アラワシの詠 【プレイバック!はじまりの美術館18】
現在、臨時休館中のはじまりの美術館。これを機に、はじまりの美術館のこれまでの展覧会をみなさんと一緒に振り返ってみたいと思います。
はじめて展覧会を見る方も、実際に展覧会を鑑賞された方も、写真やスタッフの四方山話を通して、改めて作品や作者に出会っていただければと思います。当時の裏話?や関わったスタッフの想いなども改めて振り返ってみました。残念ながら今は展覧会を開催できない時期ですが、この6年間の展覧会を改めて見つめ直して、この先の企画を作っていく足場を固める期間にしたいと思っています。
スタッフ紹介
アラワシの詠(うた)
会期:2018年 11月 10日(土) ~ 2019年 1月 20日(日)
出展作家:浅見俊哉、上田假奈代(釜ヶ崎芸術大学)、鈴木ヒラク、富塚純光、中村和暉、宮川隆、吉増剛造
主催:社会福祉法人安積愛育園 はじまりの美術館
共催:福島県立博物館、埴谷・島尾記念文学資料館
助成:福島県博物館連絡協議会(被災博物館・被災文化財救済事業)
大政:プレイバック18回目は、第16回企画展「アラワシの詠」について振り返っていきましょう。企画担当は、岡部さんでした。
小林:「アラワシ」は、カタカナで書いてあるタイトルですけれども、タイトルも含めて、この展覧会を企画したきっかけから聞いちゃいましょうか。
岡部:これは福島県立博物館の川延さんからご提案いただいたことがきっかけでした。今回の出展作家でもある詩人・吉増剛造さんの個展が、足利市立美術館から始まるので、その巡回企画を福島県内でも実現できないかと考えている、そのパートをはじまりの美術館で担ってもらえないだろうか、というようなご相談でした。足利市立美術館で吉増さんの個展「涯テノ詩聲(ハテノウタゴエ )」を企画された学芸員の篠原さんも一緒にいらっしゃって、お話をお聞きしたのがはじまりでしたね。
小林:吉増さんとは2016年に開催した浦上玉堂についてのイベントでこの美術館に来ていただいたつながりがありましたね。
岡部:そうでしたね。浦上玉堂さんの描いた国宝にもなっている絵で、文豪の川端康成さんの書斎に飾られていたという「凍雲篩雪図(とううんしせつず)」という作品があります。
それを題材に吉増さんが「gozo Cine」というシリーズで映像作品を制作されて、その上映会をこの美術館で開催するイベントでした。その昔、浦上玉堂さんが猪苗代の土津神社の神楽を復活させたということもあり、猪苗代がイベントの会場になりました。
小林 :そのイベントに足利市美の篠原さんや「手作り本仕込みゲイジュツ」展のトークイベントにも来ていただいた東京国立近代美術館の保坂さんもお客さんとしていらっしゃっていました。そして、そんな吉増さんの展覧会をしないかというご相談いただきましたが、最初は「うちなんかでは荷が重い」と感じましたよね。
岡部:やっぱり日本を代表する詩人のお一人ということや、東京国立近代美術館で開催されたイメージも強かったですね。以前、詩人の和合亮一さんに「絶望でもなく、希望でもなく」展に参加いただきましたが、詩人の表現をどのようにご紹介したり展示したりするとよいか、自分たちでは難しいのではないかと感じていました。
小林:でも、実際に川延さんや篠原さんと打ち合わせしていく中で、吉増さんといわゆるアール・ブリュットの作家さんといった形で、これまでのようなはじまりの美術館の企画展という形に落とし込んで考えればできるんじゃないかっていうことで話が膨らんでいった記憶があります。
岡部:そうでしたね。当初は吉増さんの原稿や手帳など、そういう文字の作品に絞りつつ、言葉をテーマにした企画の構想を膨らませていきました。
大政:最終的には、福島県内で、福島県立博物館と埴谷・島尾記念文学資料館、そしてはじまりの美術館の3館で連携しながら、それぞれで企画した展示を少しずつ会期が重なるような形で展開するということになりましたね。
小林:その中で「当初の文字や言葉といったテーマでは単調になってしまうんじゃないか」っていうことと、あと「『詩人』って何だろう」っていうことをすごく考えてましたよね。その中で何かこう「言葉を現す」といったフレーズや吉増さんが「全身詩人」と呼ばれていることがこの企画の主軸になったいきました。
岡部:「詩人って何なんだろう」とか、「詩って何なんだろう」っていうようなことを考えながら、吉増さんの表現の多様さについても考えていきました。全身詩人と言われてるように、文字で詩を起こしてそれを朗読する以外に、多重露光の写真を撮られてたりとか。あとは銅板に文字を打ち出していたりとか、自分の原稿の上から着彩されているとか。絵の具を垂らすパフォーマンスや、他のジャンルの作家さんとのコラボレーションもすごく特徴的で、そんな幅の広い表現に注目していきました。
大政:やっぱり展覧会タイトルになってる「アラワシ」がキーワードになっている感じですね。
岡部:そうですね。そういうふうに吉増さんの表現を追いかけていく中で表現することは、何かを表すことだったり、何かが顕在化する、現れてくることではないかっていうところからその言葉が出てきたのを憶えてます。また、はじまりの美術館の天井は梁がむき出しになって構造が丸見えなんですけども、このように通常なら仕上げ材によって隠してしまう構造部分を露出させることを、建築用語で「アラワシ」とか「アラワシ造り」っていうそうなんですね。それは何か大事なものがこの剥き出しになっている、そういうふうなイメージがあって、この企画ともすごく重なるなと思ったことも覚えています。
大政:アラワシ造り、いい言葉ですよね。
岡部:そしてこの「詠」っていうのも普段は名詞では使わないですよね。詠嘆(えいたん)の「詠」で、「詩を詠う」という使い方をされますが、これは完結したものじゃなくてアラワれ続けているっていうか、感動が溢れ出ているというか、そういう雰囲気も含めたくて、この漢字を使わせてもらいました。
小林:そんな流れで企画を立てていったわけですけれども、吉増さんを筆頭にたくさんの方に出展いただきましたね。
岡部:さっきの話にいろんな作家さんとのコラボレーションの話もありましたが、今回出展いただいた鈴木ヒラクさんもその1人でしたね。吉増さんはコラボレーションもそうですし、他ジャンルの表現領域の方にもすごく影響を与えている方でもありましたね。
大政:鈴木ヒラクさんは今回《GENGA》という作品群と《Constellation》というペインティングの作品をご出展いただきました。鈴木ヒラクさんもいつかはじまりの美術館で展示いただきたいなって思っていた方のお1人でした。《GENGA》はどこかで見たことがあるようだけど見たことないような形が、次々と形を変えて目の前に現れてくる映像作品なんですけど、今回の「アラワス」っていうところと繋がるなと思っていて今回お声がけしました。
岡部:作品は何か真っ暗闇の宇宙空間のようなところから文字が立ち現れてくるような雰囲気があるというか。また画面上にインクが落とされているドリッピングのような表現は、吉増さんの原稿にインクを落とすパフォーマンスを見たのがきっかけで始められたというようなお話もされてましたね。
大政:美術館に来て設営にも立ち会っていただきましたが、福島にもゆかりがあって、「猪苗代湖をぜひ見てみたい」ということで設営後にご案内しました。すごく喜んでくださったのを覚えています。
小林:ヒラクさんの作品は、アーツ前橋や札幌の500m美術館でも拝見したんですけれど、
なんか《GENGA》っていうの作品にも表れているように言葉とか、形とか、そういったものを探求しているというか、そういうエネルギーを感じますね。
岡部:そうですね。そして、文字のようなものが立ち現れてくるという点では隣のエリアで展示させていただいた宮川隆さんもとても印象的な作品でしたね。
大政:宮川さんの作品は、美術館スタッフみんなでNOーMAではじめて拝見したんですよね。NOーMAの横井さんの説明もお伺いしながら、すごくおもしろい表現だなと思って気になってました。
小林:宮古島で神懸かりを意味する「カンカカリャ」というものになって、ご自身では考えてるのではなく頭に降ってきたイメージをそのまま紙に落としているというふうに伺っていました。ちゃんと読めたら実際に何が書いてあるんだろうとか、そんなことも考えました。文字だけじゃなくて、仏様のようなものだったりとかいろんなものが見えてくる不思議な作品でしたね。
岡部:東日本大震災の後には、印象的なイメージがたくさんやってきたっていうようなこともおっしゃっていて、その時に書き上げた作品群もお借りできましたね。
大政:ご本人としては「作品」という印象じゃなくって、本当に頭の中に降りてきたものを書き写しているだけだそうです。作品をお借りに伺った際も、どさっと紙の束になっていて、「この中から好きなだけどうぞ」っていうような感じでした。宮川さん自身は書き写した後のものに対するこだわりはないそうなんですが、誰かに見せることに対する抵抗もなくって、その出来上がった物との距離感がすごくユニークだなと感じました。
岡部:展示方法などについてご相談したときも、上下どのように展示するかもこだわらないっていうようなことをおっしゃってました。そして、「これは展覧会に出すようなものではないかもしれないけど、自分がやらなきゃいけないことの途中経過を皆さんに見てもらうという意味では、意味があるのかな」といったようなこともおっしゃってましたね。
小林:途中経過っていうお話を聞くと、あれ自体は完成したものではないっていうことなんですかね。
大政:グラフィックとしてはものすごく完成されて見えるんですけどね。
岡部:何かあれはぶっつけ本番で書かれているわけではなくて、練習もいっぱいされてるっていうこともおっしゃってましたね。イメージが仕事中にやってくると、もう仕事にならなくなっちゃって、それをずっと練習するようになってしまうそうです。
大政:宮川さんは会期中にお兄さんと一緒に来てくださいました。
小林:お兄さんが、実は吉増さんとも一緒に旅をしたこともあるという方でしたね。でも、そんな宮川さんの話を聞いて、障害のある作家の方にもわりと多いですが、書いた物にこだわらないというところがちょっと通じるものがあるなと思いました。
小林:この展覧会ではアール・ブリュット ジャポネ展にも出展されたアトリエすずかけの富塚純光さんにも出展いただきましたね。富塚さんも壮大な物語を書く方でしたね。
岡部:富塚さんは、基本的に自分がお休みのときに出かけた時のことをメモしておいて、それを創作の時間に書き起こすということをされてたそうです。画面の構成が独特ですよね。
大政:今回6点の作品をお借りして、その6点は全て《歴史ロマンチック街道 我が青春 男ロマン王物語》という一つの物語になっているシリーズ作品でした。どこから描き始めているのかお伺いし忘れたのですが、色彩が文字と溶け合うような形で描かれていて、読もうとするのは難しいんですけど感じ取れるような。
岡部:海外に出展されたときに渡航されてことがきっかけで、それから空想の話も織り交ぜて制作されるようになったそうです。本当に文字と絵が渾然一体となって、ストーリーが富塚さんの中から紙の上に溢れ出してきているような興味深い作品でしたね。
大政:同じ部屋の向かいでは、アトリエコーナスの中村和暉さんに出展いただきました。中村さんは「ポコラート全国公募展」などでご紹介されていたこともあり、気になっていました。今回は紙に言葉を描いた作品とご本人の言葉の音声を展示をさせていただきました。ご自身で、スマートフォンの録音機能を使ってたくさん録音されていて、紡いでいく言葉のリズムがすごく素敵で心地よいですよね。
小林:コーナスの方から伺った話ですけど、コーナスの利用を始めた当初は、あんまり話す方ではないって思ってみたいですよね。でも、ある日突然中村さんがお話されてるのを聞いて、そしたら何かどんどんどんどん言葉があふれるようになったっていうエピソードを伺いました。そして、その中村さんが話すリズムと声がとても心地よかったっていうことで、記録するというようなこと始めたそうですね。
岡部:当初は、中村さんが拒否を表すときの単語で「ハマチ!」だけしか言葉が出てこなかったそうですけど、コーナスの方と関係性ができていく中で自身のお気に入りのフレーズが溢れ出してきたっていう感じなんですかね。何かヒップホップのライムを聞いているような、ずっと身を委ねていたくなるような心地よい声のトーンとリズムですよね。声の表現っていうことでも、とても考えさせられた印象深い作品でした。
大政:なんか真似したくなる独特な言葉と声ですよね。ポコラートでも作品部門ではなく、「形にならない表現部門」での受賞で、まさに形にならない表現だなあと思います。
小林:そういう文字だけじゃなくて、言葉とかさらに体も含めて表現されていたのが上田假奈代の釜ヶ崎芸術大学の作品だったんじゃないかなと思います。展示室の入り口から、もう
、ぐわっと文字がいっぱいの展示でしたね。
岡部 :釜ヶ崎で書かれた書や絵葉書のようなイラストと、参加型の作品ということで来場されたの方にもたくさん言葉をしたためてもらいましたね。
大政:《真剣な言葉》というタイトルで、展示してあるもの全て、空間全体が作品というような形でした。釜ヶ崎から上田さんにも来ていただいて設営いただきました。映像あり、俳句あり、短歌あり、釜ヶ崎のおじさんたちの書がありで、ものすごい空間の密度でした。
岡部:会期初日のギャラリートークにも、假奈代さんに参加いただきましたが、そのときにおっしゃってた「安心して自分を表現できる場がまずは大事だよね」っていう言葉はとても印象に残ってます。
小林:その日はワークショップも開催しましたね。合作俳句とココルームが作ったワークショップ「こころのたねとして」を実施しました。
大政:会期初日のイベントだったこともあり、出展作家の浅見俊哉さんとアトリエコーナス代表の白岩さんにもご参加いただいて、スタッフと参加者の皆さんで、言葉を交えたり、お互いの聞き取りをしたりすごく充実した時間でしたね。
大政:上田さんが代表のココルームはゲストハウスも運営していますが、今回のコロナ禍でやはり大変な状況ということもあり、今クラウドファンディングもされていますね。
小林:「ピンチはチャンス!」といった発信がココルームらしいです。ご飯も美味しくいろんな方々の拠り所でもある場所ですし、今後も応援していきたいと思っています。
岡部 :そして、釜ヶ崎芸術大学の隣のスペースで展示いただいたのが、写真家の浅見俊哉さんでしたね。《網膜の像》というシリーズ作品を展示いただきました。
小林:浅見さんは最初、毎年この美術館の開館記念のマルシェ・はじまるしぇにお手伝いに来てくださる松永先生が、「猪苗代でワークショップをしたい」ということで、ワークショップ講師としてきていただいた方でした。日光写真のワークショップをしていただいたのですが、すごくいい雰囲気で。そのまますぐにその夏のオハラ☆ブレイクでの出展もお願いして。そしてさらに企画展でも出展いただくことになり、一気に距離が縮まった作家さんでもありましたね。
岡部:そうですね、ワークショップでやってらっしゃる日光写真の他にも、いろいろな撮影の手法を試されていて、今回出展いただいたこの《網膜の像》っていう作品も、まばたきとまばたきの間の時間にフィルムを露光するという手法の作品でした。そのシャッターの開いている時間が、1枚毎の作品名にも入っていました。
大政:他の出展作家の方は何かしら文字や言葉の要素が入ってるんですけど、浅見さんは写真、でしたね
岡部 :吉増さんの表現手法のひとつに写真があり、写真の作家さんはどなたか入っていただきたいなと思ってたのもあったんですが、中でも浅見さんの作品は長時間露光をしているから、画面がぶれているわけですよね。だけどそのぶれた画像から、いろんなことが立ち現れてくるっていうか、何か人の目では見過ごしてしまうようなものが写し込まれているような印象を受ける作品で、それがとても美しく印象的で、今回の出展をお願いしました。
小林:そうでしたね。ある作品では、草むらから光がきらっとしてるものがありましたよね。その光は肉眼で見ると実は気づかないけれども、長時間露光で撮影することで草むらに落ちていたスプーンに反射した光が強く現れているということを伺いました。そういうところは詩的といいますか、なんか吉増さんの表現に通じるものがあるように感じましたね。
大政:スプーンの光が写っていた作品は、津波の被害があった閖上地区で撮影されたものでした。人間の目で見えてないようだけど、本当は見えていたり捉えたりしているということを気付かせてくださる作品でしたね。
岡部:浅見さんの写真から、小林さんが言ったみたいな詩情を感じる作家さんでしたが、実際に言葉を使っての詩作もされているということを伺って、何かすごく納得感があったのを覚えています。
岡部:やっぱり企画を通して「詩」というものが何なのかっていうことを考えながら来たところもありますが、その中でやっぱり吉増さんが撮られていた二重露光の写真もそういう詩情がすごく浮かんでくるというか、何気ない日常風景の重なりから、別な何かが立ち顕れるのを感じました。
小林:吉増さんの作品は私には少し難しいと感じる部分があります。でも、難しいんですけど、何か心に引っかかるというか、パフォーマンスしている映像も展示室入り口に展示しましたけれども、なんかザワツいて気になるっていうような。「わからないから、いいや」じゃなくて「わからないから、もっと知りたい」ってなるような、そんな魅力を感じるんですよね。
大政:そうですね。よく、「アートはわからない」とか「難しい」とかって言われると思うんですけど、そもそもわかるためにある表現っていうのではなくって……。自分たちが知らないことを知って楽しんだり面白いって思えたり、そういう糸口みたいなものを吉増さんから感じるときがあります。でも単純にドローイングとか原稿とかめちゃくちゃかっこいいと思います!
岡部:会期中には吉増さんと、和合さんをお招きし、篠原さんに司会をお願いしてイベントも行いました。吉増さんはその詩作の中で、句読点や文字間のスペース、改行や濁音などを多用される表現があります。和合さんの新著「QQQ」という詩集では、文末に全てクエスチョンマーク(?)がついた作品があり、話題に登っていました。二人の対話からは、それぞれ言語を使いながらも、言外のものをいかに言葉で表すかっていうようなことを試行されているということが伺えました。そういう、生活の中で捕まえてしまった言葉で表現できないものや感覚どう表現するか、という部分に、アール・ブリュットと言われる作品とも重なる部分を感じました。
大政:そうですよね。QQQを朗読いただいたり、吉増さんにパフォーマンスしていただいたり、ものすごく贅沢な時間でしたね。全国から吉増ファンの方々が集まりました。
岡部:吉増さんの展示で忘れてはいけないのが、展示構成をしていただいた岩本さんですね。
小林:岩本さんは奥様と一緒にきていただきましたね。岩本さんは造形作家であり、元々、大岡信ことば記念館の館長さんでもありました。昨年、足利でギャラリー&カフェもオープンされましたよね。当時、まかないでカレーを作ってきてくださって、とても美味しかったです。
大政:涯テノ詩聲(ハテノウタゴエ )展の他の会場でも展示構成をされていて、松濤美術館でも言葉のレイアウトをされていました。はじまりの美術館でも、スタイロフォームやカッティングシートを使って言葉を切り抜いたり、薄いシートを貼ったり、いろいろ見え方とか空間との相性などを意識して構成いただきました。
岡部:ピアノ線を組み合わせた、原稿専用の展示台も作成いただきましたね。
小林:なかなか我々ではできない展示で、いろいろ勉強になりましたね。
岡部:もともと岩本さんご自身が造形作家ということもあって、どの造作も見事でしたね。
小林:岩本さんには記録集の寄稿もお願いしまして、間もなく記録集も発売予定なので、ぜひ楽しみにお待ちください。
大政:そういえば、イベントも結構盛りだくさんでしたよね。
岡部:そうでしたね。このはじまりの美術館がある猪苗代町にも、江戸時代に猪苗代兼載という連歌の名手がいたということで、研究者の戸田純子先生をお迎えして、連歌のワークショップを開催しましたね。そのときは猪苗代の偉人を考える会の皆さんにも大変ご協力をいただきました。まだまだ猪苗代町内や県内でもあまり知られていない方ですが、当時は全国的に有名な連歌人だったようですね。
小林:このとき初めて連歌っていうものをやってみました。上田假奈代さんとやった合作俳句にもちょっと通じるものもありますが、前の人の句をつなげて広げていくっていうのが面白くて。「連歌」って考えてしまうと、難しいなって思っちゃうんですけれども、もう少し連歌の持つ面白さを今風にアレンジできたらいろいろと広がっていくんじゃないかな、なんて勝手に思ってました。
大政:Twitterとかnoteだったりがあるので、言葉の文化や一人一人が言葉を発するっていうのは、意外と昔よりは盛んなのかなと思っています。短歌や◯◯川柳みたいな形で、様々なジャンルやテーマでなにかと流行ってる感じですよね。少しずつ形を変えながら、今の時代につながってるのかな思います。
小林:この冬も、毎回お世話になっている猪苗代の語り部・鈴木清孝さんと、会津語り部会の清野さんにお越しいただいて、会津の冬にまつわる民話語りをしていただきましたね。この展覧会にもとても合っていて、たくさんお客さんにきていただきました。
小林:また会期中、unicoとのコラボでもご一緒しているヘラルボニーさんとの企画も行うことができましたね。
岡部:そうですね。ヘラルボニー代表の松田崇弥さんと、当時のブランドMUKUのプロモーションビデオに出演されていたラッパーのGOMESSさんに来ていただき、お二人のトーク&ライブということで、開催しました。
大政:これもなかなか贅沢なイベントでしたね。崇弥さんからヘラルボニーの誕生秘話を伺い、その後クロストークをして。気付けばいつの間にかライブになっていました。GOMESSさんが最初は普通に喋ってたと思ったら、どんどんビートに乗せて、気づけばもうそれが歌になっているというか。衝撃的な体験ですね。
岡部:GOMESSさんがおっしゃるには、普通に話をしようとするとなかなか言葉が出てこない。けれど、よく歌うように話すっていうことがあるけれど、話すように歌うっていうのもあるんじゃないかみたいな。そんなところからだんだんとリズムが生まれて、気付けばGOMESSさんの世界にどんどんこう引き込まれていきましたね。
大政:GOMESSさんは翌日、PVの撮影を猪苗代で行うことになって。モデルさんとカメラマンさんが合流して、はじまりの美術館の裏庭と猪苗代湖で撮影されていたのもちょっと思い出深いです。
小林:そして忘れてはいけないのは、このある意味難しい企画をすごい素敵なデザインにしていただいた、いわきの藤城光さんですね。ビオクラシー展にも出展いただきました。
岡部:そうですね。いつもデザイナーさんにはその企画に合ったメインビジュアルも一緒にご提案いただいてるんですが、初めに何パターンかご用意いただいて。
小林:私、すごい記憶にあるのが初めの案で出ていたトカゲがイラストになってたチラシデザインなんですよね。あれは岡部さんと藤城さんでこの企画のお話されたときに、盛り上がったエピソードがあるんですよね。
岡部:そうですね。なんか、トカゲの幼体なんですが、体が光の当たる方向に行って七色に光るトカゲがいるんですけれども、それを藤城さんも自分も見たことがあって。それが、異世界からこの世に突然現れたような、そんな印象があって、そういう話をデザインをお願いするときに話したこともあって、初めのイメージでご提案いただいてきました。実際には採用にはなりませんでしたが。
小林:そのデザインも結構好きだったんですけど、ちょっと唐突すぎるかなっていうことで別にご提案いただいたのがこの今のチラシデザインでしたね。
大政:はじまり美術館は展覧会が終わってから記録集を作るので、結構完成までズルズルと引っぱりがちなんですが、この展覧会を開催してから、はや1年半が経ってしまい、そんな中でも藤城さんは丁寧に対応いただいて本当にありがたいですよね。
小林:藤城さんは昨年、いわき市の白水というところで、演劇のプロジェクトにも関わられています。ちょうど9月10月の台風なんかもあっていろいろと予定が変わったりとかバタバタされていましたね。いろいろお忙しい中、この記録集もいよいよ完成です。
小林:吉増さんというある意味「知の巨人」を軸にした展覧会でしたけれども、何ですかね、本当に「表現」というのはどちらも「アラワ」すって読むように、本当に表現の根っこの部分といいますか、そういうところを皆さん持たれた方々だったなと思います。
岡部:吉増さんがいらっしゃったときにおっしゃってた言葉がとても印象的でした。メモしていたのですが「鑑賞者の目におもねない、素晴らしい喜びの集中力、真面目な力がみなぎっている」どの作家さんの表現からもそういう空気が感じられるということおっしゃっていました。さらに「仕切りの多い閉塞感を心の熱度の風によって吹き飛ばされていくような感じ」とも。そういうみんなの作品に照らされた自分の作品もまた喜んでいるように感じたともおっしゃってましたね。
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