効率的に新しいアイデアを見つける「クラウドソーシング法」/USER INNOVATION LAB. レポートVol.5
こんにちは!
博報堂ブランド・イノベーションデザインの比留川と申します。
2020年に博報堂に入社した2年目で、主に企業の商品開発の支援を担当しております。
入社してからのこの1年。
日々感じるのは、「新しいアイデアを生むのってむずかしい・・・」「思考の幅を広げきれないなあ」ということでした。
特に新規事業開発をミッションとされている方で、同じようなことを思っていらっしゃる方は多いのではと思います。
本レポートでは、そういった方の強力な武器にもなる新アイデア開発の方法論「クラウドソーシング法」についてお伝えしていきます。
改めまして、本記事は博報堂と法政大学西川英彦研究室の共同で立ち上げましたユーザー・イノベーションの研究会「USER INNOVATION LAB.」の活動をレポートする連載です。
「ユーザー・イノベーション」「USER INNOVATION LAB.」の詳細につきましては以下の記事をご覧ください。
2月に実施した3回目となる研究会(以下、研究会#3)では、本ラボの共同代表であり、法政大学経営学部教授の西川英彦先生より、「クラウドソーシング法」について国内外の事例をもとにインプットいただきました。
今回は「効率的に新しいアイデアを見つける『クラウドソーシング法』」と題し、西川教授の講義内容から下記の3つに絞ってお伝えしていきます。
1.クラウドソーシング法って何?
2.クラウドソーシング法の4つのおいしいポイント
3.クラウドソーシング法の落とし穴
クラウドソーシング法って何?
クラウドソーシング法とは、ユーザー・イノベーションにおいてリード・ユーザーを見つけ出す手法の一つ。リード・ユーザーとは、「商業的に魅力あるイノベーションを起こす人」を指します。
リード・ユーザーについては、過去のレポートでも扱っていますので、合わせてお読みいただけると、より理解が深まると思います。
前回の記事で扱ったリード・ユーザー法は、企業が自社のイノベーション創発活動のために能動的にイノベーション特性のあるユーザーを探しにいくというものでした。
その対となるクラウドソーシング法は、企業のイノべーション創発活動にユーザー側から能動的に参加してもらう方法を指します。
(図:西川英彦研究室提供)
副業の一つとしてクラウドソーシングのサイトに登録しているという方も最近は多くいらっしゃるかと思います。
このクラウドソーシング法では、自社のオウンドサイトや第三者のクラウドソーシング専門サイトから生活者に呼びかけを行い、自主的に商品/サービスアイデアの立案や投票に参加してもらいます。アイデアコンテストの形式で行われることが一般的です。
最大のポイントは、限られた分野の人だけではなく、生活者に広く投げかけを行う点にあります。
アイデアを出す生活者は社内の専門家より圧倒的に多く、かつ異なるバックグラウンドを持つため、社内では考えてもみなかった切り口含め、効率的に多種多様なアイデアを集めることが可能です。
たとえば、10年かけても数学者が解けない問題を他の分野の専門家の方が解決してしまうことがあるように、分野外の知見の探索がその分野のブレイクスルーに繋がることがあります。
ちなみに日本でもいくつかの企業でこのクラウドソーシング法が取り入れられています。
たとえば某生活雑貨メーカーのヒット商品である、変形して体にフィットするソファや壁にとりつけられる棚もその一つです。
クラウドソーシング法の4つのおいしいポイント
続いて、従来どおり社内で製品開発するのに比べてクラウドソーシング法はどんな利点があるのか、という論点に移ります。
西川教授による某生活雑貨メーカーの製品開発プロセスの話をもとに、4つのポイントに絞ってご紹介します。
※以下でご紹介する内容は、西川教授や参考文献にあるその他の研究によるものであり、博報堂ブランド・イノベーションデザインによる調査結果ではありません。
1. クラウドソーシング法で開発した製品は、新規性が高い
(図:西川英彦研究室提供)
クラウドソーシング法を活用した生活者との家具の開発プロジェクトで、生まれた製品の新規性を上長に評価してもらい、定量化して比較するという実験を行いました。
すると、生活者が創造した製品のほうが、社内の専門家が創造した製品よりも、1.5倍ほど新規性が高かったという驚くべき結果が出たそうです。
2. クラウドソーシング法で開発した製品は、売り上げも大きい
(図:西川英彦研究室提供)
また、新規性が高いだけでなく、生活者が創造した家具製品のほうが、専門家が創造した製品よりも3倍売れたという結果が出ています。
さらに、3年後の累計売上高は5倍、累計粗利は6倍高くなっており、より中長期的に売れ続ける商品となることもわかりました。
3. 製品の失敗や在庫保有のリスクが減る
クラウドソーシング法では、生活者がウェブサイト上にアイデアを投稿したり、いいと思うアイデアに投票したりします。
多数の生活者を開発プロセスの初期から巻き込み続けることで、全くニーズがない製品を生んでしまうといった失敗や在庫保有のリスクを最低限に減らすことができます。
4. アイデア選定の労力が減る
クラウドソーシングのウェブサイト上には大量の製品アイデアが投稿されることになるわけですが、投票によってその評価も生活者にゆだねることで、アイデア選定の労力を減らすことが可能になります。
生活者の評価は参考になるの?と疑問に思われるかもしれませんが、生活者による評価は、社内の専門家による評価と差がないことがわかっています
クラウドソーシング法の落とし穴
ここまでの話を聞いて、「クラウドソーシング法って製品開発のリスクもコストも減らせる最高の方法じゃん!!」と浮かれていたのですが、そんなクラウドソーシング法にも落とし穴があります。
その一つが、クラウドソーシング法を活用する企業の多くが、アイデア募集に苦労しているという点です。
初回は生活者からアイデアが多数集まったものの、だんだんと集まりが悪くなり、プロジェクトが頓挫する、なんてこともあるようです。
実際、自社サイトでアイデアを募集する企業が月にどのくらいアイデアを集められているかに関する調査を見てみると、その中央値は月に1件。つまり、半数の企業は年間で12件以下のアイデアしか集められていません。
一方、年間で集まったアイデアの数が300件を超えるような企業は、全体のわずか1%ほどだそうです。それぐらい、多くの企業がアイデアの募集に苦労しているということです。
このアイデア募集における課題の解決法の一つが、顧客基盤のある外部のクラウドソーシングサイトを活用することです。
たとえば海外のクラウドソーシングサイトの一つであるInnoCentiveには、20万人が参加しており、 企業から依頼のあった課題のうち3割が解決されているという驚くべき結果が出ています。
ちなみに、その課題を解決された方々は、課題の分野から離れた専門分野の知識を持つ傾向があるそうです。
InnoCentiveでは課題の依頼企業を匿名にしているため、依頼企業の課題の分野以外のリード・ユーザーをひきつけるのだろう、と西川教授はおっしゃいます。
自社に合ったイノベーション手法の探索が大事
最後に、クラウドソーシング法に限らず、ユーザー・イノベーションを自社で取り入れることを模索する企業に対し、西川教授はこのように語ります。
ユーザー・イノベーションの手法の中で、どれが自社の商材や組織の特性に合うかを検証しながら進めることが大切です。比較実験をすることで、何が要因で成功/失敗したのかを明らかにすることができます。ぜひ実験的なマインドをもって取り組んでいってください。
以上が、ユーザー・イノベーションの手法の1つである「クラウドソーシング法」についての講義まとめになります。
本研究会は事務局の法政大学西川研究室と博報堂、そして参加企業6社が一緒に学び、それぞれ自社でユーザー・イノベーションをとりいれる方法を模索しています。
これは個人的な感想ですが、この6社の中でさえ、「若手の提案だと上長の承認を得るのが大変なんだよね」など意外と同じような悩みをもっていたり、異なる業界の企業のイノベーションへの取り組みからも学ぶことがあったりすることに気づきます。
「共創」という言葉をたびたび耳にしますが、一緒にプロジェクトをやらずとも、同じようにプロジェクトの成功をこころざし、アカデミアの知見や互いの失敗を共有し学びあう「共学」も、企業どうしの一つの協力の在り方なのではないかと思いました。
(要は「ユーザー・イノベーション・ラボ、最高!」ということです。(笑))
次回は、生活者イノベーターと対面
これまでの研究会では、イノベーションを起こすユーザーやそのアイデアを探索・活用する手法についてインプットしてきました。
次回は、生活者イノベーターを3名お招きし、「どんなクラウドソーシングのサービスだったらアイデアを投稿したくなる?」「新しい製品を自ら生み出すモチベーションって何?」など、実際のイノベーターの声をふかぼっていきます。わくわく。
またレポートしますので、お読みいただけますと幸いです!
(ついでにフォローもいただけると嬉しいです!!)
★社内だけでの製品開発に限界を感じている方、ユーザー・イノベーションを自社で取り入れてみたい、と興味がわいた方は、ユーザー・イノベーション・ラボ事務局(uilab@hakuhodo.co.jp)までお気軽にお問い合わせください。
<参考文献>
Dahlander, L., & Piezunka, H. (2014). Open to suggestions: How organizations elicit suggestions through proactive and reactive attention. Research Policy, 43(5), 812–827. https://doi.org/10.1016/j.respol.2013.06.006
ジェフ・ハウ(2009)『クラウドソーシング』早川書房
Nishikawa, H., Schreier, M., & Ogawa, S. (2013). User-generated versus designer-generated products: A performance assessment at Muji. International Journal of Research in Marketing, 30(2), 160–167. https://doi.org/https://doi.org/10.1016/j.ijresmar.2012.09.002
西川英彦 (2020). 新製品開発クラウドソーシングがもたらす複合的成果. 組織科学, 54(2), 4–15. https://doi.org/https://doi.org/10.11207/soshikikagaku.54.2_4
エリック・フォンヒッペル(2005)『民主化するイノベーションの時代』ファーストプレス