創作エッセイ(30)続・群像劇は難しいのか?

昨日に続いて群像劇について考察する。

キャラクターの配置とは

今回も自作「不死の宴 第一部終戦編」を例に説明してみる。
この作品の概要は、以下の通り。
(概要)
 昭和十八年八月、理化学研究所の若き病理学者・如月一心は長野県上諏訪町の陸軍第九技術研究所分室の「ミ号計画」に招聘された。「ミ」とは、諏訪地方に縄文時代から残るミシャグチ信仰に由来する。この神の血を受けた者は不老不死のヴァンパイアとなる。日本では古来より国難の際の「特別な兵」としてヴァンパイアの特殊能力を密かに継承してきた。「ミ号計画」とは、このヴァンパイアを使った「超人兵部隊」の研究だった。
 如月が分室で出会った守矢竜之介中尉と守矢公彦少尉、そして職員の守矢みどりの兄弟は、代々、神長官としてミシャグチの血の系譜を守り続けてきた守矢一族の末裔だった。ヴァンパイアは昼間は活動できないため守護者が必要なのだ。
 如月は、ミシャグチの血を継承する姫巫女・美沙(四百歳)と謁見する。彼女を診察しながら、不老不死や超人的筋力などの能力も、光過敏や食性変化(人血嗜好)と同じ風土病の「症状の一つ」であると感じる。
 一方、竜之介は全国から四人の実験兵を選抜した。中野学校二俣分校の西城真一。関東軍対ソ特殊部隊の南部陽兵。挺進大隊(落下傘部隊)の東郷隆。そして玉砕した部隊の唯一の生存者・北島晃。彼らは、姫巫女・美沙との契りを経てヴァンパイアとなる。
 昭和十九年七月、沖縄に試験配備された実験部隊の運命は?
 そして終戦、姫巫女・美沙と守矢一族はミシャグチの血の秘密を守れるのか?
 守矢竜之介の実験部隊と日米陸軍との三つ巴の戦いの決着は?

 この物語のキャラクターたちの中で、当初、全国から選抜した実験兵は二人しか考えていなかった。しかし、執筆していくうちに、彼ら実験兵は大戦で招集され戦死した大勢の日本の若者たちのメタファだと気づいた。戦死する代わりに不老不死となって生き続ける、まさに靖国神社の写真に残る永遠の若者たちのように。
 そこで、キャラクターを四人に増やした。インテリで育ちが良いが事情があって軍に追われた北島、謹厳実直な兵士の東郷、ごく普通の南部、そして、彼らを観察する西城。日本兵の四人のタイプということで、名前の頭文字は「東西南北」になっている。
 それぞれ、ニヒル、まじめ、剽軽、観察者という四タイプのキャラだ。彼らが出くわす事件や状況にどのように対応し反応するかで、描写も深まる。
 特に西城というキャラは作者の分身である。

キャラの相互関係も重要

 当初、物語の中の愛憎関係は、姫巫女・美沙を挟んで竜之介と如月の間に葛藤を予定していたが、書くうちに、如月を挟んだ姫巫女に対するみどりの葛藤に変わった。そしてヴァンパイアの女王たる姫巫女と守矢の男たち、それを見つめる守矢の女たちと、ドラマが深化した。
 さらに書きながら、竜之介と公彦・みどりとは異母兄弟であること、その母がなぜ離婚したかなどの背景が、第二部への重要な布石になっていった。
 これも構想段階では考えてもいなかった要素で、書きながら物語は深化することを実体験したわけだ。

シリーズを追ってキャラは深化する

 第二部の北米編は、第一部の11年後の1956年のアメリカ東海岸を舞台にして、第一部のキャラでは北島だけが登場する。
 現在、執筆中の第三部では、1972年の日本を舞台にしていて、28年過ぎた後の第一部の登場人物たちが再び登場する。ヴァンパイア以外の登場人物はみな、現在の私ぐらいの年齢になっていて、若いころとは考え方や思想まで変わっている。私は、それを書くことができる年齢になっていたのだ。
 言わば私の年齢がドラマを深化させてくれているわけで、書きながらわくわく感が止まらない。
 読者の方にはお待たせしているが、何より続きが知りたい第一の読者は作者本人である。
 あと第七章、八章、九章を残すのみ。それぞれ、点火・爆発・大爆発という展開を予定している。書き上げるのが待ち遠しい。

(2023/12/06 追記)
 都筑道夫先生の「小説指南」の中に、グレアム・グリーンの以下のような言葉が載っていた。

 何の気もなく書いた数行が、後になって、ストーリーの展開に、きわめて役立つことがある。そういうときには、私ではなく、神様が書いたような気がする。

 まったく同じような体験をしていて、私は「このアイデアは天から降りてきた」と感じた。物語の後段で、それに気づくのだ。
 皆さんもぜひ、そのような体験をしてほしい。もう書くことをやめられなくなるはずだ。

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