破片の遺言
遺言はぽつりとあった。寒い部屋の、それは片隅に、透明の、隕石の破片のような文鎮は、向かい側の小さな窓からの月明かりに、そっと照らされ、寂しそうに、それを暫く守っていたのだろう。純粋な綴り言葉を。
心も身体も、随分脆くなったし、よく悲しくなるようになった。
傷はなかなか治らず、自分に自分を訴えてしまうことも多くなって、お別れをしよう、と残酷を切り出してしまうことも多くなった。ごめんねと謝っても、その頃には遅いかもしれないね。
誰かを守りたいと強く願うようになって、誰かの幸せを祈らずにはいられなくなった。
そして時々、自分のことを抱きしめてあげないといけなかったんだ、ということに気づいた。出逢わないと救われないこともある。まだ呼吸をしていたい。
人は無数の人生を歩むと、それは遅くとも早くとも何かしらの「運命の経験」は絶対に巡ってしまうようで、それは本当にその人その人の次第なのだろうし、何処の誰も、何もかもが知らない希望で、絶望だ。仮説や予測、未来の予知は偶像に過ぎなくて、いつかは虚像になってしまう。描くのなら、みたいものを、触れたいものを、感じたいものを、そうして、信じたいものを。その感じた、其々の美しさといったものを、僕はいつも自分に教えたい。澱んだ心にほんの少し、細かい光を散りばめたら、きっと綺麗だろうから。