小説|メルクリウスのデジタル庁の年末 第17話 天王星
ヘリオス・チームでのヘルプが終わった矢先に、またサラさんからテレパシーが入った。
「千佳、終わったばかりの所だけれど、もう一つお願い。ウラノス・チームの3次元の転生者の記録を見てあげてほしいの。CETROの隊員で、テラに転生していた魂で、やはりウラノスの波長に合わせないといけないそうで・・・まったくもう、今日に合わせて皆帰還してくるなんて、どうかしてるわ!」
忙しいサラさんは、半分切れかけていた。確かに今日のテラは年末の満月の日。魂の記録の閲覧者が特に多い日はあまり良くないタイミングだ。
私はヘリオス・チームから戻るその足でウラノス・チームの島に行った。
ウラノス・チームは責任者のソユンさんを筆頭としたチームだ。ウラノスの人達もヒューマノイドではない。ソユンさんも時々人間の姿になってくれるが、私は笑顔が素敵なソユンさんの姿を見るのが大好きだった。メンバーの一人のチャンさんは元気なことでは人一倍。ウラノスとネプチューンの転生経験が豊富で、人にアドバイスをすることがとてもうまい。活気にあふれたこのチームのデスク周りは明るい紫色でまとめられている。
早速責任者のソユンさんがやってきた。
ソユンさんが笑顔で近づいてくるのがわかる。ペリスピリット越しに見えるその姿は、その人の気分によって七色に変わるプリズムの様だ。カラフルで透き通ったその姿は、息をのむように美しい。
「千佳、ありがとう!さあ座って。さっきのCOICAとは違って、今回は3人だけの記録よ。無茶は言わないから、フォルダーを整えて、鍵をかけて、ウラノスの8次元に合わせてね。リーダー格の人のフォルダーはチャンがいるから、必要な時に声をかけて一緒に作業をしてね」相変わらず気さくな人だ。
このフォルダーも報告書の一環となるようだが、提出先はウラノスとの事。ヘリオスに提出するフォルダーとはまた勝手が違うようだ。
私は自分の席からオニキスを持ってきて、自分のタブレットで作業を始めた。CETRO(コスモ貿易振興機構)は、経済面で各惑星の支援をするのだが、地上にいる間はチャリティなどの活動に尽力して、地元の人達を経済的に支える活動を行ってきている。3人とはいえ、その魂の内容はずっしりと重く、フォルダーも重いものばかりだった。
私はフォルダーに右手をかざして、まずはフォルダーを強化していった。脆いフォルダーを何とか整え終わった。
次は次元を上昇させていくのだが、ウラノスのバイブレーションはヘリオスのバイブレーションと少し異なる。陽気なところは似ているのだが、あえていうなら勢いのある元気さが必要だった。
私は先ほどヘリオス・チームで使ったタンビュライトが使えるか、試してみた。しかし、うまくいかない。
それを見ていたチャンさんが助言をくれた。
「タンビュライトは天使系の石だから、ここではスーパーセブンの方が良いよ。持ってなかったら貸してあげる。石のバイブレーションが少し違うでしょ?同じ8次元でもフォルダーのバイブレーションが少し違うんだよね。だからヘリオスや他の8次元の惑星のフォルダーと区別ができるんだ。慣れてくれば、すぐに分かるようになると思うよ。」
石のバイブレーションは確かに違った。高次元ともなると、微細な違いが大きな違いとなって現れる。私はスーパーセブンをチャンさんから借り、フォルダーの次元を上げていった。隊員2人の分を終わらせて、最後に隊長のフォルダーに取り掛かってみると、先ほどのCOICAのサブリーダーと同じく、自分一人ではパワーが足りない。私は思い切って祈りを捧げつつ、次元の上昇を試みた。
それを聞いていたチャンさんが、楽しそうに笑った。
「うん、すごくフォルダーに合っている祈りだね。でもそこまで強い祈りは、鍵をかけたあとでもいいんだよ。次元上昇で祈りが必要な場合は、南無妙法蓮華経だけでも十分だから。鍵をかけた後でフォルダーの強度を確認してみて。すごいフォルダーができているだろうなあ。プロテクション抜群な。」
無駄に大きな祈りを選んでしまったようだ。
ソユンさんに鍵を確認する。メタトロンキューブ神聖幾何学模様とフラクタル幾何学模様というところまではヘリオスと一緒だが、ウラノスでは曼荼羅を使うとのこと。
情報管理者上級試験で勉強したことがあるとはいえ、さすがに細かいところまでは忘れてしまっている。私はマニュアルを見たり、地上のインターネットが使える三台目のタブレットを使って曼荼羅を実際に見ながら鍵を工夫して作っていった。絵柄が入る鍵を使っているのはおそらくウラノスだけだろう。これなら強度の高い鍵が作れるはず。
チャンさんがまた助言をくれた。
「自分の絵をかいてごらん。人の描いた絵はなかなかコピーすることができないし、少しのニュアンスでも違ったものになる。あ、でも、さっきの祈りでフォルダーが強烈に強くなっているかもしれないから、ほどほどにね。あまりプロテクションが強すぎると、報告書を開ける側の経済産業省も苦労することになるだろうから」チャンさんはそう言って、また屈託なく笑う。
私はわくわくしながら鍵を作り、フォルダーにかけた。これで情報漏洩を防いでください。と心の中で祈りながら。
最期に念のためフォルダーの強度を確認してみた。強度はばっちり、というか、硬すぎるくらい硬くなっていた。一度鍵を外して、中を点検してみる。フォルダーはきしむように開いた。中の音声や映像ファイルは無事だった。私はもう一度きしむフォルダーを閉めて鍵をかけ、いつもの祈りをささげた
「天と地の法則に逆らわないのであれば、このフォルダーの中身が守られますように」
(続く)
(これはフィクションです。出てくる人物は実際の人物とは一切関係がありません)