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【読書メモ】サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠

なぜ現代の組織で働く人々は、ときとして愚かとしかいいようのない集団行動をとるのか。

なぜ我々は時として自分に何も見えていないことに気づかないのか。

世界の金融システムがメルトダウンし、デジタル版ウォークマンの覇権争いでSonyがAppleに完敗し、ニューヨーク市役所が効率的に市民サービスを提供できない背景には、共通の原因がある。

イギリスの経済ジャーナリスト、ジリアン・テットが導き出した答えが、サイロである。
複雑化する社会に効率的に対応するため、組織の細分化と専門特化が進み、誰も自分のサイロ以外で何が起きているか知らず、知ろうともしない。そんな仕事のやり方を当たり前のものと捉え、思考停止し、別のやり方があるのではないかと考えることもしない。そうした現象を著者は「サイロ・エフェクト」と呼ぶ。

本書では、サイロのために組織に属する人々がどれほど愚かな行動をとるか、また企業や組織がどうすればサイロから生じる問題を避けられるかを考察している。

組織のサイロ化を全否定しているわけではない。複雑化する社会で効率的に仕事を遂行するためには、組織の専門化は不可欠であるとも述べられている。その上でサイロの弊害をどのように克服していくか。

自分や組織が無意識のうちに受け入れている分類法とはどのようなものか。そこで見逃されているチャンスやリスクはないか。組織の効率化、高度化というサイロの効用を認めつつ、その弊害をいかにコントロールするか。サイロを打破すると思いもよらない形でイノベーションが生まれる。自らの人生に横たわる境界を越えるというリスクを進んで取ろうとする人には、思いもよらない恩恵が返ってくる。突然シカゴ市警に転職しようと思いたったオタク気質のデータ技術者でさえ(あるいは、そんな技術者だからこそ)得たものは大きかった。

"The Silo Effect", Gillien Tett

報道機関が(記者ではなく)読者のモノの考え方に応じて仕事の方法を見直したら、メディアはどう変わるだろうか。メーカーが(営業マンやデザイナーではなく)消費者の価値観に応じて組織体制を見直したら、今と同じ商品を売るだろうか。 要するに重要なのは、ビジネスプロセスやサービスの見方を上下左右にひっくり返してみると、組織のモノの考え方が変わるかもしれない、ということだ。あるいは、どのような成果が生まれるかわからなくてもリスクを取ろうという姿勢が組織に浸透していれば、同じ効果が期待できる。脳神経センター長のモディックは2013年5月、自らのオフィスでこう語った。「数年前クリーブランド・クリニックで、自分たちの事業モデルを広めるためのコンサルティング事業を手がけたらどうかという話が出たが、すぐにばかげたアイデアだと一蹴されてしまった。われわれのシステムをカネで買ったところでサイロを破壊することはできない。システムは自ら創らなければ意味がない。新しいシステムを構築するプロセスやそれについて議論することを通じて、組織は変わっていくのだ」

"The Silo Effect", Gillien Tett

金融業界で硬直的なサイロが形成されると、市場や価格の歪みにつながり、目端の利くトレーダーにとって、それは利益を得るチャンスにほかならない。それは莫大な見返りをもたらすことが多かった。特に目新しい発想ではない。 成功している投資家の取引戦略を分析すると、境界を自由に行き来したり、サイロを打破しているケースが多い。イノベーションはたいてい境界で生まれる。新しいタイプのチャンスや課題の存在を示唆するパターンが見つかるのもそこだ。ビジネスの世界で境界を越えてみると、人はクリエイティブになる。金融も同じで、トレーダーが市場、資産クラス、制度の境界を飛び越えたり、既存の境界に疑問を抱いたりすると大儲けにつながることが多い。

"The Silo Effect", Gillien Tett

サイロを破壊するのは守りの手段とは限らない。 攻めでもある。社会が使っている分類システムを意識すると、ライバルに対して優位に立てることもある。サイロにとらわれている企業があれば、それは別の誰かのチャンスになるかもしれない。

「サイロは大歓迎さ。少なくとも他人のつくるサイロはね。それによって僕らが稼げるんだ。」

"The Silo Effect", Gillien Tett

組織が大きくなると官僚主義や分断化が進む。これは避けられない。そうなると愚かな行動に走りがちになる。サイロは歪んだインセンティブを生み、個別の部署の利益では理にかなっているように見えて、マクロレベルではとんでもなく愚かなことをしでかす。

どう対処するのが良いのだろうか。多くの事例を見てきた筆者の意見をまとめると下記である。

  • 大規模な組織では部門の境界を柔軟で流動的にしておくことが好ましい。

  • 組織は報酬制度やインセンティブについて、集団としてのモノの考え方を促したければ、協調重視の報酬制度をある程度取り入れなければならない。

  • 全員がより多くのデータを共有するできるようにし、自分なりに情報を解釈し、そうして生まれる多様な解釈に組織が耳を傾けるようにすること。

  • 組織が使う分類法を定期的に見直すこと。継承した分類システムを無批判に受け入れがちだが、それが理想的なものであることはまずない。時代遅れになっていたり、特定の利益集団の役にしか立たないこともある。

大企業に本当に必要なのは、スペシャリストのサイロの間を行き来し、個々のサイロの内側にいる人々に他の場所では何が起きているかを伝える文化の翻訳家なのかもしれない。

"The Silo Effect", Gillien Tett

現代社会において、専門化と集中が好ましいと見られている。そんな中で他部門の人々との交流、部門間の人事異動、社員をイノベーションの旅へ送り出すといった時間のかかる、目先の利益につながらない活動を正当化するのは難しいだろう。現代社会には効率化、説明責任、有効性の名の下に、サイロに分化していこうとする傾向がある。我々の世界は効率化を追求しすぎるとかえってうまく機能しなくなる。細分化されたスペシャリスト的行動パターンが支配する世界では、往々にしてリスクやチャンスが見逃される。

"The Silo Effect", Gillien Tett

社会の分断、サイロ化は一段と進んでいる。自らの価値観を絶対視し、そこに当てはまらないものを異端と見なし、無視あるいは攻撃するというのは、サイロ・エフェクトの最たる例だ。世界の二極化やSNSの炎上案件も、自らと異なる価値観への鈍感さ、すなわちサイロ化によるものではないか。

サイロにコントロールされず、自らサイロをコントロールするための筆者の助言が最後に述べられている。

サイロにコントロールされるのか、自らサイロをコントロールするのか。自分が日々、無意識のうちに身の回りの世界をどのように区切っているのか、思いを巡らせてみる。それから想像力を働かせ、別の方法はないか考えてみよう。

"The Silo Effect", Gillien Tett


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