映画レビュー(35)「フェイブルマンズ」
オタク時代の夜明け前
2022年の米映画。監督スピルバーグの少年時代をインスパイアもとにしている。
ニュージャージーに住むユダヤ人の一家・フェイブルマン家の長男サミーが主人公。映画の特撮シーンに夢中になり、玩具の列車を使い、父親の8mmカメラでそれを再現する少年時代。裕福なユダヤ人の家庭なのだ。やがて、友人たちと映画を撮り始め、ボーイスカウトでは絶賛を浴びていく。
ただ、ハイスクールに進むとユダヤ人として虐めにも合う。
サミーはそれでも、撮影と編集の能力で、彼は自分のアイデンティティを確立していく。
好きなことを突き詰めることが自己確立に繋がっていく、いわゆるビルドゥングスロマン(成長物語)の王道である。
卒業と同時に恋も終わり、本来なら悲しいはずの別れも、映画業界への就職で希望へと変わる。
才能というものは、悲しいことに周囲から浮き、普通の価値観でつぶされそうになる。ましてやその才能が周囲から理解されてない時はなおさらだ。
監督デビューと同時に天才と騒がれたスピルバーグにも、このような青春時代があったのだなと思わせられる。
ナードの復讐時代の到来
この映画における、米国のハイスクールのスポーツマンの男の子と美人の女子生徒を頂点とするスクール・カースト描写、80年代以降、米映画の中で頻繁に描かれるようになる「ナード(オタクみたいな意味)の復讐」を思わせる。これ以降、ITやサブカルチャーに傑出したナードが、富と名声を獲得する時代になる。
ITでカリスマ経営者になった高校時代のナードが、同級生のフットボール部のエースを会社のガードマンに雇ってやるような逆転現象がそれだ。
ハイスクールの卒業パーティが人生の絶頂だったという悲劇が顕在化される時代になるのだ。
そういった層の不満や怒りが、トランプ大統領の誕生につながっていったという言説に、「それもあるかも」感を抱く俺がいるのだ。
(2023/11/27 追記)
1984年の映画に「ナーズの復讐」という作品がある。
アメリカのカレッジを舞台にして、体育会系の学生にいじめられているナードたちが、コンピューターを武器にして戦うという物語。こういうナードたちが、ジョブスになりゲイツになってシリコンバレーを帝国にしていくのであった。
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