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保育士養成研究所第 2 回研修会 での発表で学んだこと

今日は、全国保育士養成協議会の研修会で、向山こども園の実践を発表する機会をいただきました。
その後のシンポジウムでは、共立女子大学の小原敏郎先生のコーディネートのものと、園内研修を積極的に推進している大妻女子大学の石井章仁先生、と玉川大学の大豆生田啓友先生と議論を交わし、多くの学びを得ることができました。
今回は、その内容を振り返りつつ、遊びの拠点化や保育の在り方について考えてみたいと思います。

向山こども園の発表の概要

遊びの拠点化とは何か

向山こども園では、遊びを単なる活動ではなく、子どもの主体性や創造性を引き出す重要な場と捉えています。その一環として「遊びの拠点化」を進め、子どもが自ら興味を持ち、探求を深められる環境を整えています。

従来の「遊びのコーナー」は、保育者が主導し設定するものでしたが、「遊びの拠点」では、子どもが主体となり、遊びを展開していくことを重視します。
拠点は、保育者が環境を整えつつも、子どもが自由に選択し活動を発展させるための遊びの基地です。室内外問わず図鑑や道具を配置し、興味を刺激する工夫をし、自然物や地形・室内環境を活かした環境作りを行っています。

拠点の目的は、個別最適化された子どもたちが遊びを通じて深い学びを得ることです。
土や水と触れ合う遊びを拡張し、子どもたちが自発的に試行錯誤を繰り返しながら新たな発見をするような仕掛けを考えます。

保育者の成長を支える仕組み

拠点づくりには、子どもの興味や発達を見通す力、環境を構築する力が求められます。特に経験の浅い保育者にとっては難易度が高いため、向山こども園では段階的に学べる仕組みを整えています。

1年目の保育者は、他の保育者が作った拠点を観察し、学ぶことからスタートします。夏休みの自己評価と面談を経て、「環境を考える人」または「環境を作る人」を選択できるようにし、自身の成長度合いに応じた関わり方ができるようにしています。選択しない場合は、学年主任や環境チームが連携して環境を構成します。

また、環境を効率よく構築できるよう「環境パッケージ」を用意し、無資格者でも一定の水準を保ちながら拠点づくりができるようにしています。この仕組みによって、より良い保育環境を提供することが可能になっています。

遊びの観察と評価の進化

向山こども園では、遊びの観察と記録にICTを活用しています。Googleフォームで記録を収集し、それをスプレッドシートで管理することでデータベース化。さらに、ソフトウェアを活用して個人帳票を作成し、保護者向けの報告書をAIで要約する仕組みを導入しています。

この取り組みにより、保育者の負担を軽減しながら、記録の質を向上させることができました。また、音声入力を活用することで記録作業を効率化し、情報共有が円滑に行えるようになったことで、カンファレンスの質も向上しました。

以前は、個別で打ち込んでいたため、その日の情報共有があまりなされていない中で議論が行われていましたが、音声入力による記録にすることで、チームのメンバーがその声を聴いているので、情報の共有が可能になり、その後、より有意義な議論ができるようになりました。

ICTとAIの活用による遊びの深化

子どもたちの遊びをより豊かにするために、ICTやAIの活用も進めています。今回の発表では、タブレットを使って音声を合成して効果音を作ったりしている遊びを報告させていただきました。

また、AIを活用して劇のイメージ図を作成することで、子どもたちの創造力を引き出すたり、オリジナルの音楽を作ることでやダンスの制作を支援することで、自己表現の幅も広がった事例をお話しさせていただきました。

しかし、シンポジウムでは「AIやデジタル技術の活用が幼児期の身体性を阻害しないか」という重要な指摘もありました。
AIやICTはあくまで道具であり、子どもたちが実際に身体を動かし、感覚を通じて学ぶことが何よりも重要です。
これからも、デジタル技術を取り入れる際には、子どもたちの体験が損なわれないように十分に配慮する必要があると感じました。

シンポジウムで得た新たな視点

拠点の重要性と「遊びの遊び化」という視点の必要性

今回のシンポジウムでは、向山こども園の遊びの拠点化に関するさまざまな意見や質問をいただきました。その中で特に印象的だったのは、「拠点が最上位の概念ではなく、コーナーも拠点も必要ではないか?」という指摘でした。

拠点について詳しく説明した際、拠点が遊びの発展において最も重要な概念なのかどうかを確認される質問がありました。
実際、向山こども園では一時期、「拠点化」を最重視するあまり、保育者が積極的に遊びを提案する「コーナー」的な要素が軽視される傾向にありました。つまり、子ども発信の遊びを優先するあまり、保育者が遊びを仕掛ける機会が減っていたのです。

しかし、遊びを深めるには、子どもが自ら興味を広げていくことも重要ですが、保育者が提案する遊びのきっかけも大切です。たとえば、保育者が作ったコーナーが子どもの関心を引き、それが子ども自身の主体的な遊びへと発展することもあります。
その意味で、「拠点が良い」「コーナーが良い」という二元論ではなく、どちらも必要であり、相互に影響を与え合いながら成長していくものだと改めて考えさせられました。

また、シンポジウムでは「拠点=遊びの充実」と捉えすぎていないかという指摘もありました。向山こども園では、拠点を設けることで遊びを深めることを目指してきましたが、遊びの本質は必ずしも拠点やコーナーといった枠組みの中に収まるものではないという視点も示されました。

石井先生の発表の中で紹介された1歳児の探索活動の映像は、まさにこのことを考えさせられるものでした。
一見すると、その1歳児は目的もなくフラフラと歩き回っているように見えます。しかし、よく観察すると、5歳児の遊びに興味を示し、遠くからじっと観察したり、模倣しようとしたりしていることがわかりました。
5歳児がトランポリンのように板の上で跳ねているのを見て、自分なりにその動きを真似しようとしてみたり、滑り台の階段を1段だけ上って別の視点から周囲を見ようとしたりする行動が見られました。

保育者は、この子の動きを「フラフラしている」と捉えてしまうこともありますが、実はその背後には明確な意図があるのではないかという視点が重要だと示されました。

この話の中で、「遊びの遊び化」という考え方が提起されました。
これは、遊びが何か特定の活動に限定されるのではなく、その子にとっての遊びとは何かを見極めることが大切であるという視点です。保育者が環境を設定することで生まれる遊びもあれば、子どもがその場の状況に応じて自由に見つけていく遊びもあります。一見すると「目的がない」と思われる行動も、その子にとっては意味のある探索活動であり、その瞬間の学びにつながっているかもしれないのです。

AIやICTをどのように保育の中で位置づけるのか

また、シンポジウムではAIやICTの活用についても意見が交わされました。特に「AIを使うことで、幼児期の身体性が損なわれるのではないか?」という指摘がありました。
デジタル技術を活用すること自体は有意義ですが、幼児期の子どもにとっては身体を使うことが何よりも重要です。もしAIやデジタル技術が子どもたちの身体性を奪うものであるならば、それは本末転倒になってしまいます。

これに対して私は、向山こども園での取り組みを説明しました。
AIを使うことで逆に身体性が高まる場合もあり、例えば効果音を作る遊びでは、子どもたちは自分の体を使って様々な音を出し、試行錯誤を繰り返していました。
ブラックホールに吸い込まれる音を表現するために、自分たちの声を録音し、加工して何度も試すというプロセスを楽しんでいました。

また、AIが作曲した音楽に合わせて子どもたちがオリジナルのダンスを考えたり、作詞した歌を歌ったりすることで、創造性や表現力を豊かにする場面も生まれています。
これまで既成の音楽に合わせて踊ることが多かった子どもたちが、自分たちで歌詞やメロディを生み出し、それに合わせて踊るという新たな遊びを発展させることができました。

こうした実践を通じて、AIやICTは単なる「便利なツール」ではなく、子どもたちの遊びを広げるための「拡張ツール」として活用できると考えています。
しかし同時に、それをどのように使うかは慎重に考えなければならず、子どもの主体性や身体性を奪うのではなく、むしろそれを支援する形で活用していくことが重要だと感じました。

このシンポジウムを通して、改めて「拠点化」という概念を見直し、コーナーとのバランスをどう取るか、またAIやICTをどのように活用するかについて、より深く考える機会を得ることができました。参加された先生方の多様な視点に触れ、自分自身の考えを整理し、これからの保育の在り方を見つめ直す貴重な時間となりました。

保育における遊びの意義や、ICT・AIの活用について、これからも試行錯誤を重ねながら、より良い保育を目指していきたいと思います。

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