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オススメ映画「竹とタケノコ」~良く出来てますが、お涙頂戴に流れるのは残念~

 実写短編映画です、2024年作品・37分、ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2024に入選。監督・脚本:川上信也、制作:谷口由里子、キャスト:駿河太郎、清水尚弥、佐藤みゆき、岩本樹起、鶴田祐也 他.
愛知県豊橋市が発祥と言われる手筒花火をモチーフしたご当地映画です。アウトラインは、手筒花火を愛する父親が余命わずかと言い渡され、それを知った発達障害の息子が父の作りかけの手筒花火をあげることを決意し、人々の力を借りながら完成させ、手筒花火を打ち上げ親から子へ想いが受け継がれる物語。

風向きによりこんな場合も

 要の手筒花火について知らないとポイントがズレてしまいますので、その説明を。豊橋市に毎年開催される吉田神社の祭礼で、写真から判る通り、相当にデカい竹の中をくりぬき、縄できつく巻き、火薬を詰め、点火と同時に激しく火焔が立ち上り、盛大な火の粉が飛び散る勇壮な祭りで、最後にハネと呼ばれる底が抜ける大きな破裂音が魅力です。約20数秒間写真の姿勢で抱え、火の粉を猛然と浴びる相当に危険なのも確かです。過去破裂により亡くなった方もいるくらいで、だから竹の選定から繩巻、火薬の詰めまで自らが自己責任で行うのがポイントです。

これくらい強烈な火の粉で熱いのなんの

 この行事を芯に、と言うかこれをベースに新進気鋭の川上監督を選び、脚本も委ねたようです。ごく丁寧に作られ親子の繋がりをさらりと描きます。何と言っても父親役の駿河太郎のオーラが強烈で本作を牽引します。知ってる顔だから安心するのも確かですが、天性の陽性が輝く得難い役者だと再認識。妻役の佐藤みゆきはあちこちで見かける役者さんで、一見徳永えりに似た雰囲気で一家を支える肝っ玉かあさんって役。肝心の発達障害と言われる青年役の清水尚弥は繊細さが活きる。

 そうは言っても膵臓癌を出されたらお涙頂戴に行かざるを得ず、息子の一発奮起に至る心境が描かれたかと言えば甚だ心もとない。所詮短編だからを逃げ口上にしてしまったとしか言いようがない。監督の前作で國村隼主演の「願いのカクテル」ではキモが自然と画面より立ち昇ったのだが、本作では無理やり立ち昇らせたような違和感が残ってしまった。

 祭りに賭ける日本人のお祭り馬鹿を題材とした作品は枚挙に暇なく、馬鹿は馬鹿でいたって本人は幸せってのが癪に障るが、そうあって欲しいのも確か。その分周囲が振り回されるのも定番ですが、実は振り回されて喜んでいるのです。そんな典型的ひな型に本作は収斂し、その意味では心地よいけれど、食い足りない印象は避けがたい。

 本作誕生にはプロデューサーの谷口由里子の尽力が根底にあったとか。ご当地に拘ると拡大に制約がかかる。折角の作品です、仮にご当地としても「当地」を匿名に希釈するくらいにされた方が普遍性を得られますよね。それにしても、危険な手筒花火を当然に役者さんは自ら詰めてないのに、駿河はいかにもベテランらしい振る舞いを、清水は不安の演技を、ともに火花の最中にしっかり演技する辺りは実に素晴らしい。

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