タンゴに学ぶ"揺れ"の科学 - 身体コミュニケーションの新パラダイム
昨日のポスター発表を無事に終えることができました。
この研究は、10年に渡る1,500回以上のレッスンで出会った500名を超える生徒の皆様、そして331名もの方々にご協力いただいたアンケート調査など、実に多くの方々のご支援とご協力があって初めて完成することができました。
研究を通じて見出された「揺れ」という現象の可能性を、支えていただいた皆様へのお礼の意味も込めて、こちらでシェアさせていただきます。一人でも多くの方にこの研究の意義が伝わることを願っています。
それでは、ポスター発表の内容をご紹介させていただきます。
1.研究の原点
私は10年以上、タンゴダンサーとして、そして研究者として「揺れ」という現象に魅了され続けてきました。1,500回以上のレッスンと500名を超える生徒との関わりの中で、タンゴが持つ不思議な力の本質を科学的に解明したいと考え、この研究をスタートさせました。
きっかけは、私のタンゴへの疑問でした。
「なぜ、何も言葉を交わしていないのに、相手の動きが分かる?」
「なぜ、不思議な一体感を感じる?」
「なぜ、タンゴを踊った後、心も体も軽くなる?」
これらの声は、タンゴを通じた身体コミュニケーションに、言語を超えた何かが存在することを示唆していました。
2.「揺れ」の発見
研究を進める中で、人体の構造そのものに着目しました。人体は本質的に不安定な「逆三角形」の構造を持ち、常に微細な「揺れ」を生み出しています。この「揺れ」こそが、タンゴにおける深い相互作用を生み出す鍵だったのです。
3.実験デザインとその結果
実験はシンプルな2段階で設計しました。
1. 個人での「揺れ」の認識実験
最初は基本的な立ち方から始めます。両足を閉じた状態と開いた状態で、体の揺れがどのように変化するか。私自身、この時に閉じた状態と開いた状態での身体の変化にとても驚きました。
2. ペアでの「揺れ」の共有実験
これは最も興味深い発見につながりました。2人が向かい合い、組んで行うとタンゴを踊ってると同じような強い相互作用が生まれたのです。
この2種類は私が主催するタンゴスタジオで10年間タンゴ初心者へ行いました。難しいと言われるアルゼンチンタンゴレッスンがここからスムーズにタンゴを習得していきました。
3.データが語る事実
タンゴダンス331名を対象とした大規模調査の結果は、
私の予想を遥かに超えるものでした:
- 96%がパートナーとの「揺れ」を感じる
- 99%が相手との一体感を体験
- 98%が非言語コミュニケーションを実感
- 97%が音楽との一体感を感じる
- 98%が身体への意識の変化を報告
特に印象的だったのは、年齢や性別、ダンス経験に関係なく、ほぼすべての参加者がこの現象を体験できたことです。
4.研究が示唆する可能性
この研究から見えてきたのは、人体の「揺れ」が単なる物理現象ではなく、深い相互作用を生み出すコミュニケーションツールとなり得るということです。実際、参加者の体内ではセロトニンやオキシトシンといった幸福ホルモンの分泌が確認され、心理的な効果も実証されました。
5.今後の展望
本研究で見出された「揺れ」を通じた身体コミュニケーションの知見は、以下のような分野での可能性が考えられます:
1. 教育分野での可能性
- 子どもの感受性・共感性を育む体験的学習への応用
- 特別支援教育における非言語コミュニケーション手法としての検討
- 教育現場での新たなコミュニケーション方法の一つとして
2. 医療・福祉分野での可能性
- 高齢者ケアにおける新たなアプローチの一つとして
- リハビリテーションでの補完的手法としての検討
- メンタルヘルスケアへの応用可能性
3. ビジネス領域での可能性
- リーダーシップ開発における新たな視点として
- 対人コミュニケーションスキル向上への寄与
- 組織内コミュニケーションへの活用
4. 社会全体への可能性
- 世代間のコミュニケーション促進
- コミュニティの活性化
- ストレス社会への対応
そして、ダンスの踊り方やスポーツのパフォーマンスアップ、ケガの予防など
これらの可能性を探るため、今後は各分野の専門家との対話を進めながら、「揺れ」の科学がもたらす潜在的な価値について、さらなる研究を重ねていきたいと考えています。
6.最後に
この研究は、タンゴという一つのダンスから始まりましたが、人と人とのつながりの本質に迫る大きな可能性を秘めていると確信しています。今後も研究を続け、より多くの人々の生活に貢献できる知見を見出していきたいと考えています。
ご興味をお持ちの方は、より詳細なデータをご覧いただけます。
また、実践レッスンも定期的に開催していますので、ぜひご参加ください。
研究者:YOSHINOBU GYU NAGAI
この研究について、みなさまからのご意見やご質問をお待ちしています。また、共同研究や実践の場でのコラボレーションにも興味があります。お気軽にご連絡ください。