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(書評) 最近読んだ本からランダムに③---行旅死亡人、神仏、台湾

私の読書傾向には一貫性がなく何でも読むので、ご紹介する本も色々です。

★「ある行旅死亡人の物語」共同通信大阪社会部 武田惇志、伊藤亜衣(毎日新聞出版)

ある程度ネタバレしています。知らずに読みたい方はスルーを。

「2020年4月、兵庫県尼崎市のとあるアパートで、女性が孤独死---
現金3400万円、星形マークのペンダント、数十枚の写真、珍しい姓を刻んだ印鑑…。記者二人が、残されたわずかな手がかりをもとに、警察も探偵も解明できなかった身元調査に乗り出す。
…「行旅死亡人」が本当の名前と半生を取り戻すまでを描いた圧倒的ノンフィクション。」
(本書の帯より)


行旅死亡人…耳慣れない人が多いのでは? 私も本書を読むまで知らなかった。法律用語なので普通は縁がない言葉だ。
「病気や行き倒れ、自殺等で亡くなり、名前や住所など身元が判明せず、引き取り人不明の死者を表す法律用語。官報に公告される」
年間600〜700人もいるという。

これは、共同通信の記者が官報を見て桁外れの所持金に興味を持ち、同僚記者と二人で地道で綿密な取材を行って「不明の死者」の身元を明らかにするまでのノンフィクション。


近年、日本では独居中高年が急増し、それに伴って孤独死も増えている。
ただ、この老女の場合は残した金額が34,821,350円ーー約3400万円という大金だった。なのにボロアパートに40年も住み、大家の証言では40年間誰ひとり老女を訪ねて来ていない。人との交際はゼロ。暮らしぶりも質素というより困窮した感じで、60歳になっても工場勤務をしていた。その上、老女の右手指は全て欠損しており、身元を明かす書類等が極端に少なく、住民登録もしていない…全てが異様だ。
軽い気持ちで興味を持った記者も、あまりの異様さに困惑する。


死亡時は75歳と思われるが、大家はもっと高齢だったという。死因は病死だが、不気味さと事件性が濃厚…


記者たちは老女の本名と思われる珍しい姓を手がかりに捜索を始める。同じ姓の人をしらみつぶしに探して家系図を作っていく地道な作業だ。警察より綿密で細かい捜索が功を奏して老女の身元が判明するが…


「どこの誰か」が分かった後も、大きな謎は残る。大金の出処。なぜ年齢を偽っていたのか?  ある男性の存在。なぜ徹底して人を避けて暮らしていたのか? 小説なら名探偵が謎を全て解明してスッキリするが、現実と小説は違うんだなあ、と。頭の中は「?」だらけ。
まさに「事実は小説より奇なり」で、下手なミステリーより興味深く、読んでいる間ずっと目が離せなかった。
このルポは2020年にネット配信されてアクセスランキング1位になるほど話題になったとか…(私は知らなかった)。本書はその記事に加筆し、追記したものだ。


この本を読んで一番感じたのは、一人の人間の過去や人生行路を第三者が辿る作業は、それが一見平凡に見える一般人でも容易ではないということ。
必ずしも悪い意味じゃなく、誰にでも過去はある。他人には窺い知れない部分もプライバシーもある。人の人生は、そう単純なものじゃないのだ。

また、捜索活動には地道な努力だけでなく、タイミングや運も重要だ。事情を知る関係者が存命とは限らないし、故郷の町も刻一刻と変化する。この本でも、聞き込みで有力な証言をくれた故人の友人は、取材後に亡くなっている。…色々考えさせられるノンフィクション。

「…それでも人は生きているだけで、どこかにその足跡を残す。それもこの取材で痛感させられたことのひとつだ。
いや、死後でさえも人は、何かを残しうるのかもしれない。一人の死が二人の記者を、それから数多の人々を突き動かして、こうして一冊の本まで生んでしまったのだから」
(本書より)


★「神社仏閣は宝の山」 桜井識子(ハート出版)



世の中には神様、仏様の姿が見えて声が聞ける、いわゆる霊能者がいる。マスコミで有名な人もいるし、そういう人の書いた本も多数出ている。
私もその種の本は結構読んでいるけれど、「人としていかに生きるべきか」の精神論や「あの世の仕組み」等の真面目な内容が多い。


この著者は霊能者の祖父母を持ち、霊能力に開眼した人だが、一般の霊能者のイメージを覆す、庶民的で痛快な文章でファンの多い人。
普通のオバちゃん(失礼..(´ω`;)が、読者に代わって神様・仏様に疑問を尋ねるスタンスで書かれ、「私は特別」的な所や教訓を垂れるような所がなく、他の霊能者の本とはかなり雰囲気が違う。なにしろ「ひょ〜えぇ〜!」「くうぅぅ〜!」というノリなのだ。

たとえば神様との会話はこういう感じ。


…神様にいろんな話を聞いていて、ふと、
「私は麒麟(中国の伝説の神獣)を見たことがないです」と言うと、
「ワシも見たことはない」と言っていました。へぇ〜、そうなんだ〜、と新鮮な驚きでした。
「鳳凰はどうですか?」とお聞きしたところ、
「たまーに飛んでくる」とおっしゃっていました。
(本書より)


---楽しいタッチで書かれてはいるけれど、ふざけた気持ちで神仏に臨んでいるわけではないので、そこは誤解なく。

この本では関東の神社仏閣を訪れて、そこの様子と、神様、仏様たちと会話した内容が描かれている。プラス、山伏修行で有名な山形県の出羽三山での体験レポートもある。
関東地方の寺社を訪れる人には、そこに鎮座する神様、仏様の性質やご利益等が詳しく出ていて参考になるだろうし、他の地方の人も、知っておきたい神仏の知識が出てきて興味深い(関西地方の神社仏閣編も出ている)。


八百万の神のいる日本では、神様、仏様にも様々な性格傾向があり、厳格系、癒やし系、ひょうきん系など、人間と同じで百人百様なのが面白い。
眷属(神様の手伝いをする神獣)についても詳しく書かれている。

ただし、ここに書かれている神様、仏様の言葉を信じるかどうかは、読者が各自で判断すればいいと思う。この著者に限らず、チャネリング系のものは(国内外を問わず)全てチャネラーのフィルターを通して語られているので、自分の腑に落ちるものを信じればいいんじゃないかなあ。

お稲荷さんの話も多い。狸の神社もあります。


私は『山怪』の書評で「日本の山には何かがいる」と山の不思議や魔力について色々と書いた。著者によると、こういう理由なのだそう。

「…ここで山に入る時の大事なことを教えてもらいました。
 山岳系神様がいる霊山は、山の波動が高いため頂上近くまで行けばその途中で悪いものは消滅します。途中までの登山でも神様が「魔」を祓ってくれるので何の問題もありません。
 しかし、山によっては神様がいないところもあります。というか、こちらのほうが圧倒的に多いです。そういう山に入る時は、もし自分にかすかでも「魔」がついていたら、落としてから登山をするべきだそうです。なぜなら、ついているその小さな「魔」と深い山の「魔」が呼応するから、ということでした。魑魅魍魎が寄ってくる可能性があるというわけです」
(本書より)

鎌倉の大仏様は瞑想中だそうです



著者は前世では特攻隊員で、親友(の霊)と靖国神社で再会する約束をしており、靖国神社を訪れた。そこには自分の意志で成仏していない誇り高い英霊がまだまだ大勢いて、その英霊たちに成仏を説得するくだりは、日本人として泣けた。
また、子供が若くして亡くなる理由についての説明もあり、早世したお子さんを持つ親御さんが読んだら、心の重荷が軽くなるんじゃないかと思う。


…山頂の神様から見ると、人間は本当に小さい存在で、地面に張り付いて一生懸命生活しているんだな、と思いました。
 あの小さな田んぼでお米を作って、それを食べて、嬉しいだの悲しいだの言って、泣いたり笑ったり、あの小さな場所で生きているんだなぁ、しかも80年か90年しか生きられなくて、それが人間なのだな、としみじみ思いつつ地上を見ていました。
神様がいるところから見たらアリなどの虫よりも、もっともっと小さいのです。
 人間について考察していたら、いつの間にかそばに神様が来ていました。そして親鳥がその手で、雛をふんわり温かく守るような、抱きしめるようなそんな口調で言いました。
「だから慈しんでやりたい。守ってやりたいのだ」と
。(本書より)


他にも著書多数あります。


★「歩道橋の魔術師」呉 明益 (河出文庫)



中国文学を読んだことのある人はいても、現代の台湾文学はどうだろう?
台湾マニア以外では少ないんじゃないだろうか。
私も台湾映画は好きで観るけれど現代小説には疎い。これは川本三郎氏のエッセイで知った本で、著者は現代の台湾を代表する実力派作家とのこと。


何となく日本の昭和っぽさも漂う、少し切ないテイストの短編集で、村上春樹の昔の作品が好きな人は、たぶん好きな感じ。 この人は、そのうち大きな文学賞を穫りそうな気がする。

呉明益(ご・めいえき / ウー・ミンイー)
1971年台北生まれ。現代台湾を代表する小説家・エッセイスト。97年、短篇集『本日公休』でデビュー。おもな小説に、『眠りの航路』『複眼人』『雨の島』など。『自転車泥棒』で国際ブッカー賞最終候補。
(Amazonより)

舞台は昔、台湾に実在した大型ショッピングセンター。建物が歩道橋で結ばれていて、衣類、雑貨、電化製品、レコード店等、沢山の小売店が入っていて賑わったそうだが、現在は取り壊されている。ショッピングセンターといっても今風のお洒落なのじゃなく、ゴチャゴチャした市場みたいな所。
その歩道橋には物売りがいて、実際に子供たちの遊び場だったそうだ。


この本では歩道橋に出没するミステリアスな魔術師(奇術師)が、どの短編にも何らかの形で出てきて、登場人物たちの子供時代や青春時代に関わる。
といっても派手な魔法を使うわけじゃなく、ひっそりして影が薄い。
どの作品にも「死」の影が色濃く反映しているが、どこか幻想的な味わいで、現実と非現実が交わるような不思議テイストの作品が多い。


実は、私はこの作品自体よりも、川本氏の描く翻訳者の天野健太郎氏(47歳でガンのため逝去)の謙虚なお人柄と、翻訳への賛辞に興味を持って読んだ。というのも、天野氏の遺した、いかにも謙虚で恬淡とした次の言葉が心に染みたから…。
「三食をつましく作って食って、近所を散歩して俳句作って、あとは家にある本とCDを消化するだけの人生で別にいいのだが」
---惜しい翻訳者を亡くしたと思う。

★ 交流させて頂いているnoterの絵本の虫さんの新しい記事で、ハロウィーンの絵本について取り上げられています。その中で、拙著、及びコウモリについてもご紹介頂きました❤感謝(´ω`)❀ よろしければご一読を〜。


★今、街の本屋さんが苦境にあります。ネット書店、電子書籍等の影響で多くのリアル書店が閉店する中、小さな町でリスキーと思える書店を開業し、町民一体となって本屋を守ろうとする下の記事が印象的でした。
書店はただの小売店ではなく、文化を受け渡し、世代を超えた交流の場でもありますよね。書店がなくても生活には困らないかもしれない。その代わり、目に見えない大事なものが失われていく気がします。

閲覧ありがとうございました!


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樹山 瞳
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