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「壊す」ってアリ? 予想外に広がる子どもの遊びと保育者の関わり方

新しい園舎のひだまり棟とばっぱんちを結ぶ通路を作っていたときの出来事を通じて、保育における「予想外の遊び」と「遊びの適切性」について考えました。
特に、経験の浅い保育者が迷うことの多いポイントについて、実際の場面を振り返りながら整理してみたいと思います。


ウッドデッキ作りと子どもたちの発見

新園舎の建築が進む中、コストを抑えるためにウッドデッキを自作することになりました。ホームセンターで人工木のデッキを購入し、組み立て作業を進めていると、土曜日に園に来ていた子どもたちが興味を持ち始めました。最初は遠くから様子をうかがっていましたが、安全面に問題がなかったため「近くで見てもいいよ」と声をかけると、次第に作業場に近づいてきました。

そこから、子どもたちの遊びは次々と展開していきました。

素敵なものを見つけました!

① 積み木として遊ぶ

まず、子どもたちは切り落としたウッドデッキの脚部分を積み木のようにして遊び始めました。四角く整った形の材料は、積み上げるのにちょうどよく、子どもたちは工夫しながら高く積み上げたり、並べたりしていました。

ウッドデッキの素材が木ではないこともあり、触った感触を確かめたり、持ち上げてみたりしながら、素材の特徴をじっくりと観察している様子が見られました。

② 砂集めに発展

しばらくすると、子どもたちはウッドデッキの脚部分に穴が開いていることに気づきました。「ここに砂が入る!」と興味を持ち始めると、さっそく近くにあった砂を詰める遊びが始まりました。

さすが!よく気が付きますね

手で砂をすくって入れたり、のぞいてみたりと、それぞれが工夫しながら試していました。
遊びの中で、「どのくらい入るかな?」「詰めたらどうなるの?」と、自然と実験するような姿勢が見られました。
ここまでは私の想定の範囲内。
ところがここから、予想外の展開になっていきます。

③ 偶然の破壊と新たな発見

そんな中、一人の男の子が手を滑らせてウッドデッキの脚を落としてしまいました。その瞬間、この素材は割れてしまいました。

最初は「やばっ!」と少し緊張した様子が見られましたが、飛び散るような割れ方ではなく、危険もなかったため、「あ、割れるんだね」と伝えると、子どもたちの興味が一気に「割れること」に向かいました。

キレイに割れました。衝撃には弱そう。

すると今度は、「どうしたら割れるのか?」という興味から、高いところから落とす、強く地面に打ちつけるなど、さまざまな方法を試し始めました。ここで子どもたちは「強く当てると割れる」という法則を発見し、次第に遊びのテーマが「破壊」へと移行していきました。

どうやったら割れる??
できるだけ高いところから!

④ 破片を使ったブルドーザー遊び

割れたウッドデッキの破片を手に取った子どもたちは、それを地面の上で動かし始めました。どうやら、園舎の周りに敷かれた山綱の砂を均す「ブルドーザー」のように見立てたようです。

いろいろな使い方ができるラテラルシンキング。型が強くなる大人にはないな~

「ガガガガガ」「ザザー」と、子どもたちはまるで工事現場の作業員のように夢中になって砂を押し動かしていました。最初は単なる「壊れる素材」として見ていたものが、新たな道具として活用されていく様子は、とても興味深いものでした。

⑤ チョコレート屋さんごっこへ

しばらくすると、子どもたちは割れたウッドデッキの破片を階段の上に並べ始めました。「何をするのかな?」と見守っていると、「チョコレートだよ~!」という声が聞こえてきました。

次はそう来たか!

並べた破片をチョコレートに見立て、砂をふりかけて「お砂糖」として表現し、いつの間にか「チョコレート屋さんごっこ」が始まっていました。

ブルドーザーの遊びから一転して、お店屋さんごっこへと展開していく姿には、子どもたちの豊かな発想力が感じられました。

ずいぶんたくさん並べたね 笑

遊びの適切性をどう判断するか

今回の遊びの中では、遊びがどんどん展開され、さらに「物を壊す」という行為が含まれていました。このような場面に出くわしたとき、保育者としてどのように判断すべきか迷うことがあるだろうなと感じました。

今回のケースのように、どんどん遊びが展開していくのは、子ども主体の保育ではあるものの、結構迷うポイントではあります。
廃材として処分する予定だったウッドデッキの脚が子どもたちの遊びに活用され、偶然壊れたことで「割れる」という特性を発見しました。そこからさらに「どうしたら割れるのか?」という興味が広がり、遊びとして発展していきました。
このように、偶然から生まれる遊びは、保育者が想定していなかった展開を見せることが多く、適切かどうかの判断が難しくなることがあります。

また、「壊す」という行為自体をどのように捉えるかも重要なポイントです。一般的に、破壊行動は否定的に捉えられることが多いですが、それが実験的な探求であったり、新しい遊びへの発展につながる場合もあります。今回のように、壊すことで素材の特性を理解し、さらにその破片を使って新たな遊びへと展開するケースでは、一概に「適切でない」とは言えません。

このように、「遊びの適切性」を判断することは、保育者にとって非常に迷うポイントだと思うので、ちょっと解説してみます。

保育者としての関わり方

遊びが予想外に展開する場面では、保育者はどのように関わるべきかを判断する必要があります。特に、今回のように「物を壊す」という行為が含まれる場合、適切な対応が求められます。その際に大切にしたいこととして、次の二つの視点を持っておくことが重要です。


① 「起こってほしいこと」を1つか2つ決めておく

子どもの遊びは計画通りに進むものではなく、その場で生まれ、展開していくものです。そのため、遊びの内容を細かく決めるのではなく、「この遊びの中でどんなことが起こってほしいか?」を1つか2つ意識しておくと、遊びの変化にも柔軟に対応できます。

例えば、今回の場面では異年齢の子どもたちが関わっていたため、「お互いに意見を伝えながら遊ぶこと」を主眼に置いて見守ることにしました。実際に、子どもたちは「次は私がやるね」「今から落とすから待ってて」などの声掛けをしながら遊んでおり、コミュニケーションが活発に行われていました。

このように、遊びが想定外の展開を見せたとしても、「子どもたちが何を経験するか」に焦点を当てておけば、遊びの形にとらわれずに適切に関わることができます。

逆に、「やってほしいこと」や「こうしていくだろう」と具体的に考えたことを起こそうとすると、どうしても保育者の意図が強くなり、自分たちで遊びをクリエイトしていくことができなくなってしまいます。
予想しておくことは大切ですが、柔軟に対応するためにも、やってほしいことよりも、起こってほしいことを考えておくのがポイントです。

② 「ネガティブリスト」を明確にしておく

自由な遊びを尊重する一方で、「絶対に避けなければならないこと」を明確にしておくことも重要です。これは、遊びを制限するためではなく、安全に遊ぶための基準を持つという意味で必要になります。

今回の場面では、

  • 怪我をしないこと

  • 新築の園舎に傷をつけないこと

この二つを守ることを優先しました。
例えば、ウッドデッキの脚が割れるときに破片が飛び散る可能性があったため、「とがった部分には気をつけてね」と伝えました。
一方で、切り落とした脚は廃材として捨てる予定だったため、壊すこと自体を止める必要はないと判断しました。

遊びの適切性を判断する際には、「壊すことが良いか悪いか」ではなく、「壊すことで何が起こるか」「安全に遊べるか」という視点を持つことが重要です。
そのため、日頃から「これだけは避けたい」というネガティブリスト(やってはいけないこと)を決めておくことで、迷わず適切な関わりができるようになります。

遊びを見守るために

子どもたちの遊びは、大人の想定を超えて広がっていきます。そのたびに「この遊びは適切か?」と考え込んでしまうと、子どもの自由な発想を妨げてしまうことになりかねません。

だからこそ、

  1. 「起こってほしいこと」を1つか2つ決めておく

  2. 「ネガティブリスト」を明確にしておく

この二つの視点を持つことで、遊びの自由さを保ちつつ、必要な場面では適切な声掛けや介入ができるようになります。保育者として、子どもたちの主体的な遊びを大切にしながら、安全に見守るための指針として意識していきたいポイントです。
何かの参考になれば幸いです。

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