【連載】D2C Design Studio Talk vol.5 – D2Cブランドの世界観とは何か –
みなさん、こんにちは。
博報堂ブランド・イノベーションデザインの山﨑健登です。
今回は、D2Cブランドの世界観は何で形作られているのか、世界観構成において何が重要なのか(Part1)、そして、世界観を生活者に伝えて行く際にどういった姿勢が大切なのか(Part2)について考えてみたいと思います。
はじめに : ブランド世界観のこれまでとこれから
D2Cブランドは、その名の通り、ダイレクトに顧客と繋がっています。そしてその接点は、「リアル」と「デジタル」に分かれています。また、それらは「ブランドが発信するもの」だけでなく、「共創されるものや、生活者が作り上げるもの」が含まれ、SNSの発達した現代では、後者の重要性が増してきました。顧客とダイレクトに繋がっていなかった、これまでのブランドは、ネーミングやロゴ、製品、パッケージ、CMや広告など、決められた枠の中での、一方向な世界観発信が、大半を占めていました。
しかし、D2Cブランドにとっては、オンライン上でのコミュニケーションや、生活者が話題にし、シェアしたくなるようなリアル体験、さらには、ブランドの持つコミュニティそのものが世界観を構成する重要な要素になってきました。
Part1 : 何が、D2Cブランドの世界観を構成しているのか?
下図は、D2Cブランドで特徴的な世界観の構成要素を表したイメージ図です。ブランドのパーパスを中心とし、デジタル・リアル上に様々なタッチポイントがデザインされています。特徴的なのは、パーパスを起点としたタッチポイントのデザインと新しいメディアの活用です。以下で、ブランドの世界観構成の2つのポイントについて説明していきたいと思います。
ポイント①:「パーパス」と「キーエクスペリエンス」が世界観を構成する
まず、D2Cブランドにとって最も重要なのが、ブランドの存在目的や社会的な意義である「パーパス」です。そして、パーパスに基づくビジネスモデルやサービス、ブランドのアクション自体が、世界観の重要な構成要素となっています。
例えば、
・自然保護のための活動がビジネスモデルに組み込まれている
・製品の購買が自動的に寄付に繋がっている
・製造プロセスやコスト構造の透明性が担保されている
・労働環境維持のための仕組みが公開されている
などです。
そして、世界観の構成要素としてもう一つ大切になるのが、ブランドの「キーエクスペリエンス」です。デジタル・リアル上を問わず、顧客にとって驚きや価値のある体験がブランドの世界観を左右しています。ユニークなブランド体験や、参加性を感じられる仕組みなどがこれに当たります。
例えば、
・コミュニケーションツールを用いた、共創型の新製品開発
・製品ではなく、ライフスタイルを提案する雑誌や映像の制作
・オフィスに招く、名刺を配るといった、ファンの社員化
・音声メディアを通じたBGMの提供やストーリーの共有
などです。
ポイント②:大切なのは、パーパスとキーエクスペリエンスのつながり
もちろん、上図にある活動をあらゆるメディアを通じて全てやればいいということではなく、ブランドごとで注力すべき点が異なってくると思います。ブランドのパーパスや、ターゲット/コミュニティのインサイト、競合や業界の常識との差別性などに基づいて、メリハリをつけてタッチポイントをデザインしていく必要があるでしょう。
「このアクションは、パーパスを体現しているか?」
「CXの中で、何をキーエクスペリエンスとするか?」
など、常にこうした問いをもとに、ブランドの世界観を構成していくことが大切です。
例えば、パーパスが、「旅の楽しさをすべての人に」であるとすると、「音声メディアで配信される、旅の道中楽しめるBGM」や、「日常生活の中で旅の楽しさを感じられるライフスタイル雑誌」などが、キーエクスペリエンスとなるでしょう。
また、例えば、パーパスが「香りで生活を豊かに」というブランドなら、「家で香りを試せるスターターキット」や「店頭での、持ち運べる香り袋の配布」といったことが、重要な体験となるのではないでしょうか。
このように、パーパスをもとに、「どんな人々に」「どんなメディアを通じて」「どんな体験を提供するのか」をデザインすることが大切です。
Part2 : 世界観を伝える際に重要なマインドセットとは?
では、これまで示してきた世界観の構成要素は、どのように伝えていけばいいのでしょうか?
ここでは、「D2Cブランドのメインターゲットであるミレニアル世代/Z世代に信頼され支持されるためには、どのような姿勢で、世界観を伝えていけば良いのか?」という視点で考えていきたいと思います。
ポイント①:パーパスの明示
ミレニアル世代/Z世代の若者は、地球環境問題や、ジェンダー、差別、これまで常識とされた習慣などに対しての問題意識が高い傾向にあります。そのため、ブランドが、地球視点、社会視点での大義や正義を持っているか、そして、それを明確な企業行動として発信/体現できているかが、ブランドが支持される上で必要不可欠な要素であると考えられます。
ポイント②:一貫性
また、彼らは、オンライン/オフラインを自由に往来し、様々なメディアにも接触し、膨大なユーザー発信の情報の中で生きています。そのため、それぞれのタッチポイントで見聞きし体験することがバラバラでは、信頼されるのは難しくなります。パーパスを伝えていく上でも、ブランドを支持してもらうためにも、一貫したブランドの姿勢が大切になるのです。
ポイント③:オープン/透明性
デジタル世界の発展で、ブランドと生活者が直接関わることができるようになったため、隠し事やウソはすぐに見抜かれ拡散されてしまいます。それぞれのタッチポイントで、ウソのないコミュニケーションを行なっていくことの重要性はさらに高まっているのです。そのため、D2Cブランドの中には、コスト構造やオフィス、従業員の労働環境などまで公開している企業もあります。
ポイント④:フラット/即時性
スマートフォン・ネイティブの彼らは、人生の大半を、いつでもすぐに、情報を取得発信し、友達とも会話できるという生活の中で生きてきました。彼らは、即時的な行動に慣れているとも言えます。また、現代の若者は、大人や世間に対する態度からも見えるように、人間関係へのフラットさを求めている世代でもあります。そのため、彼らにとっては、お客様は神様、といった姿勢より、友達に近い関係性や即時的なコミュニケーションの方が、居心地がいいのです。
ポイント⑤:遊び心
生活者を楽しませる情報やコンテンツの量は、特にデジタル上で増大し、そのライフサイクルも短縮化しています。そんな中で、生活者の心を捉え、楽しませる体験をデザインするのは、とても難しくなってきています。そのため、売り上げなどに直結しない新鮮で驚きのある体験や、エクストリームで唯一無二な体験など、非合理的とも思えるエンタメ性や遊び心が価値となってきたのです。
まとめ
今回は、D2Cブランドの世界観について、考えてきました。これまでのブランドの世界観の考え方にはない、構成要素が広がりを想像して頂けたのではないかと思っています。まず、基となるパーパスが重要であり、ビジネスモデルやサービス自体が世界観の重要な構成要素であること、そして、それらと整合性の取れたキーエクスペリエンスの設計の重要性を説明してきました。また、世界観を伝えていく上で、大切な5つの姿勢についても言及しました。これらの視点が、皆様のD2Cブランド開発の一助になれば、大変嬉しく思います。
次回予告
次回は、世界観を構成する要素の中でも重要となる、ブランドストーリーについて詳しく説明していきます。生活者が語りたくなるブランドストーリーとは何か、どうすれば魅力的なストーリーを作っていくことができるのか、などについて一緒に考えていきましょう。
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ライター紹介
山﨑健登 | 京都大学経営管理大学院にてサービスデザインを専攻。2018年博報堂に入社し、博報堂ブランド・イノベーションデザインに所属。イノベーションプラナーとして、未来洞察、デザインシンキングを生かした課題解決やサービスデザイン、様々な企業/商品/サービスのブランディングや新規事業開発に従事。その他、Ars Electronicaと協業したアートシンキングプログラムの提供や、企業ユニフォームのディレクション等も行う。