映画レビュー(37)「アトミック・ブロンド」
痛快なアクションの無双モノ
2017年の米映画。シャーリーズ・セロンのアクションと演技が観客をしびれさせる。
1989年秋のベルリンという舞台設定に胸が熱くなる。東西の壁が崩れる時期なのだ。その冷戦末期の最前線を舞台に、英国のMI6の女情報部員が東側による西側スパイ暗殺事件と対峙する。
危機また危機、サスペンスフルな疑心暗鬼、というストーリーなのだが、基本的に強いハードボイルドな美女が敵を倒していく快感に身を委ねればいい、ある種の「無双モノ」的側面あり。
時代描写に涙する
1970年代に、一時期デビッド・ボウイはベルリンに在住していた。その際に制作されたアルバム「ロウ」「ヒーローズ」「ロジャー」はベルリン三部作と呼ばれていて、「ヒーローズ」という曲は、壁の監視塔の下で逢瀬を重ねる恋人達の歌だ。
1989年の6月に西ベルリンで行われたコンサートでは、壁の向こうに東ベルリンの若者たちが5000人も集まった。ボウイの没後、ドイツ政府から追悼と感謝の言葉が送られたほど。壁の崩壊に影響を与えている。
この年の11月に壁は崩壊するのだが、その歴史の裏で、この活劇は繰り広げられるのだ。
全編にデビッド・ボウイの音楽が使われている。これがまた胸熱なのだ。
私は年に一回は観ている作品だ。
原作はグラフィック・ノベル(長編のアメコミですな)とのこと。これも読んでみたい。
(追記)
この1989年、私は31歳だった。結婚二年目で、乳飲み子抱えたサラリーマン。小説もなかなか芽が出なくて、小遣い稼ぎのために官能小説を書いたりしてた。
当時、ベルリンの壁崩壊からソ連邦解体までの時代の流れに驚きつつ、「今、東西冷戦下の作品書いてる作家、大丈夫だろうか」とか「制作中のゴルゴ13の作品で、没になる未発表作品とか出るのかな」とか考えていた。
逆に今は、「これ、ベルリンの壁が崩壊して没になったゴルゴ13の生原稿ですよ」という詐欺事件とか面白いよな、と完全に作家モードになっている俺がいます(苦笑)