業開拓を実施する上では演繹的に規模の大きい市場を選定する必要があります。
一方で忘れてはならない観点は、上図右の「帰納的ターゲティング」です。これは、現場で集めた顧客の課題や生の声を抽象化し、全体戦略に還元していく思考法です。インサイドセールスは特に顧客と触れ合う機会が多いため声を集めやすい。重点ターゲットを攻めつつ、それ以外でオポチュニティがある市場開拓をしていくことも重要であるため、帰納的に顧客のニーズを拾い、ターゲットを拡張することにセンターピンを定めて活動を開始しました。
ターゲットの再定義
帰納的なターゲティングを実行することを念頭に置きつつ、まずはターゲットの再定義を行いました。
弊社のサービスは
・RightSupport by KARTEがサイトの規模
・RightConnect by KARTEがコールセンターのオペレーター席数
に依拠する課金であるため上図のように横軸と縦軸を設けてターゲットを設定し、3つの定義を実施しました。
ABM119社
RightTouchのメインターゲット
SOM
ABM119社ほどではないがオポチュニティがある業界・企業群
SAM
上記以外の業界・企業群
ABMはいわゆるど真ん中のターゲットとして創業当初から存在していたターゲットであり当然開拓をしていく。しかしながら「SOM」と呼ばれる一定可能性がある企業も当然多いためこのセグメントの開拓も実施をしていくべきです。(現在は週に1回のBiz定例でもセグメントへの進行度合いの振り返りを実施しています。)
そして、ターゲットの定義が定まれば自ずと施策にも落ちてきます。
ターゲティングを元に施策を決める
ターゲットが決まったら次に施策を選定していきます。
施策はターゲットの進行度合いによって変化しますのでまずは現状を定量的に可視化していきます。
業界を設定し、
・全体の社数
・受注数
・商談数
・リード数
を設定してカバレッジを把握していくと、自ずと行うべき施策も決まっていきます。整理すると以下のような施策分類が可能です。
商談多×リード多
深耕が進んでいるので現在商談のクローズを優先する
マーケティング投資は踏まない
商談少×リード少
リードないのでアウトバウンド施策+マーケティング施策優先ゾーン
基本このセグメントに沿った施策実行を目指していく
商談少×リード多
リードは取れているけど商談化できていないので優先的にナーチャリングしていくべき
リソースも限られているため、商談×リードの多寡で施策を決めていくとスムーズにいきやすいです。具体的な施策の話は別途noteやイベントでお話ができればと思うのでここでは割愛しますが、例えばアウトバウンド施策では「Saleshub」や手紙施策をメインで実施しています。
SOM:帰納的なターゲティングのための顧客の声集め
無論、前述のような施策を実施していくなかでABMに該当しない企業・業界の方々と面談の機会をいただくことも少なくありません。そのなかから弊社が価値提供できそうなターゲットも発見していきます。
また、インサイド「セールス」なのでターゲティングのための声集めだけでなく、自分で商談してクロージングまでも実施します。少し前までは、「SOM」の定義にあたりABM以外の商談は私一人で担当をしていました。
お客様の課題をヒアリングし、提案を実施していく。シンプルですがその過程でこの業界は攻めるべき!という像が見えてきます。
例えばある時、ケーブルテレビ業界の企業様の案件が増えてきました。ケーブルテレビ業界の企業様とお話をしていくなかで各社共通する課題感として以下が見つかりました。
ケーブルテレビ業界のカスタマーサポートでは
の2つのニーズを持つお客様がいらっしゃいます。①のような契約変更・故障申込などのお問い合わせを削減するための施策を実施したい一方、②のようなTVチャンネル/加入関連への申し込みCV向上ニーズも存在しています。
ケーブルテレビ業界は、通信回線と付随サービスで利用料金を得るビジネスモデルであり、ARPAの向上が重要です。すなわち、「ARPAを上げつつ問い合わせも削減したいというニーズの両立」が重要となることが商談を通じてわかってきました。
RightSupport by KARTEではお客様のWebサイト上でのサポートを実施することができるのですが、上記のような課題への価値提供は得意領域であるのでSOMとしてしっかり狙うべき業界に定めていこう!と顧客の声を元に帰納的に意思決定しました。
SAM:ABMでもSOMにも該当しない企業様からも事業のタネを探す
当然、現在弊社が注力して向き合えていないお客様もいらっしゃいますし、現状のプロダクトラインナップでは課題に適した価値が提供できないお客様もいらっしゃいます。そのような場合でもお客様の貴重なお時間をいただくなかで業務ヒアリングを実施し、「どのような機能があれば価値提供ができるか?」を書き留めています。以下は一例です。
上記のようにどのようなお困りごとがあるのか、状況(As-is)をヒアリングした上で機能開発のタネを探したりもしていきます。あるプロダクト機能があればSAM→SOMになる可能性もあるため、しっかり集めていきます。今は機能が足りず価値提供ができない企業様だとしても、ある特定機能の開発がなされればターゲット企業になる可能性もあるため、全ての顧客接点を無駄にせず、しっかりと社内でフィードバックを上げていくことも重要な視点です。
アポイントログからタネを探す
そしてこのログを2週に1回、事業責任者を交えて見つつ、事業のタネを探したり、SOMに上げられる業界はないか?のディスカッションを実施しています。
インサイドセールスのコーラーさんは市場の顧客と最も近い存在でもあるため生の声をしっかりと生かしていける仕組みを整えています。
終わりに:「インサイドセールス」の拡大解釈
「ターゲティング」は事業責任者がメインで持つ役割かもしれませんし、「インサイドセールス」といいつつセールスもマーケもサクセスも何でもやっている私は一般定義から見ると少し異質に映るかもしれません。
しかし、RightTouchの現在地ではより大きいマーケットの課題を解きにいっているため、役割を絞ったり視座を低くしている場合ではありません。
従来的なインサイドセールスでは、事業やプロダクトをどのように伸ばすのか?を俯瞰して考えず、「アポをいかに取るか?」「受付突破するか?」のような単純な実行作業に終始してしまうケースも少なくありません。
そこで、「インサイドセールス」を「アポ獲得の兵隊」から解き放ち、「市場とプロダクトを俯瞰的に見ることのできる事業責任者」へ拡大解釈することが必要になると考えています。
ビジネス全体の俯瞰、ビジネス全体にインパクトをもたらすことのできる「神の見えざる手」を用いて、大きなマーケットにチャレンジしていこうと思います。
また、より施策まわりの具体的なお話は1月19日(金)にイベントにてお話ができればと思います。ユーザベースさんのオフィスで開催しますのでご興味ある方はぜひ以下リンクよりお申し込みください!
▼【Inside Insight主催#9】プレイドグループの新規事業立ち上げを推進したインサイドセールスとは?
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
ぜひRightTouchのこと、インサイドセールス・新規事業立ち上げについてディスカッションしたいなど、気軽にお話もできればと思ってますので、気になる方はぜひカジュアルにお話ししましょう!
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