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(55)天日干し経営 元リクルートのサッカーど素人がJリーグを経営した

【傾聴力と主張力】ー長く続けている。サッカー選手が育っている力の正体ー

10年にわたって、成功している選手に共通する資質は、誰もが想像するように、当初はずば抜けた心技体ではないかと想定していた。
まずは人並み外れたメンタル。
私と違って大舞台でもビビることなく、しかも湧きでる闘争心を待つような人間であるかどうか、またずば抜けたボールコントロールやパス、シュートなどの高度なフットボールの技術を持つ天才肌の選手かどうか。そして並外れた狂人なフィジカル・アジリティーなどなど、天賦の資質をもつアスリートであるかどうか、などを仮説として検証してみた。
しかし、追跡調査の結果、いずれも大きな相関は見られなかった。
Jリーグに入るレベルの選手は、入会する時点で、誰もがそうした資質を持ち合わせていたのだ。
再度調査設計をやり直した。
能力要素を50項目近く並べて成功者に共通する要素分析を進めてみることにしたのだ。
「計画性」とか「協調性」とか「分析力」とか「創造性」といった作家とは関係なさそうな就職面接の評定表に出てきそうな文言を並べてみたのだ。
調査を進めていると、なんと2つの能力項目が浮かび上がってきた。
「傾聴力」と「主張力」
大きな相関が見られたのだ。
なぜそうなのか。多方面にインタビューを重ねて検討した結果、サッカーがどうやら理不尽な競技であることに由来するとの結論に至った。人間の足を使う競技が失敗に溢れる。
サッカーを続けていく限り、誰もが心が折れるような挫折を経験する。
だからこそ、折れた心を立て直す術を知る選手こそが長く活躍し続けていたのだ。その自らを立て直すすべとして自らを開き、謙虚に傾聴する姿勢と、自分の姿をそのままに人に伝えることがある。
傾聴と伝えることを繰り返して、さらに研鑽を積んでいく。まさに天日に自らさらし、謙虚に周囲の意見を吸収する。成功者の共通要素は、天日干しの思想そのものであることが見えてきた。

【大トラブルが起きたときの対処こそ、天日干し、経営の進化が問われる】

Jリーグ在籍中の8年間に着用したシャツは全て白シャツだけで通した。それはいつ勃発するかわからない。有事の際にいつでも会見ができるようにという覚悟そのものだった。

【犬と汽車は逃げると迫ってくる】

これは広報に所属する部下が私に教えてくれた名言だ。彼は、広報とリスクマネジメントの両方に通じたエキスパートで多くの経営者をさせてきたのだが有事の際の経営者心理を知り抜いている。「犬と記者は逃げると迫ってくる。」とは、何とも言い得て妙だ。


【社名変更の理由ー業界、認知を高めるために】

「エイブリックする」とは、浸透していなかった。
一方、社会に目を転じると、スポーツ選手の移籍にはエージェントがサポートしている。もし社名にエージェントがついたらビジネスマン同士で「そろそろ俺も転職エージェントでもつけようかなぁ」といった会話が交わされるかもしれない。子供たちが「将来、僕は転職エージェントになりたい」という夢を作文に書くかもしれないと思ったのだ。
リクルートエイブリックは業界で圧倒的な1位であった。業界トップの責任は業界全体を牽引することでもある。その業界、認知があやふやではまずいのではないかと言う自問自答だった。

【拍手と握手の会社ー働きがいのある会社、日本一に】

「いい会社とは何か?」、これが次なる自分の問いだった。もちろんいい会社は、人によって様々であるのはもちろんなのだが。
従業員の承諾を得て、各階層合わせて約400人近くのメールアドレスをGreat placetoWorkに提出すると、そこから従業員にアンケートが配られる。初年度の調査発表は2007年の日経ビジネスで発表になった。
開いてびっくり参加62社中で第1位がリクルートエージェントだったのだ。日経ビジネスには拍手と握手の会社といった記事が組まれていた。

人間には、ミスがつきもので本来再現性が保障されているわけではないのが人生だ。同じライブ空間にいるなみの人間である。
演者に拍手と言う激励や祝福のメッセージを送るのだ。もちろんミスの多いサッカースタジアムも拍手やハイタッチや握手で溢れている。職場は毎日が同じ繰り返しばかりで、ライブ感のない空間では、拍手も起こらない。しかし何が起こるか分からない職場では「おめでとう」とか「やったね」といった歓声がわき、仲間が握手している姿を見たりする。働きがいのある会社の1位になったことより、働きがいの褒め言葉が「拍手と握手」であることがより嬉しかった。同じ空間で多くの人が価値を共有し、交流している。ライブ感と近いところに天日干しが存在するように思う。

【リスクマネジメントと銭形平次】

不要なものを濾過したり、排泄したりする静脈系が重要になってくる。昭和の企業が行っていた「運動会」や「社員旅行」「納会」などは「静脈系」として一定の機能があったのではないかと思われます。

【経営における「天日」とは何か】

自然界の天日が降り注ぐ太陽だとすれば、経営における天日は振り注ぐ関係者の視線と位置づけられる。
閉鎖的な経営が関係者にさらされた場合、雑菌やダニに当たる隠蔽した。不祥事は立ち所に駆逐される。陰ながら努力を続けていた経営が関係者にさらされた場合、旨みにあたる経営成果は「日の目を見る」ことになる。
経営にとっての関係者の視線は、顧客の声だったり、仕入先の真意だったりする。また、株主の要望や地域、社会の期待などの形で降りそそぐこともある。ときには、経営者にとっての関係者は、社外だけではなく、従業員のこともある。

【どのような時に天日干し経営は有効か】

①組織であれ、個人であれ、未知の分野や未経験の世界に向かう時。
だからこそ、常日頃から天日に干すことの重要性だけは認識しておく必要がある。
逃げても良いのだが、自分から逃げたことを認識できていれば、次につながる問題なのは「天日干し」の重要性を認識せず、無意識に逃げ続けていることだ。自己をさらす事は前述の「傾聴」につながり、助言者が現れる。
10年活躍する選手に共通するようなリバウンドメンタリティーも身に付けることができるようになるはずだ。ピンチはチャンスを実感できるようになればしめたものだ。「未知との遭遇。」を楽しめるようにもなる。

②大きなトラブル、不祥事などに遭遇した時

③環境変化に適応し、イノベーションを起こしたい時
変革に迫られたときに足を使って現場を回ると言う事は、自らを開示していくプロセスに他ならない。

④組織の個々の構成員の関係性を強化し、怖い組織を作りたい時

【自らと自ずから】

執行氏は多くの知見を私に与えてくれているが、1つ印象深いことがある。日本人は「自ら」と「自ずから」のように同じ漢字に輝くの意味を持つ仮名を送っているというのだ。
確かに何気なく使っている日本語であり仮名遣いだが、そんな執行氏のエッセイに考えさせられたことがある。
「自ら」とはある意味、「自分から」という強い当事者意識を表すし、主体性を感じる言葉だ。強い自我も感じることができる。
一方で「自ずから」というのは、個々人の意思や思いとは関係なく「自然界の摂理」として、勝手に、自然に1つの方向に流れていくイメージがある。確かに対立的な概念の同じ「自」という字に当てているわけだ。私としてもずっと考えている問題の1つだ。

何の因果か予想だにしないことだったが、その日本バドミントン、協会の会長の打診を受けることになってしまった。突然の話にとても驚いた。
就任会見では「バドミントン協会を天日干しにする」と発言している。周囲は何のことかわからなかったことだろう。私の中では「案山子」も浮かんでいたし、また「転校生」かとも思っていたが、とても自然な発言だった。当然「緊張する方」に向かっているのは間違いない。

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