人生の半分はゲームでできている #2〜「こんや 12じ」が来るのがこわい
本連載「人生の半分はゲームでできている」は、筆者のゲーム人生を振り返るエッセイです。
#1はこちらです。
小学校低学年…「こんや 12じ」が来るのがこわい
ゲームは立派な教材だった
小学生になると同時に、我が家にスーパーファミコン(スーファミ)がやってきた。
低学年の頃は難しいゲームが多く、満足にプレイできないものばかりだった。
ドラクエ5は序盤のお城のお化けが倒せない。
ゼルダの伝説は草を刈ることしかできない。
マリオカートでは、レインボーロードで必ずジュゲムに吊り上げられる。
それでも小学校に上がったばかりの私にとって、ゲームは教材のひとつだった。
ドラクエ5で漢字の読み方を覚えたり、専用のマウスがついたお絵描きゲーム「マリオペイント」でしょっちゅう絵を描いたりしていた。
マウスで絵を描くなど途方もない話に思えるが、マリオペイントにはお世話になった。
後に中学校のパソコンの授業で、マウスで弘前城を描いたときはちょっと褒められた記憶がある。
Windowsにデフォルトで入っている「ペイント」で描くなど、今では嫌がらせでしかない。
ゲームを通して仲良くなったクラスメイトも何人かいた。
放課後はよく友だちが家に遊びにきて、座敷の小さいテレビとにらめっこしながら夢中でコントローラーを握っていた。
なぜマリオカートは、曲がるときに身体も傾ける人種が存在するのだろう。
ドラクエとFF
またドラクエだけでなく、ファイナルファンタジー(FF)シリーズを連続して買うようになった。
ファミコン版でも3は我が家にあったが、本格的にプレイしたのは4が初めてだった。
なかでも好きなのが5で、ドラクエ3と同じく多種多様なジョブ(職業)を選べるのがたまらなく楽しかった。
衣装を見るのも好きで、なぜか攻略本で特定の部分ばかりを眺めていた。
仲間キャラのレナの、靴がヒールになっている衣装。
普段は男の装いをしているファリスがヒール靴を履いていると、「やっぱり女の子なんだな」とさらに心が躍った。
どういう趣味だったのだろう。
一方で、引き続きドラクエの「おきのどくですが~」に怯える日々だった。
何せ、夢でも同じ光景を見てしまうのだ。
風邪で寝込んだとき、マリオの9面みたいな世界でギガンテスに追いかけられる夢よりもいやだった。
しかし、上には上がいる。
サウンドノベルゲーム「かまいたちの夜」である。
死因:スキーのストック
ストーリーは、主人公の透がガールフレンドの真理と泊まりに来たスキー場のペンションで、殺人事件に巻き込まれる模様を描いている。
後にドラマ化もされた。
ゲームで小説を読み、推理をしながら殺人事件を解明していく作品として人気を博したが、私は父が買ってきたこのゲームがとにかく怖かった。
まず、禍々しい赤いフォントのタイトルパッケージが嫌いだった。
家では必ず見えないようにしまい、ゲームショップで見かけても直視しないようにした。
フォントは確か、古印体だ。
血文字に見える、なんかやな感じのフォント。
ゲーム中の殺人予告「こんや 12じ だれかが しぬ」の通り、夜中の12時まで眠れないと何かが起こる気がして、布団で身体を縮こませていた。
階段を昇ってくる音がすると心臓が落ち着かなかった。親が寝室にいくだけなのに。
話に没入させるためか、登場人物は全て群青色のシルエットで表現される。
真理の悲鳴を聞きつけ扉を開けたら、犯人のシルエットが画面いっぱいに映ってグロテスクな音が鳴る。なんで透すぐ死んでしまうん?
恐怖はつきまとう。
家族で食事に出かけた車中でも不穏なBGMが蘇り、しまいには父の寝息すら「かまいたちの夜」のBGMに聴こえる始末だった。
極めつけは、マルチエンディングのうちのひとつだ。
ゲームへの好奇心が勝ってしまったのか、あるとき父のプレイを見ていた日があった。
早い段階で犯人を当てるルートに入らないと、殺人事件が連続で起こり、次々と登場人物が死んでいく。
もはや目ぼしい容疑者すら見当たらない、ぐだぐだした展開になってくる。
すると矛先は主人公の透に向き、真理を含めた女性陣から一斉に警戒される。
結末はというと、真理に犯人と疑われて殺されるのだ。
スキーのストックで。
黒い画面を、ダラダラと赤黒い血が覆っていく。
後味も最悪だったが、「スキーのストックが凶器になる」のが衝撃的だった。
学校でスキー授業のたびに、ストックを持つとあのエンディングが頭をよぎって、絶対に人に向けないようにしていた。
いい大人になっても、傘の先端を嫌悪し、「刺さる」という表現を冷視しているのは、真理がスキーのストックで刺してきたせいではないだろうか。
幸い20代になってから「かまいたちの夜」がアプリゲーム化された際、妹が真犯人を暴いたのを見て一切のトラウマは緩和された。
久保田俊夫という登場人物を見て、「これ絶対久保田利伸から取ってるよね」と笑い合うくらいには。
◇
その後も「クロノ・トリガー」や「MOTHER2」、「不思議のダンジョンシリーズ」など、スーファミ黄金期のゲームを繰り返しプレイした。
だがやはり、古びた廃墟のネズミを捕まえられない。
ゲームセンターの全身タイツの不良が近寄ってくると逃げる。
うっかり攻撃が空ぶって死に、ももんじゃに空気階段鈴木もぐら……でなくトルネコが蹴り出された。
プレイングが苦手なまま小学校高学年を迎えると、私は2作の忘れられないRPGと出合うことになる。
◇
本エッセイは連載形式で更新予定です。
今後のおおよその内容は下記をご覧ください。
更新ごとに随時リンクを貼ります。
※ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリーからお借りしました。ありがとうございます。
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