ブックガイド(173)「心霊特捜」
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オカルト警察もの
今やトレンドとも言えるホラー警察もの。富樫倫太郎のSROシリーズにオカルトを合体させたような連作短編である。神奈川県警のR特捜班は古都鎌倉に駐在し、心霊やオカルトがらみの事件を担当する。神道系の者や行者系の者や沖縄のノロ系の娘など霊能者三人を擁する異色のチームの動きを、普通人の主人公の目線で描いていく。おお、これは内藤了のミカヅチ・シリーズ(2022年~)の先駆け感。
各作品を読んで感心したのは、霊や魔を祓ったり倒したりするというより、成仏させる、こだわりを解くという優しさが最後に見えてくるところ。これが実に現代的で、「勝つ」とか「倒す」といった前世紀の価値観から大きく前進してるように思うのだ。
実はホラー小説の世界でも同様の傾向があり、「ゴースト・ハント」(小野不由美・1998~)では悪霊を倒し滅ぼしているが、「営繕かるかや怪異譚」(小野不由美・2014年)では、戦いの勝敗ではなく、怪異の決着と安心感に着地している。
価値観が変わってきたのだ。
同時代性とは価値観に現れる
エンタメの世界でも、価値観はどんどん上書きされていく。あの「進撃の巨人」でも、前半で侵略される側だったエレンたちが、後半では侵略者として描かれている。まるで、イスラエルとパレスチナではないか。故郷を追われ世界で差別されてきたユダヤ人が、今、パレスチナでは侵略者となっている。
この価値観のアップデートができていない作品は、どれだけ新しい時代や社会を描いても「時代遅れ」感が出てしまう。
逆に価値観のアップデートができている作品は、どれだけ過去を描いても現代のドラマ足りうるのだ。近年の大河ドラマ「光る君へ」「べらぼう」などが、それを雄弁に物語っている。
そんな考察を誘う作品だったが、何より面白い。名人芸を楽しんだ。