(短編ふう)キュービッドは天使じゃない
誤解していた。
キューピットは天使と関係ない。
キューピットが成長して天使になる、ということはない。
マヨネーズのロゴとも関係ない。
こちらはKewpie。
キューピー人形のように誰からも愛されるような商品に育てたいという願いからキユーピーマヨネーズとなったらしい。
元祖のキューピー人形は、アメリカの女性漫画家、ローズ・オニールが、
「ローマ神話に登場するCupidは、人々のこころにいたずらをするけれども、わたしのKewpieには愛だけを運んでほしい…。」
と、創作した。
ミッキーマウス以前は、最も競争力を高めるIP(Intellectual Property知的財産)として、日用品や食器、インテリア、服飾など、たくさんのキャラクター商品になった。
現在、キユーピーマヨネーズのロゴKewpieは、商標として権利が認められている。
Cupidに話を戻したい。
なぜなら、2024年9月20日に投稿した「(短編ふう)四問出遊と見習い悪魔」の中で、安易に「キューピットコース」に触れてしまったからだ。
“病魔”を使役する使命を負った悪魔である姉が、弟の幼い見習い悪魔に呟いてしまったのだ。
病気にかかってしまうのには、善人も悪人もない。
生き方とは関係なく、そこは不条理だ。
“病魔”を使役する姉は、不条理であらねばならいことに疲弊している。
不条理という抽象的な次元で苦しんでいる。
本来、過ちの罰として病気を与える、という方がずっと“病魔”を使役しやすい。
その点、キューピットは、個々に狙いを決めて矢を射るので、抽象的次元で悩むことはない。
まだ、幼い弟に、抽象的な概念で苦労させたくない、と思うかもしれない、という気がしてつぶやかせてしまった。
姉悪魔に、そう呟かせたのには、
抽象的な概念を愛すな、特定の個人を愛せ、
という、備忘メモが心に引っかかっていたせいだ。
改めてAIに訊くと、太宰が「斜陽」で言っている、という。
本当だろうか?とななめ読みしてみると、直治の日誌に、
「論理は、所詮、論理への愛である。生きている人間への愛では無い。」
という一行があった。
似ている気もするが、自分は、最初に「斜陽」に触れてから太宰作品はなんとなく敬遠している。じっくり読み直して確認する気にはなれない。
もう一度、Cupidに話を戻す。
キューピットが成長して天使になることはない。
Cupidと天使は、おたまじゃくしと蛙の関係ではない。
Cupidは大人にはならない。
そうなると、
「キューピットコースに編入しなさいよ。」
という姉の言葉は、いったいどういうことになってしまうのだろう。
□□□□
幼い見習い悪魔は、考えざるを得ない。
ここには、悪魔学校、天使学校、キューピット学校、がある。
他にもあるかもしれないが、彼はまだ知らない。
天使学校とキューピット学校が別物だ、というのも初めて知った。
悪魔の子は悪魔学校、天使の子はキューピット学校から進学して天使学校、と、最初から進路は決まっているものだ、と思っていた。
また、図書室の掃除当番が回ってきた。
仲良くなった司書ドロイドが教えてくれた。
「そもそも、天使はキリスト教、キューピッドはローマの神話です。」
「キューピッド?キューピットじゃないの?」
これは思わず横道に逸れた。
「発音的にはドのほうが近いです。」
初めて知った。
なんだ。トのほうが可愛らしいのに。
「じゃあ、悪魔は? なに教?」
ドロイドは、珍しくすぐには回答しなかった。
人間の瞳そっくりの視覚スキャナーがじっと見下ろしてくる時間があった。
「キリスト教じゃないの?」
「…いえ。それは違いますね。キリスト教のサタンと、悪魔は、同じではありません。」
「一生懸命勉強したら、サタンになれるんじゃないの?」
「違いますね。」
「……」
「君の目標は、サタンになることでしたか?」
ドロイドは屈んで、見習い悪魔の肩に手を置いた。
「…そういうわけじゃないけど。」
「じゃあ、悪魔ってなんだ?というのが、きっと次の質問ですね。」
「でも、それは、あなたがこれから考えていくことです。急ぐことはありません。」
そう言って、司書ドロイドは、小さな悪魔が握ったままの掃除モップに手をかけた。
「さあ、もう時間です。あとは私がやっておきましょう。」
―了―
病気や老いや災害の不条理さとどう向き合ったらいいのか迷っています。昔から疑問に感じている「四門出遊」や「ヨブ記」について、なんとなく感じていることを、もっとはっきり輪郭あるものにとらえたい気持ちで、文章化を試みたのですが、筋道のつく散文にできず、(短編ふう)の見習い悪魔の物語で、なんとなく、をなんとなく伝えられないか、と励んでいます。関連書籍に目を通したりしながら、引き続き、追いかけていきたいと思います。最後まで、読んで頂き、ありがとうございました。
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