見出し画像

私の肺の中のギズモ

「はい、肺炎ですねー」

10月に入って3件目に訪ねた病院で、40代ほどの男の先生がCTスキャンの映像を指した。

腹の中の断面は全く萌えない。
左右の黒い部屋の下部で、診察室の壁より白いうねりが気体のようにうごめいていた。

白いうねりは、ドラゴンクエストに出てくるもくもくしたモンスターによく似ていた。
肺の中に、ギズモがいる。

先生は「この白いのが肺炎ですねー」と述べ、胸部のレントゲンでは分かりにくい、背中側にできているのだと説明してくれた。

肺炎かあ。
ここまで悪化するとは思わなかった。
ほんの10日前、2件目の病院で撮った胸部のレントゲンは誇らしいほど澄み渡っていたのに。

事の始まりは10月上旬だった。
先に咳が続いていたのは息子だった。
ある日の夜中、息子の咳き込みをベッドの隣で盛大に浴びてから、私の咳は日を増すごとに増え、激しくなっていった。

顕著だったのは脂っこいものを食べた時だ。
気分転換にドライブへ出かけ、中華屋で食べたチャーハンを帰宅後に戻し、肺炎と通達される前日は大好物のカレーを食べた後激しい咳とともに(以下略)。

2件目に訪ねた内科では、咳ぜんそくかウイルス性のどちらかと言われ、依然はっきりとしていない。
あまりにも消耗していて、咳ぜんそくの検査を先送りにしてもらったためだ。

コロナ禍におけるマスクの着用で免疫力が落ちたのか。
それとも自分自身の年齢のせいか。

問診表を渡されるとたいていセットになっている、ジェットストリームのボールペンで自分の年齢を書くたびに、身体は確実に老いていると現実を突きつけられる。

「どうすれば良くなりますか?」

先生に尋ねる。
子供じみた質問だが、何せ人生初の肺炎だ。薬を飲む以外の過ごし方を知らない。

「たくさん栄養を摂って、よく寝ることだねー」
ここの先生はいつもつっけんどんな喋り方をする。
だが、コロナやインフルの度にお世話になっているし、ギズモを見つけてくれた先生だ。それが真実なのだろう。

実際、「肺炎になったら」と検索すると、栄養・睡眠以外は水分を多めに摂り、安静にしている程度しか書いていない。
肺炎は長期戦なのだ。

「肺炎は安静にしていること。ゲームしたり、根詰めたりするとそれだけで負担かかるから」

帰宅後、幼少期に肺炎で入院経験のある夫はそう断言した。
どの程度が安静かというと、外出はもちろん禁止。
ゲームや長時間の作業はおろか、洗い物を手伝おうとすると制止された。

「動かないほうがいい。あちこち動き回るとその度に呼吸して負荷がかかるから」

特に何もなければ、なるべく横になって休むのがよいと夫はいう。
実際、週末に2時間ほど記事用の書きものをしているだけでも頭がぼんやりし、脳の上半分が乾いているような感覚を覚えて寝室に向かった。

薬や吸入薬を服用していても日ごとに容体は異なり、食べたものによっては激しい咳と嘔吐に見舞われる。
そうでなくても時折喉に違和感を覚えるとうずくまって咳き込む。
落ち着いてきたと思って寝ても、鼻水が下りてくるためか夜中から明け方にかけて咳を繰り返す。

私の肺の中のギズモはいつ消えてくれるのだろう。
水分と栄養を摂り、安静にしてたっぷり寝る。
この4つを粛々とこなせば、あの白いうねりはやっつけられるのだろうか。

せめて雪が降る前には、この話を笑って外で話したい。
美味しいカレーでも食べながら。


※ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリーからお借りしました。ありがとうございます。

いいなと思ったら応援しよう!

おおやまはじめ/手帳と暮らしのライター
サポートをいただけましたら、同額を他のユーザーさんへのサポートに充てます。

この記事が参加している募集