イロトリドリな世界 | saki
何時ぶりだろうか、発熱したのは。
体調を崩すことがあっても、熱が出たのは遡ってみると幼少期以来だった。
子どもと関わる仕事をしていた時、インフルエンザで自分のクラスの三分の二が欠席したなか、わたしは移ることもなく、皆勤だった。丈夫な身体に生んでくれて両親には感謝しかない。
39℃近くの高熱を出したのは、つい先日のこと。
節々の痛みと熱は二日で症状が治まったのだが、咳、鼻水が今もなお続いている。
また、味覚、嗅覚がほとんど無味無臭で目を瞑って食事をしたら、柔らかいか固いか、温かいか冷たいかと、口当たりの食感や感触の違いくらいしかわからないほどで、色のない花を見ているようだ。
そんな最中、パートナーが誕生日を迎えた。
買い出しも満足に行けておらず、自分のコンディションも決して万全とは言えないが「お祝いしたい!」と奮起し、腕を振るうことにした。
先日義父の誕生日だったため、その時にお持たせで頂いたロールケーキを冷凍していたので、高さのある硝子のコップの底に敷き詰める。
アガーを使った珈琲ゼリーを作り、ロールケーキの上に乗せる。
一番てっぺんにはバニラアイスを、富士山の頂上に被る雪のようにあしらい、即席パフェの完成!
パートナーは「Birthdayパフェ、ありがとう!」と喜んでくれた。
翌日、足のついた透明の器に珈琲ゼリーを入れ豆乳を注ぎバニラアイスを乗せ、スペアミントまであしらった『珈琲ゼリーサンデー』を自分用に作って食べてみることにした。
(どのみち食べたところで、味も風味もないだろう…)と一切期待はしていなかった。
ところが、ひと口、またひと口…食べ進めるうちに、あっという間に器が空になった。
「おいしい…」心に留めきらず、思わず声が漏れていた。
それは、決してこれまでの経験や記憶の蓄積から導かれた味ではなく、無色透明なのに色鮮やかに美味しく感じられたのだ。
"家族のお祝いに"と仕込んだものが、まさかこんなにも自分自身の心身が喜ぶものになるとは。
これからパートナーの誕生日が来るたびに、珈琲とバニラアイスの味が思い出されそうだ。
よろこびの種を育てて、色とりどりな景色を眺めていこう。