ブックガイド(115)「うさぎ幻化行」(北森鴻)


2010年、北森鴻の遺作となった作品。

 主人公はフリーライターの美月リツ子。自分を「うさぎ」と呼んでかわいがってくれた義兄が、航空機事故で死んだ。音響技師だった義兄は遺書とは別に、「音のメッセージ」も残していた。環境庁が選定した「日本の音風景100選」の録音データに残された音源を訪ね歩く「旅行き」モノのスタイルなのだが、そこで少しずつ明らかになる事は、同時にリツ子の過去と義兄の過去の縁に迫っていく。

鉄道ファンにも刺さる作品

 鉄道旅と遍路など、後半は旅情をそそる展開になる。旅とは、探求や追求のメタファであり、同時に人生のメタファでもある。鉄道ライターの岩崎というキャラに北森氏は自身を重ねているようにも見えた(←面識もないのに、すみません)
 1961年生まれの北森鴻さんは、1958年生まれの私とは同じ世代と言ってもよいだろう。学生運動などの動きが収まった後の俗にシラケ世代と呼ばれるジェネレーションだ。ご存命ならまだ63歳。この23年間でどれほどの傑作を書いたであろうか。
 だが、思い直せば、作者は亡くなっても、こうして作品は残り続け、いつも新しい読者を生み続けていく。
 作家とは、作品を通して「不死」を獲得する存在なのかもしれない。
うさぎ幻化行

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