「肝」は「将軍」「疲れを取る臓器」「怒り」「筋を主る」【新訳五臓六腑解説⑤】
「肝」の解説です。
「肝」は「疲れを取る臓器」
「肝臓」と聞くと、多くの人はきっと「アルコール分解」と頭の中に思い浮かぶはず。
私も、日々人のからだを診ていて「これは肝臓の症状ですね」とお伝えすると、「えっ、お酒はまったく飲まないんですよ」という答えが返ってくる経験がよくあります。
東洋医学的には、肝臓は「疲れを取る臓器」という側面があるんです。
血を一旦肝臓にため込んで、肝の働きによって濁った血を浄化し、デトックスをするようなイメージ。
寝ても寝ても疲れが取れない場合や、夜寝ている間に夢をたくさん見るなどの場合、肝臓が疲れているかもしれないのです。
「血」を蓄えている
肝は、血を蓄えている臓器で、通常、からだを動かしていない時は、肝臓に血を蓄えていて、例えば運動をして手足を動かしている場合、必要な場所に必要な量の血を送る働きがあるんです。
足が頻繁につってしまう症状がある場合、必要な箇所に必要な量の血を送れなくなっているのかもしれません。
どこに、どれだけの血を送ればからだが円滑に機能するのかを考えるのが「肝」の働き。
「肝」のイメージは「将軍」
また、将軍として、からだの内側に入ってきた邪気や、ストレスに対してどのようにして戦えばいいのか、戦略を立てる働きがあります。
イメージなのですが、ストレスを感じた場合、肝はある一定「張り」を作って、糸をピンと張ったような緊張状態を作ります。
この張りによって、ノーガードで邪気やストレスを受けずにすむというか、楯を作るというか、あらかじめ壁を作ることによって、からだの内側を護る作用があるんです。
みなさん、一生懸命仕事をして、ゴールデンウィークや、夏休みに入った途端、風邪を引いて寝込んだ経験がありませんか?
肝は、気持ちを突っ張って、その場をしのぐために全力で働く臓器。
緊張が緩むと、ガタガタと調子が崩れたりすることもあるのです。
緊張状態が解けなくなってしまい、頭のスイッチがオフにならなくなったりすることもありますが…
ストレスに対する抵抗作用が特に大きな役割で、肝の働きが低下すると、こころにダイレクトに傷ができてしまうイメージ。
他の臓器に対しても、気や、水、血の循環を円滑にするため、将軍として、他の臓器まで補佐する働きがあります。
肝には、必要な時に、必要な場所に血を運ぶ働きがあるので、食事を取ったら脾に必要なエネルギーを送ったり、他の臓器がちゃんと働けるために、影でからだ全体を支える大切な働きがあります。
私なりの肝のイメージなのですが、猛々しい将軍という側面と「肺さん、気が下に降りる働きが少し低下しているから、私がちょっと手伝ってあげるよ!」みたいな、からだ全体を監督して、足りない部分を補佐するというか、からだ全体がまとまって働きやすいようにフォローしてくれている感じ。
肝は猛々しい将軍で、いつも私たちを護るために働いているとイメージしていただきたいです。
のびのびと伸びる、木のような性質がある
突っ張りを作っている肝ですが、本来はのびのびと、木が天に向かって枝を伸ばしていくように、何の制限もなく健やかな状態を好むんです。
のびやかであれば、枝葉を他の臓器にまで伸ばして、全体にまで目が行き届き、気も、血も、水も全身に行き渡りやすくなるし、気分も晴れる状態になると。
しかし、抑圧が長く続くと肝はくたびれ、肝だけではなく、からだ全体のバランスが崩れる…
肝は疲れを取る臓器なので、肝がくたびれてくると疲れがたまってしまい、悪循環に陥りやすいんです。
抑圧されている環境にいる時、時にのびのびと過ごしてみることが肝にとっては大切なんです。
肝の反応は、わき腹に出やすく、肝が疲れてくると、わき腹がカチカチになってくるんです。わき腹を前と後ろからつまんで、外側に引っ張るようにしたり、ホットタオルで温めてあげると疲れが取れやすくなりますよ。
「怒り」と肝
みなさん、なんだかわからないけれど、イライラしてしょうがない時ってありませんか?
そんな時、肝の張りが強く働き過ぎている場合が多いんです。また、肝が突っ張れないくらいに疲れていると、ストレスに対する耐性がなくなり、精神的に不安定になりやすくなることもあります…
イライラしている時のイメージは、血が熱で沸騰して湯気が頭の方に立ち上り、からだの血が蒸発して、血が干からびていくようなイメージ。
瞬間湯沸かし器みたいな作用が、肝の働きにはあって、時に肝から発生した火が、心に飛び火して心をグラつかせたり、腎に飛び火して、腎の水を干上がらせたりすることがあるんです…
それだけ、肝の影響力とエネルギーは強いと思ってください。
いつもは周りの臓器にまできを配りますが、時に激昂して、周囲を焼き尽くすくらいの力を持っていると…
肝から発生した火が原因で、めまいが起こることもあるんです。
めまいにも種類があって、肝から発生するめまいは「回転性」が多いんです。
脾から起こるめまいもあるのですが、脾からくるめまいは虚脱性というか、立ち眩みのようなめまいになります。
「目」と関わりが深い
肝は目と関わりが深く、目の使い過ぎは肝がためている血を消費してしまうんです…
目は、肝だけではなく、いろいろな五臓六腑が関与しているんです。
目が見えることは、生活を営む上で、ものすごく重要なこと。
だからこそ、バックアップで働いてくれる臓腑がたくさんあるのです。
バックアップが働いているのに、それでも目が疲れている場合は、注意が必要です。
肝から起こる目の症状は、急な目の出血や、目の充血、急激な視力変動があった場合が多いです。
「筋」を主る
心は「血脈」、脾は「肌肉」、肺は「皮毛」を主ると書いてきたのですが、肝は「筋」を主ります。
ちなみに、書き忘れたのですが、腎は「骨」を主ります。
東洋医学で、人間のからだを表面から「皮毛」「肌肉」「筋」「血脈」「骨」と層になっていると考えていて、それぞれ「肺」「脾」「肝」「心」「腎」が主っていると考えているんです。
人間のからだを層で認識しているのですね。
だからこそ、鍼やお灸をするときも、この層と、深さの認識が大切になってくるんです。
どの層が硬くなっているのか?とか、どこからどこまでの層に邪気がひろがっているのか?など、単純に部位だけではなく、層の認識が加わってくるのが、鍼灸施術の面白いところだと私は思うのです。
人のからだに触ったとき、皮膚がかさついているように感じたり、痩せているように感じたり、筋肉が張っているように感じたり、骨の表面がでこぼこしているように感じたり、触れた感覚から得られる情報によって、五臓六腑のどこに弱りが出ているのかもわかるんです。
肝が主る筋肉の感じも、肝がうまく働かないと、ビーフジャーキーのように干からびて、弾力がないように感じることが多いです。
肝が元気だと、筋肉に弾力が出たり、からだが柔軟に動けるようになります。
「関節を柔らかくするには、お酢を飲むといい」と聞いたことがあるかもしれませんが、肝の不調には「酸味」がよく、肝が働きやすくなって、からだの柔軟性が出やすくなるんです。
お酢は、筋肉だけではなく、緊張状態にある時などの気分も緩めますよ。
「無意識」「霊感」と「魂」というもの
東洋医学を勉強すると、肝は「魂(こん)」を蔵す、という記載を必ず目にするはず。
この「魂」は、夢を見ているときの無意識状態や、霊感のような、特殊な感覚と関わりが深いと、考えられています。
なので、肝の症状として、夢が多くなったり、見えないものが見えたりすることがあると…東洋医学では、霊感もからだの異常としてとらえているのです。
肺の項目で、肺は「感覚」と関わりが深いと書いたのですが、この感覚を引き出すのが「魄(はく)」
「魂」と「魄」は対で考えられることが多く、死後天に昇っていくのが「魂」、地に戻るのが「魄」。どちらも「たましい」という意味で使われたり「魂魄」と、二つセットで使われたりすることもあるんです。
肉眼で見えるというのが「魄」の働きで、見えないものが見えるというのが「魂」の働きでしょうか…余談ですが。
こんな話が好きな人がいるんじゃないかなぁ…と思って書き足してみました 笑
「肝」のまとめ
肝はアルコール分解という働きよりも、東洋医学では血を浄化して、疲れをとる臓器と考えています。
からだを動かしたりする際、血を必要な場所に、必要なだけ送る作用があるだけでなく、邪気やストレスを、ピンと糸を張るようにして、からだの内側に侵入しないようにまもっていると。
イメージは猛々しい将軍で、のびのびしているのが好きだけれど、抑圧されると瞬間湯沸かし器のように激しく熱を持って、他の臓器を燃やすくらいに怒り狂うけれど、抑圧されすぎて疲れると、一気に崩れやすい側面もあるんです。
筋肉を柔軟にしたり、肝が病むと夢が多くなったり、霊感が強くなったりしますよと。
…どうでしょう?肝についてイメージできましたでしょうか?
これで、「五臓」の解説はすべて終わり!
次回から、「六腑」の説明に入っていきます。
私、結構楽しくこの文章を書いていました。
最初、本を見ないで、頭の中にあるイメージを書きおこし、そのあとに本を見て付け足していくように書いていったんです。
自分が見て、読み返したいなぁと思える内容をこころがけました。
東洋医学を「難しい」と思っていた方、少しは私の文章が、東洋医学を理解するのに役立ちましたでしょうか?
ご要望などあれば、是非お伝えください。
しっかりと答えさせていただきたいです。