ブックガイド(117)「シャーロック・ホームズの護身術 バリツ: 英国紳士がたしなむ幻の武術」
「崖っぷちから落ちかけたぼくたちは一瞬ふたりそろってよろめいたんだ。
でもぼくは日本の格闘術であるバリツを少々かじっていて、何度もそれに救われたことがあってね。」
――サー・アーサー・コナン・ドイル『空き家の冒険』より
当時の記事の翻訳!
ドイルの作品に出てくるバリツとは、イギリス人エドワード・W.バートン=ライトが日本の柔術にボクシング、サバット、ステッキ術を組み合わせて生み出した護身術「バーティツ(Bartitsu)」ではないかと言われている。
1899-1900年に発表された当時そのままの120点を超える写真と文章で幻の護身術を一挙紹介した本書は、実に気づきに満ちていた。
ルーツが判る
写真と解説を読みながら、「おお、この技は天秤系だな」とか、「急所は中隠か」とか、いちいち自分の体験した少林寺拳法になぞらえて納得。おそらくルーツは武田 惣角(1860年生まれ)の大東流合気柔術であろう。合気道の創始者・植芝盛平も彼の弟子のひとり。
武田 惣角も興味深い人物で、全国を流れ歩いて武術を教えた。彼の生涯に関してはさまざまの小説で描かれているが、今野敏さんの「惣角流浪」をお勧めしておく。今野敏さん自身が空手の達人なので、その心技体の描写のリアリティたるや、他の作品から一歩抜きんでた感がある。
相似性についての気づき
地球上の武術(マーシャルアーツ)は、みな大なり小なり似通っている。それは何故かというと、言語や文化や環境が違えども、人はみな同じ肉体を持っているからだ。関節が逆に曲がったり、腕が三本あったりするような人はいない。だからこそ、技の構成や練習法は似通うのだ。
実は同じことが神話や民間伝承にも言える。地球の反対側のギリシア神話と日本の神話で似たような話があるように、世界の神話や民話には類型がある。異類婚、父親殺し、~を観てはいけない、~どちらを選ぶか、等。
これは、肉体と同じように、言語や文化や環境が違えども、人はみな同じ喜怒哀楽の感情を持っているからだ。そこには宇宙人やレプタリアンや時間旅行などのSF的な解釈は入りようがない。そこを研究するのが人類学や民俗学なのだろう。
「シャーロック・ホームズの護身術 バリツ: 英国紳士がたしなむ幻の武術」
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