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水野はつね
2023年8月4日 07:19
雨がちな故郷に老親を置き去ってきたまだ萎えてはいない腕をさすって(安息角だ、と思う)そこは蚕の翅のように柔い身丈からずいぶん高いところに向日葵を見てまだ夏になんてなってはいけないでしょう迷い込んだ先、いつまでも夜啼鶯たちは眠らずにさえずっているいつか夕陽を観に行った浜辺鯨が傍を泳いで大きく深呼吸をしたはぜるように吹き上がる潮日差しにめまいがする(この個体は ど
2022年4月7日 22:29
いっそわきまえていたつもりでいて足元に流れ込んだ泉の目の覚める温度いやいやながらに歩きはじめる行かなくたっていい道を南国の花の香は勇ましくすらあるひと噛みの甘さをそこから拝借するたび色づく口もとが他愛ない花木のあいだ千切るたび取り落としてもっとさいわいに顔を上げていられればよかったが虫たちの歌う音階がそこかしこで燃えてもがく指先をときどき焦がしていく(ねえ、針を運んで
2021年10月10日 23:07
漱いだ口から淡紅いちじくの色を受け止めきれずに吐き出した口紅を食らって生きることになんの疑いも持たなければよかった拒んだのはいつだったかなぜだっただろうかガーデニア、雨に焦がれるあの白い花がわたしの鼻先を撲りつけるたびガラス越しの影が走っていく校舎裏で泣いていた日も庭のリラの木がはじめて咲いた日も雨を浴びて誰もいない坂で歌った日もいつも輪郭をあやふやにして誰か
2021年5月19日 22:41
語りたい景があふれているときのかえって静謐な(しんとした幼子にいつか来る死を思わず噛みしめてしまったような払い落とせない寂寥の水時計、わたしの足元からとめどなくせせらぐ川かわせみが飛びたってあ、と思うときには大きな獲物を連れ去って残されたものだけがただ透いている果てしのないかべがみの白に迷ってそこにそっと額を当てる迷う先にひとつしたたり落ちるとすればそこにはどれほど純