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「失われた世代」は本当に失われたのか?——平成不況を生き抜いた者たちの実像

「失われた世代」。それは、バブル崩壊後の就職氷河期を経験し、社会から取り残されたかのように語られる人々のことを指す。しかし、彼らは本当に「失われた」のだろうか? あるいは、単に既存の枠組みから外れ、新しい生き方を模索することを強いられた世代なのではないか? 本稿では、「失われた世代」というレッテルの裏側を探り、彼らが社会に与えた影響と未来の可能性を考察する。



1. 「失われた世代」とは何か?

「失われた世代」とは、一般的に1970年代後半から1980年代前半に生まれた人々を指す。彼らが社会に出るころ、日本はバブル経済の崩壊を迎え、企業の採用抑制が進んだ。新卒一括採用の門は急激に狭まり、正規雇用に就く機会を失った若者が大量に生まれた。

当時の社会は、非正規雇用が拡大し始めた時期でもある。かつての日本では、「一度正社員になれば一生安泰」という終身雇用の神話があったが、就職氷河期世代にとってそれはもはや過去の遺物となった。「一度つまずけば這い上がれない」と言われ、実際にキャリアの選択肢が大幅に狭まったのは事実だ。

だが、この世代が「失われた」のは本当に機会だけなのだろうか? それとも、社会全体が彼らを「失われたもの」として扱ったことで、さらなる閉塞感を生んだのではないだろうか?


2. 「失われた」のは機会か、それとも希望か?

就職氷河期世代が直面したのは、単なる雇用環境の変化ではなく、価値観の急激な転換だった。

かつての日本では、終身雇用や年功序列が前提とされ、「会社に入れば安心」という考えが支配的だった。しかし、バブル崩壊後、その前提は崩れ去った。企業は「人材育成」ではなく「即戦力」を求めるようになり、若者にとっては「経験がなければ採用されない」「採用されなければ経験が積めない」という矛盾した状況が生まれた。

さらに、「自己責任論」が氾濫し、「正社員になれなかったのは努力が足りないからだ」といった風潮が強まった。社会が若者に冷淡であればあるほど、この世代の意欲は削がれ、「どうせ頑張っても報われない」という諦念が広がった。

だが、本当に「失われた」のは、この世代の側だったのだろうか? むしろ、社会の仕組みこそがこの世代を「失わせた」のではないか?


3. 逆境の中で生まれた新しい価値観

しかし、「失われた世代」は、単に敗北者ではない。むしろ、彼らこそが新しい働き方や価値観を生み出してきたとも言える。

例えば、終身雇用に頼れない状況の中で、フリーランスや個人事業主として活躍する人が増えた。副業やパラレルキャリアといった概念も、この世代が積極的に取り入れてきたものだ。また、企業に頼らずに生きる術を学んだことで、起業する人も少なくない。

さらに、消費に対する考え方も変わった。物質的な豊かさを追い求めるのではなく、シェアリングエコノミーやミニマリズムといった価値観を受け入れ、効率的で合理的な生き方を選ぶ人が増えたのもこの世代の特徴である。

「会社に人生を捧げる」ことが美徳だった時代は終わり、「個人が自由に生きる」ことが当たり前になりつつある。その先駆者となったのが、まさにこの「失われた世代」だったのではないか?


4. 「失われた世代」の未来——再評価の時代へ

では、彼らの未来はどうなるのか?

現在、日本社会は少子高齢化が進み、人材不足が深刻化している。その中で、経験を積んだ「失われた世代」が再評価される動きも出てきている。企業は即戦力となる人材を求めており、実務経験の豊富なこの世代が再び注目されているのだ。

また、政府もこの世代の支援策を進めており、正規雇用への転換を促進するためのプログラムや、職業訓練の充実が図られている。さらに、DX(デジタルトランスフォーメーション)などの新しい分野では、年齢に関係なくスキルを活かせる機会が広がっている。

彼らが「失われた」のではなく、むしろ新しい時代を切り開く存在となる可能性は十分にある。


まとめ:「失われた世代」は本当に失われたのか?

「失われた世代」とは、単に厳しい時代を生きた人々ではなく、その逆境の中で新たな価値観を生み出してきた世代でもある。終身雇用や安定したキャリアが前提でない世界をいち早く経験し、それに適応しながら生きる術を身につけてきた。

「失われた」と言われることが多いが、むしろ彼らは「新しい働き方と価値観を生み出した世代」として再評価されるべきではないだろうか。彼らの経験は、これからの社会にとって貴重な知見となりうる。

今後、社会全体が「失われた世代」にどのように向き合い、彼らの持つ知識やスキルをどう活かしていくかが、日本の未来を左右する大きな鍵となるのかもしれない。

彼らが「失われた」のではなく、むしろ新しい価値観の先駆者であったとしたら——このレッテルをどう塗り替えるかは、これからの社会にかかっている。

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