ブックガイド（８４）「根無し草　ヤマギシズム物語１学園編」守下尚輝

秘密のベールに隠されたカルト的な農業組合法人「ヤマギシ会」
原始共産主義とでも言うべき私有財産を否定した集団は、組合法人というよりは宗教法人と呼ぶのがふさわしい団体である。主人公は熱狂的な信者である両親により幼少期から問答無用で入信させられた言わば宗教二世。彼のヤマギシズム学園高等部における青春時代を描いた作品である。

青春小説の佳品

　宗教二世とでもいえる主人公の青春は苛烈である。小遣いもなし、恋愛も禁止、従順に親や先生の指示に従うことを強制される。ゲームすら禁止。無味乾燥な砂漠のような生活で、主人公は手製のTRPG（エーブルトーク・ロールプレイングゲーム）で大人の目を盗んで遊ぶ。この遊びが彼の心を救っていく様子に胸を打たれる。これが、後に小説家になる彼の創作力の基になるのだ。

作者の体験を基にしたリアリティ

　ヤマギシズムの闇の部分を描いて入るが、それ以上に、その境遇から抜け出そうと抗う少年の成長物語として優れている。
　作者の守下さんは、この独自のTRPGを小説化し電子書籍Kindleでリリースする。私がKindleで電子書籍を出し始めたことからの先輩に当たる。
　AmazonのKindleストアで、彼の本格的な作品を目の当たりにして、「俺もKindleで出そう！」と背中を押されたのだ。

スペイン語圏で書籍化

　作者のファンタジー作品は、SEKAI　Editorialから書籍化もされている。スペイン語圏の読者から違和感なく読まれているわけで、そこらのナーロッパ物とは違うのだ。
　近作「テロメニア魔導記」も、Kindleのランキングでも上位の常連になっていて、同じKindle作家としてはうらやましい。私の作品でそんなランキングになったのは、小説作品じゃなくて「小説指南」だからだ（苦笑）

作品のリンクは下記を参照ください。

「根無し草　ヤマギシズム物語１学園編」
「カドルステイト物語」

守下 尚暉（Naoki Morishita）＠公式｜note