
【ヤクルト】大西が先発に挑戦するとした時の不安要素 大西の配置転換から考えるスワローズ投手陣 2回/全3回
ヤクルト・大西の先発転向の是非からスワローズ投手陣の先発/中継ぎの展望まで風呂敷を広げた連載シリーズの2本目。
note1本目:なぜ先発・大西を見てみたくなるのか。2024年の投球などを踏まえて先発として成功するためにプラスに働く要素を紹介。
note2本目:実際、先発・大西の期待値はどれくらいなのか。先発・大西の不安要素も踏まえて明確な期待値を提示。
note3本目:先発・中継ぎの構想,展望をざっくり提示。2本目に提示した期待値の活躍を先発・大西がするとして、どういう条件で投手陣を計算するなら大西に先発挑戦をさせられるのか/させないべきかを解説。
特に2本目は1本目を読んでいる前提で書いているので、先にこちらを読んでからぜひ以下を読んでいってほしい。
1本目で「大西、先発いけるぞ!」感を存分に出しまくったわけだが、実際不安要素はあると思っている。それが、以下の2点。
①対左打者 ②24年が上振れすぎ説
この2点を細かく分解していきつつ、大西が先発をやるとして考えられる不安要素と、先発・大西の具体的な期待値,イメージ像を紹介していく。
不安要素①対左打者
2024年大西の対右/左打者別成績

対右打者のOPSが.535に対して対左打者のOPSは.691。この数字だけを見て"悪い"とは必ずしも言えないし早坂的に感じている不安要素が伝わりづらいような気がするが、ひとまず分かりやすく数字としても対左打者の方が苦手なことは確認していただけるだろう。

ついでに2023年も載せておく。
対左の方が苦手な傾向は2024年だけではない。
では、具体的に大西のどういった部分が対左打者を苦手にさせているのか、それが先発としてどう響いてくるのかを予想していく。
具体的には、以下の3項目を触れていくこととする。
1.対左打者への決定力
2.対左打者への制球
3.先発転向による左打者との対戦数増加
1.対左打者への決定力
前回のnoteで大西の対左打者のコマンドが豊富なことについて触れた。
①内角高めフォーシーム ②内角(高め)スライダー ③内角(高め寄り?)カット
④内角(低め)スライダー ⑤外角シュート ⑥外角フォーシーム
⑦外角(ゾーン内の高さ)フォーク
確かにカウントを取る手段や前に打たせようとする手段は豊富だが、これ!といった空振りを誘う球種を確立することはできていない。

ここで1本目でも出した球種割合/被打率/空振り率をもう一度見てみると、下2行のフォーク/チェンジアップといった落ち球が悪くないように見える。これだけ見ると、落ち球の割合は合計13%で被打率.080(50-4)、空振り率も約20%と第3選択肢として三振を奪いに行く球種として機能していそうだ。
だが、実態は異なる。大西の神宮登板を6-9月全て見漁ったが、落ち球の精度はぶっちゃけ高くない。あくまで早坂の印象論でしかないのが申し訳ないが、空振り率がそこそこ高いのは追い込む前の段階でゾーン内の範囲から縦変化する球で空振りを取れている部分が大きくて、皆が期待するような追い込んでからボールゾーンへ落ちていく球で空振りを奪う場面はそこまで見ない。
ビジターではきちんと落ち球が使えているが、神宮ではそういった投球になっていないだけ(=早坂が見ていないだけ)なのかもしれない。ただ、事実として奪三振率4.62と三振が奪えていないのは、落ち球が見かけの数字よりも追い込んでから有効に使えていないことの証明なのではないだろうか。
追い込んでからフォークを投げないかというとそうではない。実際、例えば8/24にDeNA・牧から三振を奪った時はフォークがストーンと綺麗に落ちていたし、投げることはできるのだろう。ただ、(これもあくまで印象論に留まってしまうが)どうしてもフォークが浮いてしまう場面が目立つ。状況をイメージしやすいように書くと、カウント1-2,2-2からフォークを投げるも低めに行かず高めに落ちない球になってファウル…といった感じ。
対右打者には逃げていくスライダーが空振りも誘える決め球として機能するから落ち球が無くてもなんとかなるが、対左打者はそうもいかない。速球とスライダーを両サイドに投げ分けることができてもボールゾーンを上手く使えなければ打者は上手く対応してくるし、打ち損じ待ちのような状態になってしまう。
対左打者への決定力向上のためフォークを高い精度で投げられればよいのだが、そう単純にはいかないのが難しいところ。大西の良さは速球の強さとスライダーだから、現状でも使えている高めへの速球をより磨くことや左打者の足元に曲がっていくようなインローのスライダーで空振りを取りに行くコマンドを磨くことに期待したいなと考えている。
2.対左打者への四球の多さ
もう1度右/左打者別の成績を見ていくと、対左打者に対して多くの四球を許していることが分かる。

対右は138打数に対して四球1、ISoD=0.013
対左は76打数に対して四球12、ISoD=0.099
※IsoD=出塁率ー打率
単純に左打者への方が制球しづらいと思っている可能性もあるが、先ほどの「決定力不足」が影響して より厳しいところに投げるのを強いられるがゆえに結果として制球が安定しなくなる・四球を出しやすくなるといったことも考えられる。
根本的な制球は悪くないけど、現状のコマンドだと後手になった時のリカバリが効かないからズルズルと左打者側のペースになってしまう、みたいなイメージ。
3.先発転向による左打者との対戦数増加
2024年の大西は結果として右打者の対戦回数の半分くらいしか左打者と対戦していないが、先発として活躍しようとなると右左打者の対戦数は同じくらい,むしろ左打者の方が多く相手にしなければいけなくなるだろう。
それに中継ぎの場合は1日の登板で1回しか対戦しないし同じ打者と複数回対戦することは少ないのに対して、先発するとなると2回り目,3回り目にどう対処するかも考えなければならないが、現状の大西のコマンドだと対戦を重ねるたびに打者が慣れることでより後手に回りやすい。
いくらカウントを取れるパターンが多かったりスタミナがあったりしても、1,2で挙げたような課題を抱えた状態で先発として左打者と連続で対峙した時に2,3回り目で捉えられてしまうようでは結果として長いイニングを安定して投げられるとは思えない。
左打者に明確に課題があると先発できない?~原樹理との比較~
ここまで書いてきたように、早坂的には先発で成功できる条件の1つとして「右/左打者どちらにも安定して打ち取れるパターンがある」(=どちらに対しても極端に弱いわけではない)というのを掲げている。先にも説明したように、先発は基本的に右/左打者どちらとも満遍なく対戦しなければいけないし、同一打者と複数回頻繁に対戦する必要性があるからだ。
この条件は本当に正しいのか?ここで、大西と似たタイプである「シュートとスライダーが投球の軸で落ち球がイマイチ」であったヤクルト・原樹理の成績を見ていこう。
2021年 対右/左打者別成績


・左打者には3割近く打たれてOPS.700弱だが、右打者はOPS.500以下に抑えている
・被本塁打0
2022年 対右/左打者別成績


・左打者は全員近藤健介ですかってくらい打たれているし、右打者も特段抑えているわけではない
・被本塁打14
たった1人の投手のたった2年の比較なので正しいとは当然言い切れないわけだが、対左打者が多少苦手だとしても長打を打たれづらい かつ 対右打者をきっちり抑えることができる 状態ならば先発ができそうだとも言える。2021年の原樹理は50イニング程度しか投げていないので、先発できていたと言えるのか(運が良かっただけなのか)という話にもなりそうだが。
逆に言えば、左にバカバカ打たれるのをカバーできないくらい右にも打たれていたり全体的に長打が多かったりすると防御率が大爆発する…当たり前か。
ここで再度2024年大西の対右左別成績を見てみる。

傾向的には、左にやや打たれているものの右打者は抑えられていて長打も少ない。じゃあ先発イケるんじゃね?となりそうだが、これはあくまで中継ぎとして短いイニングを投げた積み重ねの数字。2021年の先発・原樹理と単純には比較できない。
先発として投げたときに、
・対右打者を2024年と同等,それ以上に抑え続けられるのか
・対左打者にどれくらい打たれるようになってしまうのか(改善できるか)
・長打を避け続けられるか
のような観点がカギとなってきそうだ。
不安要素②24年が上振れすぎている説
防御率1.34の被打率ではない
冷静に考えて、防御率1.34なのに被打率.248ってちょっと高くないか?

と思い、2024年セリーグの登板数ランキングTOP20の投手の成績を並べてみてみることにした。そうするとやはり被打率.248と言うのは高く、これより被打率が上の投手はこの中だと3名しかいない。
BABIPを見てみる
ちなみにBABIPを見てみるとどうなっているかで言うと、2024年大西のBABIPは.235と極端に低いため運が良さそうだったとも言える。
BABIP(Batting Average on Balls In Play)
この計算式は、フェアゾーンに飛んだ打球のうちどれだけの割合がヒットになったかを示しています。安打から本塁打を引き、打数から三振と本塁打を引き、そこに犠牲フライを加えます。これにより、投手や打者の運や守備の影響を受けやすいフェアゾーン内の打球に対する打撃成績を評価することができます。
BABIPは基本的に.300に収束すると言われている。三振が少なく打たせて取る系の投手はBABIPが低く出やすい傾向があるとは言われているが本当に誤差程度らしいので、BABIP.235は異常に低い。ちなみに2023年大西のBABIPは.282。
ちなみに早坂的には(自分から出しておいて何なのだが)BABIPが嫌いというかそこまで意味があるように思えないというかxwOBA見られるならそっち見た方が良くね?と思ってる節があるので参考程度に。
ではなぜ大西が防御率1.34という好成績を記録できたのかで言えば
・WHIP(1イニングに出す走者の数の平均)ベースだと優秀
・安打は打たれるが長打はそこまで打たれなかった
このあたりが挙げられそうだが、では次にポイントとなりそうなのは
「長打を打たれない」に再現性はあるのか
というところにあると考えている。
長打を打たれなかったのは偶然なのか再現性があるのかで言えばそれこそ打球の質を測るような指標が無いと分からないし、流石にここまで来ると私の知識量では分析するのがなかなか難しい。
どういうボールが長打を打たれづらい,打たれやすいかどうかを踏まえて大西がどういう傾向にあるのかをもっと正確に理解すればもうちょっと論ずることもできそうだけど。ここはもっと勉強が必要になってきそう。本当はここを更に越えた考察とかはしてみたいところではある。
ちなみに早坂的感覚としては普通にバカスカ打たれてもおかしくはないんじゃないのと思っている。先の例に挙げた原樹理は2021年47イニングで被本塁打ゼロだったのに対して2022年は107.2イニングで被本塁打14本。

2021年は五輪の影響で神宮ではなく東京Dを本拠地にしていたり、21年→22年で原樹理の投球自体にも変化があるわけだから一概に運だけとは言えないと思うが、大西も先発をやるようになってカッチリ捉えられてもおかしくはないとも思う。
プラス/マイナス要素を踏まえて活躍度を予想
では、1本目と2本目で考えてきたプラス要素とマイナス要素を踏まえてどれくらい先発でやってくれそうか、漠然としたイメージを出してみる。
ヤクルトで言うならこの投手たち級のイメージ
原樹理(2022年)

高梨裕稔(2022年)

小澤怜史(2022年)

奇しくも全員2022年の原樹理,高梨,先発小澤。細かい成績はもう少し違いがあれど、なんとなく彼らよりも若干上くらいの期待値を持つ先発投手になりそうなイメージ。いい意味でも悪い意味でも。
ちなみにこの年のチーム先発防御率は3.84でセリーグ最下位。ただ全体の平均先発防御率は正確に計算していないけど3.50くらいっぽいので、飛び抜けて悪いわけではない。上で挙げた投手たちのような、リーグ平均以下ではあるけど143試合を戦っていくために試合を作れる先発投手はヤクルトにとっては貴重だ。
2024年の環境で成績を直感で出してみる
2024年のような際立って打低の年というのも考慮して、自分の中で原樹理や高梨くらいの期待値の投手が2024年基準だとどれくらいやりそうかで言うとこんな感じ。
防御率3.67 57投球回 奪三振率5.21 被打率.290 WHIP1.29
※10先発したとする ※奪三振率,被打率,WHIPの整合性は考慮してない
なんやかんや左には打たれつつも、大西なりの進化を見せてゴロで打ち取っていき最低限無難に試合が作れるレベルの先発投手になりました、的なところを予想しておく。これでも欲張りすぎなのか、逆に低く見積もりすぎなのかは分からないが、第3回で話していく「で、先発大西がこれくらいの期待値だとして先発転向させるべきなの?」という話に最もつなげやすい無難な成績にしたかったというのもある。皆さんはいかがお考えだろうか。
ということで盛大な前振り(大西のことも書きたかった)を終えたわけなので次回、先発と中継ぎの展望を簡単に触れていった後、大西は先発に挑戦させてみる価値はあるのか,失敗するリスクも踏まえてどういう条件なら試してみたくなるのかという話へ繋げていく。
他にもいろいろnote書いてるので読んでください。YouTubeLiveもやってます。ありがたいことに同接3桁くらい来ていただいてます。感謝
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