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オススメしたい映画「はじまりの日」~突然の佳作に嬉し恥ずかし~

 臭く暑苦しい演技で売れっ子の竹中直人がこんなにも素でいられる作品は初めてみました、もちろん演技の上の素ですよ。対する主役・中村耕一は演技以前の素が際立ち、こちらは本当の空白に近い素。同じ素でも全然方向性が真逆ですが、かつて重大な枷を負った2人の初老の佇まいが実に素晴らしく、本作の見どころの一つでしょう。こんな真逆の素を構築し得た監督・日比遊一も随分と成長したものです。

結構な迫力のミュージカルシーン、ロケが活きてます

 13年前の「名も無い日」はそれこそ気負いと無知が見栄を張ったような最悪の作品でした。カメラをギターに置き換えたようなレトリックを思わせる本作、主役・中村耕一の痛恨を再現するような命懸けを十二分に監督が受け止めた結果でしょう。目の前の初老が裸一貫で立ち上がる様に呼応する覚悟が本作を目の覚めるような佳作にし得た。

この安っぽい衣装が予算の限界を如実に示し、惜しい

 いわゆるサクセス・ストーリーではあるけれど、周囲に縛られ無意識のうちに封印してしまう障害を描き、遥海の圧巻の歌唱がそれを支える構図です。最初から素晴らしい歌声ですが、「もっと観客に伝えるように」のアドバイス通り、そんな進歩まで描かれれば尚良かったでしょう。中村の葬儀での突然の弾き語りの威力はすさまじく、調べたらご本人も東日本大震災の被害者の葬儀で遂に歌ったとか。

彼も歌唱は実は素晴らしいのにね

 名古屋・栄のテレビ塔前の新設ショップエリアとその地下にあるセントラル・パークがメインの舞台。夢見るショーが素晴らしく(ただし群舞のダンサーの安っぽい衣装が残念)、ボロアパートでのショーも斬新かつ洒落っ気満点なのがとてもいい。もう一人の主役・遥海の歌唱はすべて英語なのも、和製ミュージカルに違和感もつ人々のハードルを下げたのもよかったと。フィリピンはタガログ語と英語がフツーに話せる教育のお陰で、完璧な英語発音が優位で、ネットでも英語歌唱の素晴らしい歌声がたっぷり。だから遥海も必然的に英語なのでしょう。

 それにしてもいささかタイプ・キャスティング過ぎるけれど高岡早紀の女優としての凄さを思い知りました。そして中京地区ではおなじみ山口智充の良い人ぶりも身に沁みます。背景に中駒産業のネオンなんぞ、名古屋ですねぇ~。

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