【読書メモ】Anthro Vision(アンソロ・ビジョン) 人類学的思考で視るビジネスと世界
Making the strange familiar. Making the familiar strange.
未知なるものを身近なものへ。身近なものを未知なるものへ。
人類学者からFinancial Times編集者へと転身したジリアン・テット(Gillian Tett)による、ビジネスや人生への取り組み方について異なる考え方を促す示唆に富んだ本である。彼女の主張は、人類学(Anthropology)の原理をビジネスや日常生活に応用することで、個人や組織が人間の行動をより深く理解し、より良い意思決定を行うことができると主張している。
著者のサイロ・エフェクトを先日読んでとても面白いと感じ、本書も手に取ったのだが、こちらも非常に参考になった(早速、著者をAmazonでフォローしました)。
なぜそもそも人類学的思考がビジネスに必要なのか?と思いながら読み進めていくと、現代社会の知的ツールが機能不全に陥っていると彼女は指摘している。
欧米や日本などの先進社会で生まれ、そこで教育を受けて育った人々は、自分の、自分たちの思考方法や行動様式を当然のものであり、誰もがそれを採用していると無意識に信じているが、そんなことは全くない。我々の思考や行動にはバイアスが多分に含まれており、それが視野を狭めている。
他者も自分達と同じように考えると考えるのは危険である。一例として日本のキットカットの事例も登場する。ネスレグローバル本社(スイス)の売り方(Have a break. Have a KitKat.)が日本では通用していない中、語呂合わせ(きっと勝つ)で受験のお守りとして使われていると気づいた日本人社員が日本独自の営業戦略を考案し、ブレイクを引き起こした。重要なのは、先入観を排して、消費者のいる場所でその言葉に耳を傾けること、多数派と違う視点でモノを考えることだ。
他にも、アメリカ人と中国人のテクノロジーに対する考え方の違いも言及されている。
サイロ・エフェクトほど売れてはいないようだが、個人的には読む価値のある本だという印象だった。
本書の構成と筆者の主張は非常にシンプルである。
・第1部:未知なるものを身近なものへ
見知らぬ他人を観察する。知らない人が何を大切にしていているのか。データだけでは説明がつかない物に対して、アンソロビジョンが有用である。
・第2部:身近なものを未知なるものへ
文化人類学的な素養があると、自分の理解が進む。身近であるが故に見えなくなっているもの、疑うことすらしなくなっていることは多い。
金融業界やテック業界など専門性の高い業界において、その世界独特の価値観の中で過ごしていると、内部のメンバーはその影響を受けていることを認識できない。
自分や、自分の組織を未知なるものと捉え理解しようとする姿勢、アウトサイダーの視点が有用である。
・第3部:社会的沈黙に耳を澄ます
他人を理解し(第1部)、自分を理解する(第2部)。そして目の前にあるのに見えていないものに気づき、加速する時の流れの中で、社会の変化の背景を理解する試みがアンソロビジョンである。
当然だが、具体的に何をどうすれば良いかは書かれていない。自分で考え、行動せよということだろう。書かれているのは、解くべき課題をどのように見つけ、どのようにアプローチするかという点についてのアドバイスである。