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スマートバッジの開発2
勝手にスマートバッジなんて名前を考えてみましたが、東北大学の張山先生の研究が、次の一歩を踏み出せる段階になってきました。
今回は、張山先生が開発してくださっているセンサーについて、実機を見ながら活用についての検討を行ったので、会議の内容を整理しながら、AIカメラやセンサー技術が保育現場にどのように貢献できるのかを考えてみたいと思います。
(前回の記事はこちら↓)
AIカメラの可能性とカバーしきれないこと
向山こども園では現在、AIカメラを試験的に導入し、その利活用方法を模索しています。このAIカメラは顔認識技術を活用し、個々の子どもの動きを追跡できる機能を備えています。
また、AIカメラは防犯対策としても活用可能であり、特定のエリアへの侵入を検知し、アラートを出すことができます。
たとえば、保育者がいないエリアに子どもが入った場合、即座に通知を送るシステムが実装可能なようです。
また、虐待防止や保育者の冤罪防止といった観点からも、カメラの有用性が期待されています。
一方で、「表情の変化を読み取り、一人ひとりの心理状態を分析する」といった高度な活用は、現時点では難しいという意見もありました。AIカメラだけでは保育の全てをカバーすることはできず、センサー技術と組み合わせながら活用を考える必要があると私は考えています。
センサー技術による子どもの行動分析
センサー技術は、保育の現場において多くの可能性を秘めています。今回の会議では特に「発達障害の早期発見」と「子どもたちの遊びと人間関係の把握」という2つの観点から、その活用について話し合いました。
それぞれの側面について、より詳しく掘り下げていきます。
発達障害の早期発見における活用
保育現場では、日々の観察を通じて子どもの発達状況を把握し、必要に応じて支援を行うことが求められています。
しかし、発達障害の特性を見極めることは決して簡単ではなく、保育者の経験や主観に頼らざるを得ない場面も多くあります。特に、園側が子どもの発達に関する気づきを持っていても、保護者が受け入れられず、専門機関への相談が遅れてしまうケースも少なくありません。
こうした課題を解決するために、センサー技術を活用し、客観的なデータをもとに子どもの特性を把握することが重要になるのではないかと考えられます。
例えば、加速度センサーを活用すれば、子どもがどれだけ活発に動いているのかを数値として記録できます。
年齢が上がるにつれて、一般的には集中して遊ぶ時間が長くなる傾向がありますが、多動傾向のある子どもの場合、短時間で遊びを切り替えたり、常に動き続けていたりすることがあります。
このような特徴を客観的なデータとして示すことができれば、単なる「元気な子」との違いを具体的に説明しやすくなり、早期の対応につなげることができるかもしれません。
また、運動の特異性を検出することも可能になるかもしれません。
たとえば、特定の動きを極端に繰り返す、バランスを取るのが苦手であるといった行動は、発達障害の特徴の一つとして現れることがあります。
遊具の上での動きや、走る・跳ぶ・登るといった基本的な動作のデータを蓄積したり、転倒の回数が多いということなどを見ることによって、保育者の感覚的な判断だけでなく、実際にどのような運動傾向が見られるのかを明確に示すことができるかもしれません。
さらに、子どもたちの人間関係を正確に把握することも可能になるので、どの程度ほかの子どもたちと一緒に行動しているのかを可視化できます。
例えば、特定の子どもとしか遊ばない、または常に一人で過ごしているといった傾向が、長期間にわたって続いている場合には、発達特性の一つとして捉えることもできるかもしれません。
もちろん、個々の性格や一時的な行動の違いも考慮する必要がありますが、同じ発達段階にある子どもたちと比較することで、より明確な判断材料を得ることができます。
また、こうしたデータを活用することで、保護者や外部機関との連携も強化されると考えられます。
これまで、発達に関する指摘は主観的な要素が大きく、保護者の方と共有できる客観的なデータが少なく、子どもの見方に関しての齟齬が生まれることは少なくありませんでした。
しかし、センサーを用いた客観的なデータをもとに説明することで、具体的な数値やグラフを示しながら、発達の傾向を伝えることが可能になると期待しています。
たとえば、「同じクラスの子どもたちは、平均して遊具に15分滞在していますが、お子さんは1~2分で次の場所に移動することが多い」といった説明をしたうえで、園での援助の取り組みなどを伝え、早期の専門機関受診や支援につながる可能性も高まるのではないかと思っています。
また、個々の成長も併せて伝えられるので、周りの比較した相対評価ではなく、個人の成長を数か月前とデータで比較することで、成長を感じていただける機会にもなると思っています。
子どもたちの遊びと人間関係の把握
もう一つの重要な活用方法として、子どもたちの遊びと人間関係を可視化するという点が挙げられます。
自由遊びの時間において、子どもがどのような遊びを好み、誰とどのくらいの時間を一緒に過ごしているのかを客観的に把握できるようになると、より適切な環境づくりや関わり方を考えることが可能になります。
センサーを活用することで、どの子どもと長い時間を一緒に過ごしているのかを分析できます。
『特定のグループで常に行動している子ども』『さまざまなグループを行き来する子ども』『どのグループにも属さない子ども』がいることが明確になります。
人間関係の形成が進む中で、特定のグループに入れない子どもがいる場合、保育者が適切なサポートを行うことで、スムーズな関係構築を支援することができます。
逆に、あまりにも人間関係が硬直化している場合も、保育者の介入の必要性があるので、今何が起きているのかを正確に把握できるというのは極めて大切なことだと思っています。
また、遊びの傾向を把握することも可能になります。
どの遊具や拠点でどの程度の時間を過ごしているのかを記録することで、遊びのパターンを可視化できます。
たとえば、特定の子どもが毎日同じ遊具で遊び続けている場合、それがその子のこだわりの表れなのか、それとも他の遊びに誘導する必要があるのかを検討する材料になります。
また、遊びを頻繁に切り替える子どもと、じっくりと一つの遊びに取り組む子どもの違いを分析することで、個々の興味や発達の傾向を把握しやすくなります。
このように、センサー技術を活用することで、保育者が気づきにくい部分をデータとして可視化し、より適切な支援や関わり方ができる可能性が広がります。子どもの発達や人間関係の傾向を客観的に把握することで、より個別に寄り添った保育が実現できるのではないかと期待されます。今後、どのようにデータを分析し、実際の保育に活用していくかについて、さらに研究を進めていくことが重要だと考えています。
研究の今後のスケジュール
今年度は、保護者の方が同意してくださった7割以上のお子さんを対象として、まずセンサー技術の試験導入を行い、基本的な動作確認を行います。
センサーが正しく機能するか、データの精度は十分か、といった点を検証しながら、導入のための課題を整理していきます。
来年度からは本格的なデータ収集を開始し、どのような形で保育者が活用できるかを検討していく予定です。データの可視化方法やフィードバックの仕組みを整えながら、子ども主体の保育の質を向上させるための仕組みを確立していきます。
AIカメラやセンサー技術の活用は、保育の質を向上させるだけでなく、保育者の負担軽減や子どもの安全確保にもつながる可能性があります。
しかし、それらの技術をどのように活用するかは慎重に考える必要があります。
「保育者の感覚や経験に頼るだけではなく、データを活用することで、より専門的で質の高い保育を実現できるのではないか」――今回の会議では、そんな未来の可能性を強く感じることができました。
今後も、技術の進化とともに、子どもたちにとって最適な環境を作るための研究を続けていきたいと思います。