夜明けのすべてを観た話。

映画を観終わって、映画館から外に出たその瞬間。何故だか目の前に広がる空にはっとするほど心を奪われたような。

何を言っているんだ、と思うと思うけど、この映画が観た人の心に残すのはそういうことなんじゃないかと感じた。

人は誰だって、多かれ少なかれ、大小はあれど、「解決したい」問題を抱えて生きている。10代のころ、大人になればそういった問題に頭を悩まされることは少なくなるんだろうなと漠然と思っていたけど、ところがどっこい、年を重ねれば重ねるほどむしろ増える、というか深くなることをやがて知ることになる。決して悩みがないわけじゃなくて、その悩みとやらとうまく折り合いをつけながら生きていける、いや、生きていかざるを得なくなるだけだということを。

この物語に登場する大人たちも同様だろう。主人公二人の抱えているそれがフューチャーされているが、周囲の人物たちも(描かれている人も、描かれていない人も)おそらく自分の力ではコントロールできないそれとどうにかこうにか折り合いをつけて生きているのだろう。穏やかに見える人も、順風満帆にいっているように見える人も、皆。例外などなく。

それは、自分の人生にある日突然、何のお構いなしに、目の前に立ちふさがる。描いていた夢や目標、それどころか昨日まで何の不自由なく送っていた日々でさえ奪っていく。当然、解決して昨日までの人生を取り戻したい。そう考えると思う。でも、その願いもむなしく、続くと信じて疑わなかった明日に光を見出すことは容易くないことを思い知らされる。絶望、無気力、自己嫌悪ー。

けれど決して人生はゲームオーバーになるわけではない。八方塞がりで出口がないと思っていたけど、小さな隙間から光が見える。前方には進めないけど、ほんの少し視線をずらすと、細いけど抜け道がある。周囲の人や、自分自身に対してでさえ、勝手に決めつけて壁をどんどんどんどん厚くしているのは他でもない自分なのかもしれない。

外の世界に出ることや、知らない道へ踏み出すことはとてつもなく勇気のいることだろう。けれど、変わらず自分を気にかけてくれる人の存在や、逆に関わることを前向きに考えられなかった出会いが、いつのまにか自分の足取りをひょいっと軽くさせたりもする。

どんなに長く暗い夜でも、朝は、光は、必ず訪れるのだ。

問題自体が解決しなくとも、自分の目の前に広がる景色の見方が変わるだけできっと、明日から生きることが少し楽になるはずだ。

この映画を観るときっと、昨日までよりも周囲に、世界に、すっと手を差し出してみようと思うんじゃないかな。

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