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地域をどのように巻き込むか?

今日は向山こども園で行われている『コミちゃん』というボランティア制度について、あえて『コミちゃん』と呼んでいる経緯や保育の中で行われる意義について、書いてみたいと思います。

コミちゃんの概要と目的

「コミちゃん」とは、コミュニティティーチャーを指す愛称で、向山子ども園が運営するボランティア制度の一環です。
この取り組みは、地域の方や保護者、小学生から大学生まで、幅広い世代の人々が子どものそばで活動し、子どもたちが多様な人間関係や価値観に触れる場を提供することが目的です。
保育者だけでなく、多くの大人と触れ合うことで、子どもたちの健やかな成長を促すという考えのもとに作られたオリジナルの制度です。

学びのドーナツ理論と保育の実践

学びのドーナッツ理論の解説

佐伯胖先生の学びのドーナツ理論によれば、学ぶ人(I)が社会全体(THEY)を理解し深めていく過程で、必ず他者(YOU)との関わりを経由するという考え方があります。

学びのドーナッツ理論


この理論では、学びのプロセスをドーナッツの形で表現します。
中心の「I」はこども、外側の「THEY」は社会全体や文化的な実践を指し、その間にある「YOU」は保育者や保護者など、直接関わる他者を意味します。
つまり、私たちは身近な人との関わりを通じて、社会全体の理解を深めていくということです(まだまだ勉強中なので、ニュアンスが違う部分があったらすみません!)。

ごっこ遊びの正体

子どもたちはものすごい勢いでいろいろな世界に触れ、吸収していきますが、その多くは保育者や保護者を通してのものです。
身近な大人を通じて多様な人々や価値観に出会うと、子どもたちは憧れや面白さを感じ、どんどん世界を広げていきます。
この世界を広げていくプロセスの中では、身近な大人を通して触れた後、遊びの中で再現したり、なりきったりして、さらに理解を深めていきます。
これが、ごっこ遊びの正体です。

なぜ、保育の中に外の世界が必要なのか?

つまり、遊びが充実していくためには、インプットされる外の世界(THEY的な世界)が非常に重要なのです。インプットがないとうことは、アウトプットする題材がないということになるので、遊びが充実しません。

長時間、園に滞在することが多い2号・3号認定の子どもたちにとって、外の世界に触れる機会を意図的に作らないと、遊びが充実したものにはならないと私は考えています。

街中の園であれば、お散歩に行っていろいろな人や出来事に触れることができますが、古い住宅地にある向山こども園では、お散歩に出るにも、道が狭く、少々危険です。
また出会える人や出来事が少ないので、園内に地域社会を作り出していく必要があります。

コミちゃん制度の工夫と広がり

募集してみたけれど…

このような考え方から、「地域の中のおばあちゃんのおうちのような場所」を目指している1・2歳部門のばっぱんちと、教育標準時間の後の「地域の中で過ごしているような時間」を目指しているゆうやけの時間では、多様な人々に保育に参加してもらいたいと考えています。

そこで、保育ボランティアを声高らかに募集したのですが、なしのつぶて…。
何で来てくれないんだろう?と考えてみたところ、「ボランティアって、なんかハードル高いよね」「意識高い系な感じするよね」という率直な意見が出され、「自分なら仕事を休んだり、プライベートな時間を使ってまでボランティアはしないかも…」という話になりました。

タイムバンクをモデルに…

園内に地域社会を作るため、「タイムバンク」のアイデアを取り入れました。
コミちゃんに参加すると、園内通貨として使える「こみちゃん券」が発行されます。これは、預かり保育や園内のカフェ、チャリティーバザーなどで活用できます。
コミちゃんとして活動することで、自分の時間を確保できる仕組みです。

このように報酬を設けることで、保護者の方々に興味を持ってもらい、「ボランティア」としての敷居を下げて参加しやすい環境を作ろうと考えました。

多様な「コミちゃん」の役割

「コミちゃん」は、さまざまな活動を通じて子どもたちの遊びと学びをサポートします。
例えば、毎日のように学校帰りに来てくれる『小学生コミちゃん』は、園の中では最年長の5歳児の先輩です。ランドセルを見せてくれたり、宿題をしてくれたりする姿はあこがれの的で、年長さんが隣で一生懸命真似をしたり、遊んでもらったりしています。

『あかちゃんコミちゃん』は保護者の方が、下の子を連れてきてくれます。赤ちゃんに触れる機会の少ないこどもたちにとっては、赤ちゃんに触れさせてもらえる機会は、自分たちの成長を感じたり、お世話してあげよう!と様々な工夫をする絶好の機会です。

『お料理コミちゃん』は、実際に、保育室にあるキッチンで、自分の家の夕食を作ったり、複数のコミちゃんが、お料理サークルのようにして、お料理を教え合ったりする姿を見せてくれます。言わずもがなですが、ままごとの模倣の対象として、最高の場面になっています。

この他にも『音楽コミちゃん』『抱っこじーじ』『コーヒーコミちゃん』などなど、いろいろなコミちゃんが、保育の中で活動してくれています(別の記事でお伝えします!)。
これらの活動を通じて、子どもたちは大人や社会、仕事や生活を楽しむ姿に出会い、学びの機会を得ています。

保育者の役割と地域とのつながり

保育者は教育標準時間において、子ども同士をつなぐ「コーディネーター」としての役割を果たしています。
しかし、コミちゃんが入る保育の中では、地域との橋渡し役として、地域と子どもをつなぐコーディネーターの役割を果たしていると思っています。
コミちゃんという外の世界(THEY)に触れるときの身近な存在(YOU)となることで、子どもたちが世界を広げていくサポートをしていきます。

コミちゃんって、とっても大切

コミちゃんいかがですか?とお声がけすると、「自分にできることはない」という声もありますが、実際に園で見せる日常的な大人の姿勢は子どもにとって貴重なモデルとなります。
保育者がコミちゃんのようにくつろいだり、お友達とお茶を楽しんだり、自分の食べるための料理をすることは難しいですが、「コミちゃん」たちがその役割を担ってくれます。
地域社会を園内に再現し、子どもたちに多様なモデルを提供することは、保育活動の中で非常に重要です。

向山こども園はこれからも「コミちゃん」と共に、子どもたちがいろいろな世界に触れられる豊かな育ちの場を提供していきたいと思っています。

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