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オススメ映画「ベルナデット 最強のファーストレディ」~政治を笑い飛ばす事の出来る国が羨ましい~

 泣く子も黙るカトリーヌ・ドヌーヴですよ、1943年生だから現在御年81歳!ほとんど喜劇の本作に80歳にして嬉々として演ずる様をみるだけでも十分に価値があります。そもそもこんな軽いタッチも珍しく洒落っ気のある政治裏話的コメディとして、観るこちらも気楽な作品です。無論かつての美女全盛期と比べてはいけません、美しく齢を重ね、それどころか画面からは到底80歳には見えず、せいぜい60代ですね。そもそもジャック・シラクが1995年の大統領選挙で勝利から始まる本作、当然彼が60代であれば妻もほぼ同年。ということは80歳の女優が約20歳も若い主人公を演ずるのですから、そう見えて当然のメイクをしているはず。逆に言えば60代にとしては見た目はともかく、動きがもっさりとしているのは残念と言うか、やむを得ませんね。

遂に大統領に上り詰めたシラク

 ほんの5年前にジャック・シラクご本人が亡くなり、妻ベルナデットの現在は存じ上げませんが、ほとんど夫をコケにしたような本作はだから今出来上がったのかもしれません。大統領就任から2007年の退任の頃までを、実際のニュース映像も交えその足跡を描き、その裏側の夫婦の軋轢をメインに暴露してゆく。冒頭のテロップに示されるように、実話に基づくフィクションで、記録に見えるところは忠実に、見えなかったところを想像力豊かに膨らませ誇張し、エンタテインメントに仕上げてある。

右が娘で男性がイメージ戦略に起用されたベルナール・ニケ

 基調は徹底した男尊女卑がベースで、それに抗う姿が爽快で、映画的な寛容なポイントとなっている。ミッテランに連続して敗れやっと到達したエリゼ宮、ですがファースト・レディの意識も意欲もないままに、失態続きに非難の矢面に。挙句はダイアナ妃の交通事故死の重大時に、姿が見つからない大統領の居場所をやっと突き止め電話をすれば、女(イタリアの女優とのセリフ)が出る始末。で、アシスタントを迎え入れ、セルフ改革を進めてゆくお話。だから胸のすく爽快感が作品のモチーフになるべきで、してやったり、のエピソードも多数挿入される。ただ、展開がやや平板で大きな映画的ベクトルに到達しないのが玉に傷ですが。

正直な物言いが顰蹙をかう

 自らもコレーゼ県の県議会議員を務め、イメージ改革も進み人気もうなぎ登り。悪戯好きなハリウッド映画のヒロインのように、明るく楽しく茶目っ気たっぷりのドヌーブが見ものなのです。それまで主にシャネル・スーツだったものをカール・ラガーフェルドまで登場し、強制的にモダンな装いに進化してゆく。こと左様に彼女の装いが本作の見どころの一つなのは間違いなく、ドヌーブらしさが十分に発揮される。ヒラリー・クリントンの登場はドヌーブがニュース映像に合成され、明らかにヒラリーと競う様相が浮かび上がる。それにしても、政局の動向への感も鋭く、ジャックの陰にベルナデットありきを浮かび上がらせる。

亀のブローチにご注目

 政局だけでなく、2人の娘との光景も描くが、才気あふれる妹の参謀はともかく、病弱な姉の描写は沈鬱でトーンが崩れてしまう。唐突に謎のコーラス隊が登場し、状況をゴスペルっぽく謳いあげる趣向はとても好ましい。懺悔室に突然サルコジが登場するのも軽くで楽しい。で、サルコジ応援が功を奏して勝利の場にしゃしゃり出て「夫の指図は受けないわ」で幕を閉じる。

デビュー以来ほぼ毎年映画に出演、一年に3本も4本もの年も、でもフランスの若手女優の今がまるで分からない程にEU圏の作品が少ない日本なのです

 翻って、フランスもイギリスもごく最近の政治家までも映画の素材に使うってのが素晴らしい。当然に批判軸をともなって描くわけですが、政治的意図があろうとなかろうと、エンタテインメントに取り込む姿勢が羨ましい。米国は無論盛んにこの手の作品は多く、近日には「アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方」も公開される。トランプが本国での公開阻止にまで動いたとかで、それでも公開出来た点に民主主義が呼吸しているのがよく分かる。だから・・日本は呼吸出来ないのですよ、圧力なのか忖度なのか、この手の作品はなかなか出ない。

 安倍昭恵を主人公とした映画なら相当に面白いでしょうね。

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