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うそのある生活 19日目
12月13日 晴れ ひどく寒い
年明けに保育園でお遊戯会があって、娘は劇の発表をすることになっている。娘はその劇をいたく気に入っているようで、保育園でも毎日のように練習をしているのだけれど、家に帰ってからも妻やわたしを相手にしきりに練習をしている。
劇は山羊とトロルが出てくるもので、ミュージカル調になっている。娘はとくに山羊が登場するシーンがお気に入りで、事あるごとに、お風呂場や寝室で、振付の大きな動きをしながら「メー、メー」と歌い出す。
その「メー、メー」というのを繰り返し聞きすぎたせいか、近頃それがいつも頭の中で再生されている。妻に話すと彼女もやはり同じのようで、もう頭から離れなくなったうえに、油断すると口ずさんでしまうことさえあるので困っているのだという。
今日の夕方のこと。台所で夕食の準備をしていると、また頭の中では「メー、メー」と聞こえだした。しばらくするとそこに「メヘェー、メヘェー」と本物のヤギのような声も混じりだしたので驚く。はじめはやはり頭の中で聞こえるのだろうと気にしなかったのだけれど、どうもそうでもないようで、寝室のあたりからそんな鳴き声が聞こえるようだ。寝室に行って耳を覚ましてみると、どうやらそれはクローゼットから聞こえてくるようで、意を決して開けると、案の定そこには本物の山羊がいた。
山羊はクローゼットにすっぽりおさまるくらいの大きさで、中にあったはずの服の行方はわからないけれど、なんだか勇ましい顔をして佇んでいる。それでしきりに紙らしいものを食べているので、なにかと思うとそれはわたしが書いた小説だった。山羊はわたしの短い話を食べ終わると、こちらに向き直って「駄作だな。味でわかる」と言ってから、またそっぽを向いた。
言われた途端には『山羊になにがわかるのだ』と思ったが、味でわかる、と言われるとたしかにそれが一番たしかな判別だというような気もした。まあ、こちらはいくら駄作と言われようと書き続けるので構わない。こちらは書くまいと何度思ったかわからないのだ。山羊に食べられたくらいでは書こうとする気持ちは無くなってしまわない、とよくわからない気勢を持ったが、その気勢もなんだか虚しいものだと、いまになって思う。
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