対話型鑑賞とは。-アート鑑賞の新たなかたち
あなたは最近いつ美術館にいきましたか?
忙しく仕事したり、日々の生活でかなり精いっぱいな世の中ではなかなかそういった時間が取れないかと思います。
御多分に洩れず筆者も忙しい日々を送っていますが、先月美術館に足を運びました。
あなたは、美術館で絵や彫刻などのアートを鑑賞するとき何を考えますか?
この美術館には、〇〇が描いた××という作品がある。
といった事前知識を持ち、上で述べたことを考えながら美術館に赴く方が多いのではないのでしょうか?
さらに作品が制作された当時の社会環境や、宗教絵画であれば聖書の知識など、知れば知るほど絵画の見方が深まっていくのも事実です。
ただし、そういった知識は適切な段階に与えられてこそ意味を持ちます。
アートを鑑賞する際に起こる思考プロセスを調査してきた認知心理学者アビゲイル・ハウゼンは、美術鑑賞における発達段階を提唱しています。
ハウゼンは、
鑑賞の初期段階は「絵を見て自分なりの物語を作る」ことから始まり、
次に「作品を見るフレームワークを構築する段階」へと進むと提唱しています。
その後、絵を見る経験をたくさん積んでいくことで、段階的に絵を見る目が養われていきます。
多くの人は初期段階にとどまっているそうです。
対話型鑑賞は、この初期段階に留まる鑑賞者にとって有効な手法です。
この段階の鑑賞者は、「この絵の中で何が起こっているのだろう?」とストーリーをあれこれと作りながら、作品の世界へと入っていきます。
対話型鑑賞はその思索をガイドしていく役割を果たしています。
対話型鑑賞の流れは、
・グループで作品をよく観る
• 観察した物事について発言する
• 意見の根拠を述べる
• 他の人の意見をよく聴き、考える
• グループで話し合い、さまざまな解釈の可能性について考える
上記のプロセスを繰り返し、他者の視点を取り入れながら絵の解釈を深めていきます。
ファシリテーターが間に立ち、グループ間の対話をスムーズに進行させる役割を務めます。
ファリシテーターは鑑賞者に 3 つの質問を投げかけます。
・この作品の中で何が起こっていますか?
(What’s going on in this picture?)
• どこからそう思いましたか?
(What do you see that makes you say that?)
• もっと発見はありますか?
(What more can we find?)
この作品の中で何が起こっていますか?
「この絵について何か意見はありますか」と尋ねられたところで、即座に発言するのは難しいかと思います。
それこそ、「絵についてよく知らないといけない」と身構えてしまいそうです。
「この作品の中で何が起こっていますか?」という問いかけでれば、比較的気軽に意見を述べることができるのではないでしょうか。
どこからそう思いましたか?
「どこからそう思いましたか?」という問いかけで、鑑賞者に意見の根拠を述べることを促します。
「なんとなくそう思った」だけではなく、視覚的な根拠を示し、論理的思考が育まれます。
もっと発見はありますか?
「もっと発見はありますか?」と問いかけることで、まだ言及されていない部分に目を向けさせたり、他の鑑賞者の意見を聞きます。
ファシリテーターは、
鑑賞者が言及している箇所を指差してグループに共有させる指差し、
鑑賞者の発言を言い換えてきちんと受け取ったことを示すパラフレーズ、
個々の発言が相互に影響し合っていることを示すリンクというテクニックを用いて、活発な対話を促していきます。
このように対話を促すことでアートへの理解が深まるとともに
他者の意見への理解や論理的な思考も育まれる対話型鑑賞。
一度、体験してみてはどうでしょうか。
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