是非是非オススメ映画「侍タイムスリッパー」~消えつつあるものへの熱い情熱と鎮魂~
エンドタイトルに本作監督脚本・安田淳一の名があっちにもこっちにも計11のパートに、とことん自主映画の面目如実。そんな作品が池袋の1館でスタートし、その実力発揮でGAGAが配給につき僅か1ヶ月の内に、こうして私まで鑑賞にありつけた、感謝しかない。なによりこうした自主映画を率先して取り上げる映画館が存在する事が素晴らしいと心底思う。もう6年前になる「カメラを止めるな!」と似た展開に惜しみない拍手を送りたい。
何がこうさせたのか、いわゆるタイムトラベルもので、過去から現代にタイムスリップしたドタバタで始まるが、その後の展開に感涙ものの熱い情熱が仕込まれていたから。予算があるうとなかろうと、映画ってのは知恵の勝負、脚本如何が全てでしょう。
雷とともにタイムスリップってのは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」1985年あたりから世界基準?になったお約束を踏襲。以降しばらくはここは何処?私は誰?のトンチンカンな定番お笑いが類型的で、この先に少々不安を催した。しかし分をわきまえ斬られ役に意義を認めたあたりから、真摯な本作の主眼が明らかになって、俄然襟を正して観る雰囲気となる。斬られ役専門で脚光を浴びた福本清三氏が主演した10年前の「太秦ライムライト」2014年で、その悲喜劇に秘められた時代劇への愛と同様のトーンに収斂してゆく。のみならず、幕末の武士としての本懐と撮影の山場とのリンクが上出来で、ここまで固執する武士の有り様には目を見張らせられる。そしてさらに、この対峙を形成するためにタイムスリップの時間差と言う新機軸が圧巻なのです。
多くのタイムスリップ映画は、元の時代へ戻るための足掻きがメインとなるのですが、本作はタイムスリップを認識しない3人の武士ゆえに、戻る概念も生じない。与えられた運命に抗わず、その時代で生き延びるしかない。前述の「カメラを・・」はゾンビ、本作はタイムスリップ、と言うメジャーな映画的お約束設定を取り入れつつも、ひと捻り、ふた捻りが功を奏したわけです。
それを支えるのがカメラの向う側で奮闘する役者さんたちで、ことにも主演の山口馬木也氏の凄さたるや、驚異のレベル。要するにアカデミー賞レベルの名演を一心に演じてらっしゃる。眼差し、チャンバラ、立ち姿、セリフと自主作品でもここまでやるの、の驚きしかない。ズボン姿の時も、やや膝を折った武士の立ち姿なんですよ。普段は諸々脇役で出てらっしゃる方のようですが、圧巻の超イケメンじゃないですか! 現在51歳とか、こんな容姿に恵まれ演技力も備えて、なのに何故今頃?って気分です。敵役に扮した冨家ノリマサ氏の重厚な演技も特筆ものでホント鳥肌立ちました。
しかし本作は本来「東映」が作るべきテーマであって、東映剣会及び太秦映画村が前面協力ってもの当然でしょうね。殺陣師の関本に扮する峰蘭太郎氏の素晴らしい佇まいに前述の福本清三氏の魂が宿って見えるのも当然です。時代劇って、ひょっとすると明治・大正どころか、昭和までもその範疇になってしまったのかも、ってのは言い過ぎですが。武士の制約の上にパターン化されたお話に、剣劇と言えばかっこいいけれど、定番のアクションはほとんどダンスと見えてしまったら先細りも避けられず。本作に大共感したって、時代劇チャンネル観てますか? BSの暇な時間の再放送時代劇観てますか? 昨年の秀作「せかいのおきく」のような切り口でパターンを脱することが必要でしょうね。