(37)フューチャーセンターをつくろう
企業がフューチャーセンターに取り組む理由は次の3つのレベルがあります。
レベル①企業の中に対話の文化をはぐくみたい。
レベル②組織横断でスピーディーに問題解決できるようにしたい。
レベル③社外ステークホルダーとともにイノベーションを起こしたい。
興味深いことに、どのレベルの問題意識から入っても、結局同じようにレベル①から順に③まで辿っていくことになる。なぜならレベル①がなければ②はなく、②がなければ③がないからです。
ある市役所と企業が共同開催したフューチャーセンターセッションの終わりに、全員が輪になって1人ずつ感想を述べている時でした。市役所の職員の1人が、「上司の前で言うのはなんですが、今日のアイデアを実現させるために僕が規制の抜け道を探します!」と宣言しました。そして上司に順番が回ってくると、「私が法律を変えます!」とさらに上を行く宣言をしました。
これはもちろん、約束ではありません。フューチャーセンターセッションと言う安全な場で、心から溢れる想いが言葉になったのです。変化は一人ひとりの人間の中で起きていくのです。
【儲かりますパラドックス】
多くの企業がイノベーションを起こせなくなっています。失敗パターンは、「イノベーションを計画する」という矛盾に溢れた困難さに起因するものです。社内で提案を通そうとするあまり、「必ず成果は出るんだろうな?」と経営層に問われ、「もちろんです」と答えさせられてしまいます。これを著者は「儲かりますパラドックス」と呼んでいます。
ビジネス成果を目標に据えた瞬間に、「既存の価値観で新しいものを評価する」ゲームに絡めとられてしまうのです。
では、スタートさせれば良いのでしょうか
それは目的を再定義することを最大の目標にすることです。目的を設けることから企業価値を高めることへ定義し直すのです。
【野中先生が論文で示した「賢慮型リーダーシップの6つの能力」は次のようなものです】
①卓越した「善い」目的を作る能力
②他社と文脈を共有して場を醸成する能力
③個別の本質を洞察する能力
④個別具体と普遍の往還、相互変換する能力
⑤その都度の状況の中で、矛盾を止揚しつつ実現する能力
⑥賢慮を育成する能力
【フューチャーセンターを成功させるための必要条件】
戦略、方法論、空間、ファシリテーション技術など多くの要素があります。
「卓越した良い目的を設定し良い場を作り、本質を洞察し、各ステークホルダーにとっての個別具体の文脈をセットし、矛盾を乗り越えるファシリテーションを行う」こと。
【フューチャーセンターの6つの原則】
①思いを持った人にとっての大切な問いからすべてが始まる
→情熱のない問いは、何の変化も起こしません。組織の論理で行動している人は問いもどうしても内向きです。
②新たな可能性を描くために、多様な人たちの知恵が1つの場に集まる。
③集まった人たちの関係性を大切にすることで効果的に自発性を引き出す。
→この原則は奇跡を起こす上で最も重要なポイントになります。“傾聴”
④そこでの共通経験やアクティブな学習により、新たなより良い実践が創発される。
⑤あらゆるものをプロトタイピングする。
⑥質の高い対話が、これからの方向性やステップ、効果的なアクションを明らかにする。
アウトプットを出すために、良いアイディアを持っている人だけが発言するような雰囲気を作ってしまっては、それは決して「良い場」とはいえません。アウトプットよりも、まず全員が参加し気づきを得るプロセスを大切にします。そして、そこから「集合的な知恵」が創発されていくのを待つのです。
ファシリテーターにとって最大の責務は、
「創発されてきた良いアイディア」を逃さず掴み取り、全員の目に入る場所に大きく提示することです。「創発が起きたぞー!このアイディアでブレイクスルーできるぞ!」というムードを演出するのです。
【フューチャーセンターセッションを開いてみよう】
①視野を広げてテーマ設定
②多様性を確保して人集め
③非日常経験を演出
④主体性を引き出す運営
⑤参加者全員の深い気づき
【関係性を生む対話】
関係性を生む対話は役割ではなく、人と人としてお互いの気持ちを理解するプロセスです。役割を背負った状態で議論を始めると、責任転嫁の構図に陥ってしまいがちです。役割を外すために最初は全く関係のないテーマで話を始める方法もあるでしょう。
お互いに尊敬の念を持つと、今まで耳を傾けてこなかった相手の「高質な暗黙知」に触れることができるようになります。
【フューチャーセンター設計ガイドライン】
①信頼感のデザイン
②多様性のデザイン
③関係性のデザイン
④全体性のデザイン
⑤可視性のデザイン
→ → 1つの正しい答えを論理的に導くのではなく、たくさんの仮説を形にしていきます。1つのアイディアが他人へのインプットとなり、みんなで新しいアイディアを次々と作っていくのです。
⑥安心感のデザイン
【外部に開かれていることの意味】
フューチャーセンターは、ただ対話するだけの場ではなく、「新しいコトを生み出す場」なのです。新しいコトを生み出すためには、フューチャーセンターは「新しい関係者を招く」こと、「過去ではなく未来を語る」ことに焦点を当てます。
最高のおもてなしは「その人を主役にすること」だと思います。
【対話されたことがアクションにつながる要因】
①課題提起者が本気であること
②実行力を持った参加者がいること
③ファシリテーターが強い意志を持って関わること
【未来のステークホルダーと出会う】
ビジョンや戦略で人を動かすのは難しいことですが、新しい人とのつながりは、一瞬にして人の行動を変えるのです。
その結果、新たなビジネスエコシステムが生まれます。このプロセスこそが、ソーシャルイノベーションなのです。
【対話から始まるが、対話だけで終わってはいけない】
専門家に頼ると言う分析的アプローチに限界が来ていることを感じる。
社会の問題があまりに複雑化してしまったので、専門家の手に負えなくなっている。
その結果、問題がそこら中で放置されています。専門家には何が制約になるのかがあらかじめ見えてしまうんです。だから、今ある制約を全部忘れさせてくれるような、常識を取り払う作業が必要なんです。対話を通じて制約を超えていくのがフューチャーセンターと言う場なのです。
【おわりに“著者”】
組織の短期的なパフォーマンスを重視すればするほど、社員は例外処理をやっつけ仕事で済まそうとして、本質的な問題解決を避けることがわかりました。その結果、長期的には同じ例外処理が何度も何度も現れ、その度にやっつけ仕事でごまかしているのです。効率的に仕事が回っているように見えることが、組織の長期的なパフォーマンスを高めるとは限りません。
フューチャーセンターは、「想いを持った大切な問いから全てが始まる」という大原則を持っているのです。
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