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物流テックNo. 1 × BtoB運送No. 1。新生ハコベルが構築する「物流の新世界」

2024年、長年放置されてきた長時間労働に対し、ついにメスが入る。年960時間を上限とする罰則付きの残業規制がトラックドライバーに適用されるのだ。
 仕事量が制限されれば、過重労働で維持してきた給与水準は保てなくなる。ドライバーの離職者が増え、2030年には最大10兆円超の経済損失が生じるという試算もある。
 そんなバッドシナリオを防ぐためにも、働き方改革から生じる諸問題──俗に言う「2024年問題」は、物流企業にとって必ず越えなくてはならないハードルと言える。

“物流クライシス”を回避する一縷の望みは業界のDXだ。

2015年に物流のDX事業「ハコベル」を創業したラクスルは、アナログでクローズドな業界に風穴を開けた。
 業界の積年の課題である多重下請け構造の解消に向けて、荷主企業と運送会社・個人ドライバーを直接結ぶ運送マッチングから事業を開始し、現在は荷主企業向けに業務管理システムも提供している。

そのラクスルは今年8月、セイノーホールディングス(セイノーHD)とのジョイントベンチャー(JV)として「ハコベル株式会社」を設立。
 物流テックのトップランナーと企業間物流の最大手が手を組み、かつてないアプローチで業界のアップデートを仕掛けることへの期待が高まっている。
 ロードマップの全貌は未だ明かされていないが、新生ハコベルはどんな手腕を発揮しようとしているのだろうか。
 JVの代表取締役社長を務める狭間健志氏にビジョンを聞いた。
 

業界を驚かせた老舗企業とのタッグ


──物流業界には課題が山積していますが、狭間さんは現状をどうご覧になっていますか。

狭間 コロナ禍で日本の物流ネットワークが、いかに品質が高く、強固であるかを再認識しました。世界中で物流の混乱が生じましたが、日本ではスーパーやコンビニから物がなくなる、というようなことは起きませんでしたから。
ただ、その品質は現場の方の“がんばり”によって支えられています。運送会社のドライバーさんはもちろん、荷主企業の物流部門の方たちも、他部署のメンバーがリモート勤務をしている中で出社し、残業を含むハードな対応を余儀なくされている。
 
物流に関わる作業がアナログであるがゆえに、現場のふんばりで成り立っていることが、コロナ禍で改めて明るみに出たように思います。

2009年東大院農学生命科学研究科修士課程修了後、ベイン・アンド・カンパニー・東京オフィスに入社。多岐にわたる業界の日系・外資系クライアントを担当。17年にラクスルに転じ、執行役員ハコベル事業本部長などを経て、8月1日から現職。

狭間 それでは何十年かかるか分からないほど、物流マーケットは巨大です。ハコベルは創業7年目にして売上は34億円。実績は右肩上がりで伸びています。他方、トラック輸送産業の市場規模は14~15兆円。業界のトップ30であれば売上高は1000億円以上、業界最大手ともなれば1兆円をゆうに超えます。
 これだけ巨大な産業を変革するなら、ハコベルも数千億円の売上高が必要です。そのレベルにならないと、業界に対する影響力を持てないからです。

──つまり、この度のJV設立はハコベルの飛躍的な成長を狙ったもの、ということですね。なぜその相手が企業間物流最大手のセイノーHDなのでしょうか。
狭間 JV設立後に驚きの反応をたくさんいただきました。
ラクスルはレガシー産業を再構築していく会社と見られているので、相手が老舗の大企業というのが意外だったのでしょう。
組むことになった決め手は、大きく三つあります。
 
一つ目は、セイノーさんと私たちの、物流業界の課題に対するアプローチの考え方が同じだったこと。
 人口減少・少子化が進む日本において、サステナブルな物流ネットワークを維持・向上させるためには、各社が「競争する」のではなく、色々なプレーヤーが自社の強みを持ち寄り「共創する」ことが必要になる。その考え方で意気投合しました。
 
二つ目は、「共創」にあたってそれぞれの強みを活かせる組み合わせであったこと。
 ラクスルやハコベルはテクノロジーを活かした仕組みづくりが得意ですが、サービスを広げるための営業力が不足していました。
 セイノーさんは全国750の営業拠点と、約3万人の社員、そして何より、長いお付き合いのある取引先が80万件もあります。
 
私たちが7年で培った取引先は、およそ4、5万件。それがセイノーさんと組むことで一気に20倍近く増える。当然、成長のスケールもこれまでとは全く変わってきます。
 他方、セイノーさんも、新しいソリューションや商品を武器に営業できることから、新規の営業先を開拓しやすくなる。そんなWin‐Winの関係が構築可能です。

三つ目は、人・組織が良かったこと。社長から役員・現場の方まで本当にいい方ばかりで、この会社と一緒に事業を進めたいと心から思えたことでした。
 実際、JV開始と同時にセイノーさんとハコベルが一体となり、Webミーティングも現場訪問も一緒に進めています。文字通り、毎日一緒にいる状態です。

──今回のタッグによって、セイノーHDの既存顧客がハコベルの新たな販路になるわけですね。

狭間 我々はこれまで地道な営業活動を重ねてきましたが、門前払いを食らった経験は数え切れません。
 しかし、JV開始後にセイノーさんが前面に立つと、相手の反応が変わって門戸が開く。
セイノーさんが長い時間をかけて培ってこられたネットワークやブランドがいかに偉大かを実感しました。

これからはセイノーさんの営業ネットワークを通じて、我々を売り込んでもらえますが、単に販路を広げて終わりではありません。
 手前味噌になりますが、このJVは、物流テックのトップランナーとBtoB運送のNo. 1のタッグ。
 セイノーグループが保有する豊富なアセットに、我々のテクノロジーを掛け合わせることで生まれる価値は無限に広がっています。
 
 
──新生ハコベルが追求する目標として、「オープンパブリックプラットフォームの実現」を掲げています。これはどんな課題を解決する取り組みでしょうか。


狭間 現状、我々のような事業者がそれぞれソリューションを提供し、荷主企業がそれら専門サービスを組み合わせながら、独自のオペレーションを構築しています。
その作業が荷主の負担となっているわけですが、荷主各社が負担に耐えて個別最適の物流態勢を築いていることが、業界のDXを阻んでいる現実もあります。
 荷主企業からしたら、ワンストップでオペレーションを組めるに越したことはありません。
物流システムの効率化のためには、企業間の垣根を越える共創、共生が必要です。
 そういった観点から、ハコベルを含む物流のサプライチェーンに関わるあらゆる物流関連企業が参加するプラットフォームの構築を進めています。

キーワードは「オープン・相乗り」です。
 
それぞれのプレーヤーが単独でソリューションを提供するのではなく、各サービス提供者の相互データ運用や連携を可能にし、荷主企業が多様な専門サービスをワンストップで揃えられる。
 
そんな共通基盤ができれば業界の効率化は一気に前進させられます。

──オープンパブリックプラットフォームの実現を含め、ハコベルはこの先どんな価値を提供していくのでしょうか。

狭間 まずは、セイノーさんの営業ネットワークに乗せるかたちでハコベルの既存のプロダクトや仕組みの価値を物流業界に広げていきます。
顧客基盤を拡大しながら、サービスの拡張も進めます。燃料や保険といったセイノーさんが保有する豊富なアセットを既存サービスに取り入れ、中小運送企業や個人ドライバーさんの事業を支援していきます。
 
その次のステップとして、先ほどお話しした「オープンパブリックプラットフォーム」の構築に注力し、業界のDXを加速させていく。
 これが向こう数年のロードマップです。

事業を拡大させ、最終的には「インフラビジネス」にしていきたいと思っています。 現状、物流の提供価値は「目的地に物を安全に・正確に・安価に運ぶ」ということに限定されているように思えますが、多様な接点を持つことが物流産業の強みであり、インフラビジネスを生み出す可能性を秘めています。 例えば、運送会社さんやドライバーさんは、毎日多くの企業と物理的な接点があり、接触頻度も高い。 それを活用すれば、企業の与信管理などに応用できるかもしれません。 ハコベルの登録ドライバーさんはすでに4万を超えており、今後も増え続ける見込みです。 その巨大な接点から蓄積されるデータをベースに、我々のテクノロジーとセイノーさんのアセットを組み合わせ、新規のビジネスを生み出していく。 そうやって物流ビジネスのポテンシャルを引き出し、インフラビジネスに発展させていきます。  

この発想は組む相手をセイノーさんに限定するものではありません。
 現に新たなビジネス創出を見据えて、様々な業界の企業との提携を探り始めています。
 他社のアセットを活かしながら、自分たちの強みに何倍もレバレッジを利かせ、世の中を変えるビジネスを生み出していく。
これは、デジタルテクノロジーに加え、高度なビジネス構築スキルや仕組みの運用スキルを併せ持つ、我々にしかできない戦い方だと思っています。

 ようやく本格的な変革の舞台が整った

狭間氏の話からは、ジョイントベンチャー設立の背景にある、ハコベルの壮大な事業ビジョンが見えてきた。
オープンパブリックプラットフォームの構築に向けた新たな動きも始まっている。この10月、ハコベルを利用する荷主企業・運送会社・ドライバーなどを対象に、同社が提携する他社のサービスを提供する「ハコベルサポーターズプログラム」をローンチ。
 ハコベル登録運送会社がガソリンを安価で調達できるサービスや、トラック車両売買のサポートサービスの提供がスタートしている。
同プログラムはどのような課題の解消を目指しているのか。また、JV化によって第二創業期を迎えたハコベルで働く醍醐味とは。
 
ハコベルで事業統括本部長を務める田島裕也氏に語ってもらった。
 

──JV設立後に現場ではどのような変化がありましたか。

田島 大きく変わったのは、セイノーさんのアセットという強力な“武器”が使えるようになって、事業展開のスピードが急速に高まったことです。
何より大きいのは、営業活動にかかる時間が大幅に短縮したこと。私たちは顧客の事業を支援するアセットの確保や、業界全体でのリレーションの強化といったところに課題を抱えていましたが、それを乗り越えるための道筋が示されました。

2005年に東大院情報理工学系研究科を修了後、新卒でリクルートに入社。不動産ポータルのシステム開発のプロジェクトリーダーを経て、オイシックスとのJV設立やEC系の新規事業の立ち上げなどを経験。14年10月にラクスルに入社後はシステム部・プロダクト開発部の責任者、オペレーション統括などを歴任後、ハコベルに参画。現在は、事業全体の責任者を務める。

──セイノーHDとはどんな関係を築いているのでしょうか。ハコベルの持株比率でいうと、セイノー50.1%、ラクスル49.9%。セイノーが主導権を握っているようにも見えます。

 田島 ハコベル事業は私たちが主導で進めており、セイノーさんが我々の取り組みをフルにサポートしてくださっています。
非常にありがたい話なのですが、セイノーさんは「自分たちのアセットを使えるだけ使っていい」と言ってくださっていました。巨大なアセットの中に燃料も、保険も、タイヤもある。我々からすると、宝の山を見つけたような感覚です。

それらの活用方法について話し合いを重ねる中で、最初に形になったのが「ハコベルサポーターズプログラム」です。
 
ハコベルの利用者様に、燃料を安価で提供したり、保険や金融商品を提供したり、物流業界に詳しい法律家や税理士の相談サービスを提供したりして、事業の継続をサポートしていく。まさに今、プログラムに載せる新商品の芽が続々生まれていて、向こう数年でかなり充実していくと思います。

──ハコベルが従来提供してきたサービスとは、若干毛色が異なるようにも思えます。取り組みの狙いは?

田島 ハコベルの取引先の多くは中小企業や個人事業主。大企業に比べて資材の調達力や福利厚生が弱いのが現実です。 そこで、ドライバーさんが安心して配送できる環境を整え、業界全体を底上げしていくのが、私たちの試みです。 分かりやすいのはガソリンです。事業コストの中で、人件費に次いで高い割合を占めているのが燃料代。 多くの個人事業主はガソリンスタンドを利用していますが、それが業務価格で給油できるようになると、2、3割のコストカットになる。 

ハコベルはこれまで、運送企業やドライバーさんにお仕事を提供してきましたが、そこにガソリン会社も加わった、と考えていただくと分かりやすいかもしれません。
今後もこの枠組みに多様な事業者を巻き込み、数年先を見据えながらサービスの幅を広げていきます。
 
 
──スタートアップには常に1年勝負という感覚もありますが、ハコベルは中長期的な視点を大切にしていくのでしょうか。
 
田島 このJVは未上場化によってハコベルのさらなる成長を狙ったものです。
組んだ相手がセイノーさんだから、時間をかけて戦うための体力も武器もある。また我々自身、様々なお客様から直接課題を聞く機会が増え、これまで以上に物流業界に深く入り込んでいます。
ようやく本格的な変革に向かうための舞台が整った、という感じです。
 
──日本には社会課題が数多く存在します。その中で物流の課題に向き合う意義や醍醐味とはどのようなものでしょうか。

田島 物流は国民の生活を根底から支えている大動脈です。それが今、瀕死の状態にある。
課題が見えているけど、クローズドな業界でなかなかDXの力が及ばない。追い打ちをかけるように2024年問題のタイムリミットも迫っている。
そんな状況だからこそ、変革を実現できたときの社会的な意義やインパクトは想像を絶するほど大きいのではないかと思います。
その巨大な挑戦に向かって、先駆者のアセットを好きなだけ使わせてもらえるのが、今のハコベルです。
 
世の中を変えたいという熱意に溢れる人にとって、ハコベルは最高の環境であると自信を持って言えます。
  
ラクスル時代は上場企業の一事業として短期的な成果も追求していましたが、その時とは視点の持ち方も変わってきます。
まだ誰も解けていない物流業界の課題と正面から向き合うには、物流業界の市況や日本の労働市場の変化を踏まえながら、1年後、3年後、5年後、10年後などと段階的に策を講じていく必要があります。


この仕事の醍醐味は、誰も解決策を持たない未知の領域でチャレンジできること。
これだけの巨大マーケットが抱える社会課題に正面から立ち向かう機会は、そうはありません。
強力な武器を持って、この危機的状況を回避し、業界の救世主になる。 ハコベルはその可能性を秘めた、唯一無二の会社であると自負しています。
 

NewsPicks Brand Design制作
執筆:小祝雪
撮影:持田薫
デザイン:藤田倫央
編集:下元陽


 


 



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