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オススメ映画「フォールガイ」~ハリウッド大作の金満ぶりが良く解る~
素晴らしい典型的ハリウッド痛快娯楽アクション映画。ライアン・ゴズリングとエミリー・ブラントが主演でしょ、観ない訳にいかない。監督のデビッド・リーチ(長年ブラッド・ピットのスタントダブルを務めた)の来し方を踏まえれば、ほとんどスタント稼業への讃歌となり素晴らしい。おまけに定石どおりにラブロマンスも絡めて、八方美人ぶり際立つ。
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とは言え、本作で主演の2人は最初っからラブラブな設定で、アクシデントでの離反を経てその修復を目指すプロット。そこへゴズリング務めるスタントがカバーするアクション・スターが消失して困った困ったがストーリーライン。フワフワの金髪を揺らしかなりのアクションをこなす(こなしたように見える)ゴズリングが若いくかっこいい。そしてカメラオペレータから念願の監督に大出世役のブラント、飛び切りの美人でもないのに大作にひっぱりだこの人気。「プラダを着た悪魔」2006年での主演アン・ハサウェイを完全に凌駕してのトップ女優に上り詰めた。私的にはあの独特の鼻にかかった声と親しみやすさが人気の秘密でしょう。監督の前作「ブレット・トレイン」2022年 でも付き合ったアーロン・テイラー=ジョンソンが嫌な役も嬉々とこなし好感度アップ。実際彼の主演作が目白押しですから喜ばしい限り。それにしても同じ衣装のライアンと並ぶと見事にそっくりなのが笑ってしまう。
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映画の楽屋落ちを題材にした作品は多く、当然に数多の作品名や実在のスターの名前がセリフに頻繁に登場し、クスリと笑わせる。スタントそのものを題材に作品も枚挙にいとまがなく、なにより本作のゴズリングのスタントダブルも当然に存在しており。撮影の舞台裏への興味はつかない仕掛け。それにしても本作の場合は製作費約190億円の大作で、大仕掛けのアクションシーンの裏側でどれ程のスタッフが支えているかが見せ場でもある。それにしてもですよ、画面に見えるだけで夥しいクレーンやらの重機が用意され驚くばかり。「砂の惑星」ばりの撮影映画「メタルストーム」の数万の兵士画像もあっさり合成とばらすのも当たり前か。しかし、このオーストラリアでの砂漠での壮大なロケーション、刺身のツマ扱いなのにこの本気度。終始オペラハウスを背景に本当のロケですよアピール強めのシドニー湾でのド派手アクション。車のぶっ壊しはいったい何台使ったの? これ程に金を使わなきゃならないの?と正直思う。
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と、さんざ褒めておきながら、敢えて書かせて頂きます。舞台裏と称しながらネタバレ暴露風な演出も、全ては仕掛けで、見え透いた感が強く正直うんざりなのです。あんなに部屋を滅茶苦茶にぶっ壊さなくても、ガラスを派手に割ってますが当然にそれ用のガラスであり、破片への心配はご無用。ガソリンをぶっかけられて口から噴き出してあんな燃え方ないでしょ。言うまでもなく、水をぶっかけてるのですがまるで緊張感もサスペンスもありやしない、皆さん水としか思ってないわけで。トラックのフロントガラスをぶち破っても演出で、そんな見え透いた嘘が本当に見えてしまうところが問題なのです。
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アクションを魅せるためのドラマが弱く退屈そのもの、そしてアクションへの動線に工夫が足りない、だから嘘を感じさせてしまうのです。嘘を嘘と感じさせないテクニックがデビッド・リーチにはまだ不足としか言いようがありません。そもそもお話の展開が滅茶苦茶過ぎて、リアリティの欠片もない。主演のスターに万一のことが起こったら190億円のプロジェクトがすっ飛ぶわけで、スタントは必須なのです。例外は歯止めの利かないトム・クルーズくらいなもの、彼自身が制作者ですから。なにより映画とは何もかも構築した嘘によって真実を描く芸術なんですから。
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プロデューサーの本音やら、スターとスタントの関係性、の本音もチラリ。念願の初監督への情熱も胸熱で、主演スターをジェイソン・モモアに替えての映画完成ってこともままあることで。あれもこれも盛り込んだ八方美人作、八方美人に良い人がほとんどいないように、残念な結果でした。
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