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本当にオススメ映画「ステラ ヒトラーにユダヤ人同胞を売った女」~私だったらステラと一緒と言うしかない~

 戦後80年、相変わらずハリウッドはもちろん、ドイツ本国においても反ナチズムの映画の多い事。それは至極当然でかつ必要なことですが、この80年間公開の数多の作品においても、ひとつのジャンルと言っても構わない程。もうすぐ公開のアカデミー賞有力な「ブルータリスト」、「リアル・ペイン~心の旅~」だってアウシュビッツがポイントで、昨年末には「ホワイトバード はじまりのワンダー」があったばかり。ナチに協力する密告者のお話も多数登場ですが、ユダヤでありながら密告する女の主人公ってのは、なかなか少ない。

 戦争裁判の真実の記録からまとめあげた実話に基づく作品で、同胞を売る悪魔の所業に手を染めた女の悲劇を描く。自分の最も大切な人の命を人質にとられ、同胞を密告する事が出来るか否かが本作の要、無論、絶望的な極限状態において。この地獄に耐えかね自ら死を選んだら、当然に大切な人の命も無論ない。ならば歯を食いしばって抵抗を貫いても、自身も大切な人も確実に結局殺される。残る選択肢は一つだけ、泣く泣く密告を強要され、自身も大切な人の命も辛うじて保たれる。これをもって悪魔に魂を売ったと言えるだろうか? 圧倒的支配下において、何故か選ばれた捕虜が他の捕虜を殺すよう命じられるシチュエーションの映画作品も邦画・洋画問わず多く描かれてますよね。そんな場合は殆ど発狂状態で同胞を殺すように描写されます。だから悪魔は強要する側のみであることを、うっかり見落としがちなのです。そうするしかなかった。私だってそうするしかないと思う、悪魔にはならないけれど人間を捨てて。

 強要されるのも人間なら強要しているのもまた人間。昨年の「関心領域」にも描かれたと同様に、本作に登場のナチスの高官とて、あそこまで狂暴になるしかなかった、でなければ確実に自身が処罰を受けるから。それが集団ヒステリーであり、戦争の本質なのですから。

 ステラは密告の日常において、意外と派手で毛皮のマフラーなんぞ巻いて、反感買うような様相ですが、そうやって密告ネタを捕まえる必要があったから。まさに生きるか死ぬかの挙句なんですね。演ずる女優がちょいとハスッパに見えると言って、コトの本質を見誤らないで下さい。

 結果、ソビエトの収容所に10年も入れられた後の裁判では、実質無罪の開放となる。けれど密告された側からすれば、その恨みは解消されることはない。そしてラストシーンは美しく着飾ったステラは飛び降り自殺を実行する。正にそれしか選択肢がなかったわけです。人間を捨てた段階でその先行きは必然でしかなかった。

 ひとたび戦争となったら、悪魔の連鎖は避けようがない。だから絶対に戦争を起こしてはならないのです。そのためにはプーチンを引きずり降ろさなくてはなりません。独裁を許容してはなりません。ひしひしとそれがストレートに伝わる作品でした。

 蛇足ですが、洋画の邦題にサブタイトルが近年確実にプラスされます。本作もまさにそうですが、全くもって馬鹿げた邦題と思います。が、これだけ洋画に客が入らない昨今、少しでも内容を伝えようと腐心する苦労の結果と思えば、理解するしかありませんね。

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