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十分にオススメ映画「Back to Black エイミーのすべて」~破滅型アーティストの典型をそっくり役者が再現の驚異~

 破滅型アーティストの半生を描く佳作。まあこの類のアーティストの栄枯盛衰を描く映画の多い事。平穏に栄光に輝き続けたなんて方はほぼ皆無、激情型の天国と地獄の両極端にこそ面白味があるからこそ作品に仕上がるわけで。本作もほとんどドツボの典型の顛末で、早世した疾走の日々を描く。「AMY エイミー」2015年にドキュメンタリー映画が公開されて間がないけれど、本作はほぼ事実を追った劇映画。2003年にデビューと2011年に自殺同然に逝去するまでのわずか8年間の半生。

この迫力の鼻っ柱の強そうなこと

 もちろん私は彼女の事はグラミー賞に絡んで名前だけは知ってたレベル、前述のドキュメンタリーを観てその全容を知った。その風変わりなレトロスタイルもあって20世紀の物語みたいな雰囲気があるが、本作に描かれるのはれっきとした21世紀のお話。で、何が驚いたって主演のマリサ・アベラの激似ぶりで、歌唱も含め本人としか思えない迫力に圧倒されました。独特のヘアスタイルと漆黒のアイラインはもちろん、ユダヤ娘の典型のような立派な御鼻(多分メイクで鼻っ柱を盛ってるよね)の存在感が凄い。ただし歌声が演じてるマリサのものなのか、エイミー本人のものなのかが正確に判断できないのは残念ですが。

右上のバルコニー席に愛するブレイクが・・・

 男・酒・タバコ・ドラッグ・タトゥーの負の側面と、お婆ちゃんっ子の正の側面が混然となり、そこへ嘘をつけない純情と我の強さが輪をかける。「私は金なんか欲しくない・・」と、妥協出来ない信念と我儘が軋轢を生む。これって他の伝記映画でもよく見るスタンスですが、本作でも明らかのように住まいがどんどんゴージャスになってゆく、即ち金は既に十分にある。あるからこそ、お願いなんて真っ平ごめん、酒と男に一直線の余裕となるわけで。その常軌を逸した激情にマスゴミが群がり、飯の種を求めてゴシップを追っかけまくる。その尋常でないパパラッチはダイアナ妃を引き合いにださずとも、本人をとことん追い詰める悲劇の連鎖に突入してしまう。

意気投合したもののエイミーの過激についていけないブレイク

 名優の域の父親役・エディ・マーサン、祖母役・レスリー・マンビルと安定した配役でキワモノ感は全く無い。そこへ現れる色男役がジャック・オコンネルとこれば、彼女が惚れ尽くすのも十分に納得。愛する男を名指しで歌詞に入れ込み、私生活はほとんど暴露の詩のような唄、字幕を追えば相当なエロい内容に驚きます、だからこそ人気があったのでしょう。ロックよりジャズ志向、そしてハスキーな歌声を重ね、ほぼ天才肌の能力があったのでしょう。

 その歌唱シーンをもう少し聞きたかったとも思いますがね。むしろ監督はショー的シーンは抑えめに敢えてしているようで。なにしろちょっと前のお話なんですから、ショーの再現より見えなかった裏側に重きを置いたのでしょう。「男っていったい・・・」なんて歌詞が出る、監督のサム・テイラー=ジョンソンは調べたら女性なのですね、妙に納得しました。「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」2015年の監督さんでしたのね、だからイケメン選択に狂いはないわけだ。

 グラミー賞の最優秀楽曲賞受賞に驚き、感謝とともに「ロンドンの勝利」と言ってのけるエイミー。全世界的にみても英国ってのはアーティストの排出割合は断トツで、ハリウッド・メジャースターとて英国出身がごろごろですから。エイミーの英国愛がひしひしと伝わりました。

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