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保育の正しさとは?— 教育理念と日々の取捨選択を考える

北海道での研修で、多くのご質問をいただきました。
シリーズ「問いに向き合う」の4日目として「教育や保育理念を見つめ直す中で、その正しさや取捨選択の判断をどのようにしているのか?」という問いにお答えしたいと思います。


教育・保育理念と保育内容の違い

まず、教育理念や保育理念を見つめ直すことと、日々の保育内容を見つめ直すことは、意味合いが異なると考えています。

教育や保育の理念は、一朝一夕で作られるものではありません。
多くの悩みや試行錯誤を重ねながら、様々な言葉を選び、削ぎ落とし、最終的に形作られるものです。
それは、自分の人生をかけて取り組むべきことを考え抜いた末に生まれるものとも言いえるものでもあります。
そのため、一度確立した理念を簡単に捨てることはできません。

もちろん、社会情勢が大きく変化したり、これまでの経験が誤りだったと気づいたりした場合には、理念を見直すこともあるかもしれません。
しかし、園全体の理念を変更するとなると、子どもたちや保護者、スタッフさんにとっても大きな変化となります。そのため、その影響を慎重に考えなければなりません。

一方で、保育内容については日々取捨選択を続けています。
マネジメントの面、遊びの面、環境の面など、多くの要素を見直しながら保育を進めています。
今年は環境の変化が大きかったため、園庭の改造を小規模に抑えましたが、それでもシーズンごとに園庭の構造を変える試みを続けています。こうした実践は、子どもたちにとって最善の環境を模索するために不可欠なことだと考えています。

取捨選択の基準とは?

私が最も恐れているのは「何もしない現状維持」です。
時代が大きく変わる中で、何もしないことは必ず後退を意味すると思っています。現状を維持するためには、自ら変化し続けなければならないのです。

時代の流れと行動や変化を例えるならば、急流の中で上流に向かって泳ぎ続けるようなものです。
一生懸命泳いでようやく現状を維持できる状態であり、上流へ進もうとするならば、さらに努力が必要で、時に跳躍しなければいけないことだってあります。
もたもたしていると、流れに押し流され、気が付けば滝に落ちててしまう。そんな時代に生きていると感じています。

こうした状況の中で、私が取捨選択をする上でまず手放すのは「過去の成功体験」です。
昨年うまくいったからといって、今年も同じ方法が通用するとは限りません。「去年こうだったから」という考えに縛られてしまうと、その先へ進むことができません。そのため、できるだけ新鮮な視点で子どもたちと向き合うことを意識しています。
その意味で、過去の成功体験ほど邪魔のものはありません。

また、私は常に「本当にこれでいいのか?」と問い続ける努力をしています。

  • 子どもたちにとって、より良い保育ができているのか?

  • 保育者にとって、働きやすい職場になっているのか?

  • 自分が理想とする保育を実現できているのか?

これらの問いを持ち続けながら、取捨選択を進めています。

保育における「正しさ」とは?

保育において、絶対的な正解はないというのが私の考えです。

例えば、絵本の選び方についても、「アニメチックな絵本は良くない」という意見があります。
しかし、ある子どもにとってはその絵本が心の支えになることもありますし、逆に影響が強すぎて想像力を損なうこともあります。
つまり、どの考えが正しいのかは、子ども一人ひとりを見なければ判断できないのです。

これは、保育者同士の価値観の違いにも言えることです。
私自身の保育観と、平成・令和の時代に育ってきた保育者の価値観は異なります。
価値観は一方的にすり合わせられるものではないので、まずはお互いの価値観を認めた上で、「何が正しいのか」を共に考えていくことが大切だと考えています。

子どもの中に答えがある

私が保育において大切にしている答えや正解は、「子どもの中に答えがある」という考え方です。

もちろん、私自身の中にも理念や価値観があり、それをすべて曲げてしまう必要はありません。しかし、目の前の子どもたちが示す姿を丁寧に見つめ、何が必要なのかを考えることが、プロの保育者としての役割だと思っています。

同じことは、保育者同士の関係にも言えます。スタッフ一人ひとりの考えや価値観の中にも答えがあり、それらを尊重しながら、一緒により良い方向を探していくことが大切だと私は考えています。

時代が変化する中で、保育の在り方も問い直され続けています。しかし、その中においても、正しさや取捨選択の基準は「目の前の子どもをよく見ること」に尽きるのではないかと思います。

理論や研究を学ぶことは大切ですが、それが絶対的な正解ではありません。大切なのは、多くの研究者の方々が、血のにじむような努力と膨大な時間をかけて確立した理論や研究結果を学び、そこで得られた知見や知識、知恵を活かしながら、子どもたちにとって最適な保育を考え続けることです。

もしかすると、「明確な基準を示してほしい」と思われた方もいるかもしれません。しかし、時代が変化し続ける今だからこそ、保育においても「正しさ」や「答え」は固定されたものではなく、常に問い続けるものなのではないでしょうか。

何かの参考になれば幸いです。

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