映画レビュー(110)「夏の妹」(1972年・大島渚・監督)
96分のカラー作品で、日本ATG(アートシアターギルド)の配給。
本土復帰して間もない沖縄。素直子は、異母兄の可能性がある青年・鶴男と会うために、父の再婚予定の女性・桃子と共にその地を訪れる。そこで彼女は、兄だと気づかずに鶴男と親しくなる。一方、鶴男も素直子が妹であることに気づかず、桃子が妹であると勘違いしてしまう。というのが物語の骨子。すれ違いのラブコメディとして描かれる。
実は、この作品、現在執筆中の長編小説が1972年の沖縄から始まるため、当時の沖縄の空気感を知るために観た。当時、中学三年だった私は、名古屋の郊外の小牧市に住んでいて、受験勉強で忙しく、ATGの映画を上映している名古屋など行く暇もなかった。もし当時観ていたら、同じ年齢の栗田ひろみにメロメロになっただろうなと思う。
改めて観て実感したのが、当時の内地の人間の沖縄観だ。まるで、南方の外国(インドネシアとか台湾)に行くような感覚で沖縄に上陸しているのだ。戦中に沖縄に駐留していた軍人やビジネスマンも現役世代として生きていた時代で、素直子の父も当時、沖縄で女性に産ませた男児がいるわけなのだ。その異母兄・鶴男も内地の旅行客から金を巻き上げる気まんまんで、東南アジアっぽい。
本来ならリベラルで反権力で偏見を嫌うであろう大島渚監督の、それでも無意識に出てしまった沖縄観に、私は驚いたわけだ。
沖縄を描写する上で、大いに参考になった。それにつけても、この作品でデビューした栗田ひろみの可愛いことよ。
「夏の妹」
(追記)
翌年の「放課後」もまたいいんだな。
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