福山乙女旅【ふくやま美術館編】
先日、広島県の福山市に行ってきた。
旅のメインの目的はふくやま美術館で開催されている特別展「アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで」だ。
私はウィリアム・モリスのテキスタイルの大ファンだ。モリスの代表作「いちご泥棒」を初めて見たとき、その色使いとデザインすべてが私の心に刺さった。
繊細な曲線で描かれた植物も、インディゴブルーの中にひときわ映えるいちごの赤色も、今にも動き出しそうな小鳥もすべてが完璧に美しい配置でデザインされている。そして19世紀のイギリスらしいアンティークで装飾的な世界観。もう好きにならずにいられなかった。世界観すべてが好みどストライクで、熱烈な一目惚れだった。
モリスのテキスタイルが好きなくせに、私は恥ずかしながらアーツ・アンド・クラフツについては知らなかった。
チラシを読んでますますこの特別展へ行ってみたいと思った。会場でどんな素敵な展示に出会えるのだろうとワクワクしながら私は福山に向かった。
◆ ◇ ◆
開館と同時に展示室へ。
展示室の壁にはモリスのテキスタイルの数々がタペストリーのように飾られており、圧巻だった。どの作品も空間を埋め尽くすような構図なのにごちゃつきがない。
それは洗練されたデザインだからこそなのだろう。植物や鳥は写実的に描き、配置は繰り返しや左右対称を用いて整然としている。この手法がモリスのテキスタイルの真骨頂といわれている。
私がモリスを知るきっかけとなった「いちご泥棒」も展示されていた。いちご泥棒は木綿にインディゴ抜染し、木版で他の色を重ねたとても複雑な手法で描かれている。実物をよく見るとインディゴで染めたときのわずかな色むらが見え、手仕事にこだわったモリスのや当時の職人たちの息遣いが聞こえてくるようだった。
モリスの作品以外もどれも皆、ため息が出るくらい美しかった。椅子ひとつ、ランプひとつとっても機能性の中にさりげない装飾や計算しつくされたデザインが入っている。機能を邪魔せず、美しい。「粋」とはこういうもののことを言うんだろうなとしみじみと思った。
モリスのこの言葉はアーツ・アンド・クラフツを一言で言い表したような言葉だと思う。その背景には産業革命によって出現した劣悪な大量生産品や機械のように人が働くことへの批判があり、「美しいな、素敵だな」と思えるものを日常に取り入れて、心豊かに生きようというモリスの信念が現れているように感じる。
この考え方は私もとても共感できる。
「お気に入りの素敵なものに囲まれて毎日ご機嫌に生きていきたいよね!わかる〜!!」こんな女子会のノリのような薄っぺらい共感をされてもモリスは困惑するだろうけど、おおよそこんな感じのことをたくさんの人が思ってきたのだろう。だからアーツ・アンド・クラフツはここまでたくさんの人に支持されてきたのだろう。
大満足で展示室を出た私はミュージアムショップに向かった。
私はミュージアムショップを見て回るのが好きだ。作品の余韻に浸りながら、作品に関連するグッズをじっくり吟味して、今日のこの感動をまた思い出せるようなものを選んで購入するのだ。大体いつもポストカードや小さいポーチなどの小物を購入することが多いが、今回は初めて図録を購入した。
関連グッズもどれもすごく素敵だった。でも今回はこの特別展のすべてを空間ごと持って帰りたいくらい素敵で、展示物の写真や解説が載った図録を選んだのだ。これでページをめくるといつでもあの素敵な世界観に触れることができる。購入してよかったと心からそう思えた。
ふくやま美術館は美術館内にカフェが併設されている。
ミュージアムショップ同様、併設カフェに行くのも楽しい。なぜなら併設カフェは特別展に関連する特別メニューが提供されていることがあるのだ。今回のアーツ・アンド・クラフツとデザイン展も特別メニューが提供されていた。
クロワッサンのサンドイッチ、レモンジャムを添えたスコーン、カスタードとベリーのタルト。
ミニだけどちゃんとサンドイッチ、スコーン、デザートの本格的なアフタヌーンティーの構成になっていた。どれもおいしかったけれど、特にスコーンが最高だった。早い時間に行ったからかスコーンがなんと焼きたてだったのだ。外はサクサク、中はフワフワのホカホカだった。レモンジャムも夏らしくて爽やかだった。
特別展もミュージアムショップも併設カフェもすべてが最高だった。まだ午前中なのに充実感でいっぱいだった。
しかし福山乙女旅はまだ続く。あと1箇所美術館に行って、文化財に指定されている建築を見て、純喫茶を2軒はしごするのだ。
長くなったので複数回に分けて記事を書こうと思う。次はもう1箇所の美術館、「しぶや美術館編」を書く予定!
◆ ◇ ◆
ふくやま美術館
広島県福山市西町二丁目4番3号