ブックガイド(156)「バリ山行」
オーソドックスなスタイルの文学でそれだけに読み応えあって、一気に読了した。新田次郎の作品「孤高の人」を思い出した。作中でも「加藤文太郎を気取ってるのかよ」と言うセリフがあるし(加藤文太郎は「孤高の人」の主人公の登山家)
内装工事大手から外装修繕の中小企業に転職した主人公。社内の知人に誘われて山へ行くようになる。やがて山に魅入られてサークルで山行をするようになるのだが、社内にはいつも一人で登山路以外の道を上るいわゆるバリ山行をする風変わりな社員がいることを知る。バリはバリエーションのバリだ。
リストラの可能性におびえつつ、その日の仕事をしのいでいく企業の日常と、山行という非日常。この対比が、やがて他者の目線に気を病む自分と、無心で山行をする自分に至り、「自己」を見つめる流れに至る。
まさに王道。でも、それでいいじゃやないか。そんな気になった。