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映画感想 | 超心強い味方『アイアム・ア・コメディアン』



概要

2022 / 108分 / 日本 / ドキュメンタリー
監督:日向史有
キャスト:村本大輔(ウーマンラッシュアワー)

あらすじ

テレビに居場所を失った村本大輔は劇場、ライブに活路を見出し、自分の笑い《スタンダップコメディ》を追求する。
本場アメリカへの武者修行、韓国での出会い、パンデミックの苦悩、知られざる家族との関係。世間から忘れ去られた芸人の真実に『東京クルド』の新鋭ドキュメンタリスト日向史有が迫った3年間の記録。

世間は彼の事を、嫌われ芸人、炎上芸人と揶揄する。彼のことが大嫌いなアンチ村本も多数存在する。テレビで政治的なネタを繰り返したことで、テレビ局が使いにくいから干されたのだと言うと、いや単に面白くないからでしょ、と返される。 本当にそうだろうか?

彼を毛嫌いしている皆さん、是非スタンダップして、この映画で彼のコメディ=言葉に触れてみませんか。


感想

彼がとっても純粋な人で本気で笑わせたいと思っている熱い男だと言うことがわかった。
そして劇中にもあったけど、お笑いの根本って「悲劇の中にある喜劇」だと再確認。

ウーマンラッシュアワーとメディア

私はテレビでバラエティを見ずに育ったが、それでもウーマンラッシュアワーが売れて、そしてテレビからいなくなったのはなんとなく知っていた。

その理由が政治的発言というのは映画の序盤で知り、実際のその番組が見せられるが、とっても面白い。テレビでも映画館でもウケてる。
2022年M-1グランプリで優勝したウエストランドは毒舌漫才で爆笑をかっさらったが、それが時事ネタに変わっただけで、普通に面白くて笑えた。

この映画ではコメディ=言葉、そして言論の自由が一つのテーマとなっていて、Twitterがよく引用される。
ルミネザ吉本で当時人気のあるコンビ達が漫才やコントを披露する中、彼らは明らかに異端児だ。
年一回のテレビでの漫才披露後、Twitterでの賛否(ほとんどが否)が画面にたくさん表示される。お笑いで政治について触れただけで、Twitterで好き勝手批評されるとはなんとも皮肉だ。

世界へ

彼は純粋だ。純粋に「知りたい」を追求している。
きっかけは3.11後に被災地に赴き、一年経っても仮設住宅がたくさんあることを知ったことだ。

彼自身、福井県出身で自身の町にも隣町もその隣町にも原子力発電所があるところで育った。

在日韓国人、慰安婦、全部自分ごとのように、現地に赴き、話を聞き、現地の人を笑わせる。

そして彼は世界に出る。
福井から出て無理だと言われた芸人になれたなら、日本を出たらどうなるのかと自分への根拠のない期待があるという。

黒人のスタンダップコメディアンのネタが披露される。
日本にいる私たちが思っているより遥かに厳しい差別を経験されているだろうけど、それを笑いに変えて酒を飲んで楽しい時間を過ごしている。
テレビに出れなくなった経緯を説明すると、日本の"表現の自由"に彼女は驚く。少しでも考える気かっかけになる種をまくのだと。
さすが自由の国アメリカ。ハリウッド俳優が大統領選のPRするくらいだもんね。

部屋と酒

そして部屋がシンプルなのにおしゃれなのよ。
部屋にはソファと小さいテーブルとテレビ、そしてキャリーケースが複数。
ダイニングテーブルで白ワイン飲みながらネタを考える。

彼は常に酒を飲んでいる。
なんでなんだろう。
その方が頭が回るのかな。ただ楽しいからなのかな。
人前で言葉で表現をするってとても勇気がいることだと思う。
彼はよく泣く。かっこつけだけど、強い人間ではない。

コロナ

コロナになり、アメリカ移住前に企画していた独演会ツアーは次々中止になる。
コロナ禍で最後の独演会。観客の1人に前説を任せて彼は会場を出る。
資金集めのためでもあったため、アメリカに行けないかもしれないと
泣くのだ。まぁなんと純粋なことか。思わずこちらの目頭も熱くなる。

もうコロナが落ち着いた今だから見てられるけど、当時はほんとに先が見えない日々が続いただろうなと想像する。
それでもZoomで独演会をしたりして日々を生きていく。
Zoomで観客のビデオの一覧を見るのだが、みんな背景が色々で、
当時のことを思い出す。彼は観客に「あなた達のおかげで生きれた」と言う。あの時はお互いが支え合って生きていただろう。

家族

途中途中、家族の話題が出てくる。そしてコロナになったこともあり両親に会いにいく。ここも泣かせる。
映画では、あれ、意外と仲良いじゃんと思うのだけど、
お母さんがカメラの前で少し話をずらす感じや、お父さんとの口論で過去がチラッと垣間見える。

お笑いの根本

彼は「悲劇の中に喜劇がある」「暗闇でこそ星は見える」というスタンスでお笑いをやっている。
それはお笑いの根本だと思う。
芸人の多くは辛い過去があるし、哀愁漂う笑いの方がなんとも言えぬ重厚感がある。
純粋に彼はそれを追い求めてる。
しかも私たちの身近な部分で、それを笑いに変えてくれるのだ。
私が当事者なら超心強い味方だと思う。

このドキュメンタリーは、村本を知らない人も、アンチも、彼を好きになってしまうくらい良い映画だった。
劇中でもアメリカのコメディアンにネタを見せて「a-ha?…普通」と言われたり、自身の経験からのネタを披露して歓迎してもらえたり、
アメリカでの密着も見たくなったし応援したくなった。

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