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My name is ホタルイカ!

春ですね。

「あなただあれ?おなまえは?」
「…ォァゥィォ」
「ホタルイカ?あなたホタルイカっていうのね!」

と、さすがに、こんなメイとトトロみたいな出会いではなかったが、大学一年生の春のお話を。


自覚はなかったが異常に早口な私は、新歓コンパで自己紹介した時

「え?ホタルイカ!?」と聞き返された。

確かに、末尾を除いて母音が同じだった。それまで18年間考えたこともなかったが、私の名前はホタルイカに似ている。



残念ながら、その友達とは卒業後連絡を取り合うこともなく恐らくもう会うことはない。しかし、ホタルイカが旬の時期になると、ひとりうふふとその日のこと、彼女のことを思い出す。きっとこの先も忘れない気がする。

言った本人は全く覚えていないだろう。早い段階で忘れている可能性が高い。こちとらホタルイカのこと、他人とは思えなくなったというのに。


春の訪れを告げるホタルイカ。彼女と出会った時期と被ることもあり、あの入学したての頃のキュッとした気持ちも同時に思い起こさせる。

誰一人知り合いのいない大学への進学。進学に伴い、県外の全く知らない土地で初めての一人暮らしが始まった。

着なれないスーツに身を包み、少し肌寒い風に桜吹雪が舞っていた入学式のこと。

希望や期待より遥かに不安や緊張、孤独感が上回り、周りに後れを取らないように、しっかり着いていかなきゃと気の張る毎日だったこと。

あの時の何とも言えない気持ち。あのキュッとした気持ちを思い出す。


でも私はもう知っている。

そうやって緊張して過ごした日々のことも、そのあと「ホタルイカ?」と聞き違えるゲラな彼女と友達になることも。

そして、生涯付き合っていけるような友達や先輩に出会えることを。

そんな緊張の日々に続く楽しい日々を、私は知っている。


春は苦手だ。

新しい出会い、新しい生活。

人見知りには試練の多い季節だ。


でも、その出会いの数々が今の私を彩る素敵な出会いになってきた。

いい歳になってやっとそう思えるようになってきた。


別れと出会いの季節。


初めて会う人に、私はホタルイカです!と元気に挨拶しようと思う。

(え、怖いわそれ)



おわり

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